58話 ハーフトラック奪回
今回はかなり長くなってしまいました。
固まってしまった3人だが、なんとタクが言葉を絞り出す。
「あの、実は最初に銃を選ぶときにもケイとソーヤにもっと軽い銃にしないかと言われたんですよね。でもお店の人に勧められてつい……」
ああ、そういうことね。
高い銃を勧められて買わされたんだ。
「君ら、特にケイなんかはもっと軽い銃じゃないと無理があるでしょ。どうしても自動小銃がいいっていうんなら“モデル1カービン”なんかがいいと思うよ。威力はライフル弾ほどじゃないけど反動は少ないし、なによりその銃よりも軽いよ。それにその銃よりよっぽど値段も安いし」
俺の言葉を聞いたケイとソーヤがタクを睨みつける。
すると罰が悪そうにタクが俺に言葉を返す。
「そ、そうですか。でも、3人分の銃を買い代えるほど資金に余裕がもうなくなってきてるんですよ」
「それならその自動小銃を売ればそこそこの値段が付くと思うよ」
「これ売れるんですか?」
「ああ、その銃は結構な高級銃だから割と高く引き取ってもらえると思うよ。でもそうだな、3丁売ってもモデル1カービン2丁分くらいの金額ってとこかな」
「あ、それなら大丈夫です。僕はこの擲弾筒がありますから!」
嬉しそうに擲弾筒をペシペシと叩くタク。
「そういえば、タクの擲弾筒の腕前を見せてもらってもいいかな」
俺の言葉にタクが嬉しそうに擲弾筒の準備を始める。
「見ててください!」
そう言って30mほど離れたところから手榴弾を発射して見せてくれた。
すると手榴弾は1発で狙い通りの的に当てやがった。
近くに落としたんでなく、当てやがったのだ。
その時のタクのどや顔が夢に出てきそうだ。
そのあとはとりあえず拳銃を使った戦闘訓練やハンドシグナルなどを教えて、数人での戦闘行動の仕方などを教えた。
そして、さてそろそろ帰ろうかという時になって事件は起きた。
ハーフトラクックまで行こうとしてその方向を見たんだが、俺の視界にあってはならないものが見えた。
緑色の肌をした小さな生き物。
ゴブリンだ。
ハーフトラックに何匹かが群がっていいる。
やばいな。
俺は後ろにいるガキンチョ3人に姿勢を低くするようにハンドシグナルで知らせる。
3人はすぐに姿勢を低くして瓦礫の隙間からハーフトラックの方を覗き込む。
多数のゴブリンを目にしたケイが、思わず大きな声を上げそうになるのをソーヤが口をふさいで防いだ。
「ご、ごめんなさい。ちょっとびっくりしただけだから。もう大丈夫」
ケイが申し訳なさそうにうつむく。
「ここから見る限りだと4~5匹だ。でもゴブリンにしては装備がいいな。でもこの数なら俺達でもやれるだろう。どうだ、3人の意見は?」
俺の意見に3人とも黙ってうなづく。
ハーフトラックにはカギが付いているからエンジンは掛けられない。
しかし34型多用途機関銃は非常にまずい。
絶対に奴らに渡したくない。
ゴブリンが全員ライフル銃を持っているというのが驚きだが、今はそれどころではない。
ハーフトラックの機関銃は前方にしか撃てない銃架に据えられている。
それ以外の方向へ撃つには銃架から取り外すしかない。
ならば後方から攻めようということになり、ガキンチョ3人はハーフトラックの斜め後ろ、4時に当たる方向に陣取って攻撃。ちょうど隠れられる瓦礫の塊がある。
そして俺はと言うと、1人迂回してこの建物を囲っている塀の向こう側へと出て、ハーフトラックの真後ろから攻撃する作戦だ。
しかしハーフトラックが壊れるのは避けたい。
ガキンチョにそれだけは勘弁してほしいと泣きつかれたからだ。
なので手榴弾を投げ込むのは避けなければいけない。
これは辛い。
ただでさえゴブリンの装備がいいのに、手榴弾か使えないとなるとどうすればいいのか。
愛用の短機関銃がないかから突撃は難しい。
軽機関銃を担いで突撃は俺の体格からいってもさすがに無理がある。
しかし幸いな事にゴブリンはハーフトラックに夢中すぎて、周囲の警戒などお構いなしと言った感じだった。
俺は重い軽機関銃を背負って一旦塀の外へと出る。
そして塀沿いに姿勢を低くしながら進む。
身を隠す場所はたくさんある。
これならば俺の接近には気付かないだろう。
俺は機関銃を据えるのに良い場所を見つけて早速撃つ準備をする。
すると急にゴブリンが騒ぎ出してライフル銃を構えだす。
え、どうした?
そう思っているうちにゴブリンとガキンチョ共が戦闘を始めてしまった。
俺が撃ち始めるまで撃つなと言っておいたのに!
くそ、こうなったらしょうがない。
俺は軽機関銃はその場に置いて、代わりに拳銃を手に握りしめて、そおっと警戒しながらハーフトラック後方から近づく。
ゴブリンはガキンチョとの戦闘に夢中で、俺の接近には全く気が付かない。
俺はゴブリンのいる位置を確認する。
ハーフトラックの下にライフル銃を持ったのが2匹。
もう1匹がタイヤの後ろに隠れライフル銃を撃っている。
34型機関銃の射撃音は聞こえない。
よし、ここまでは想定内だ。
ゴブリンの身長だと車内から顔を出せないはずだから、恐らく車内には1匹もいないと予想した。
車内にいたらライフル銃を外に向けて射撃できないからな。
ん?
と言うことはもしかして……。
そうだった。ゴブリンの身長だと機関銃の位置まで背が届かないな。
初めから機関銃で撃たれる心配はなかったのだ。
俺は接近しながらいろいろと姿勢を変えて他のゴブリンを探す。
あと2匹はいるはずなんだが。
いた。
ハーフトラックのちょっと先にある崩れた塀の後ろに2匹が隠れている。
ゴブリンが持っている銃、5匹とも同じ種類のライフル銃だ。
ゴブリン製のレバーアクション式のカービン銃。
全員が一緒の銃って、やっぱり最近のゴブリンの動向が変だよな。
さて、どうしようか。
拳銃の距離じゃないんだよな。
短機関銃があれば一網打尽なんだが。
ええい面倒臭い!
車体下なら大丈夫だろう。
俺は手榴弾をハーフトラックの下へと投げ込んだ。
ボフンという音と共に砂塵が車体下から巻き上がる。
それと同時に爆風で緑色の塊が3つひっくり返る。
車体下にいた2匹はピクリとも動かない。
タイヤの後ろにいたゴブリンは右足を怪我したようだがまだ歩ける。
びっこを引きながら仲間の方へと逃げる姿が見えた。
俺は容赦なくその背中に弾丸を2発ぶち込む。
タクが大声でなんだか騒いでいるが今はそれどころではないのだ。
俺はハーフトラックへと飛び乗って真っ先に34型軽機関銃にとりつき、その銃口を残りのゴブリン2匹に向ける。
銃口の向けた先にはゴブリン2匹が驚いた表情でこちらを見ている。そして俺と目が合うと慌てて手に持ったライフル銃をこちらに向ける。
しかしもう遅い。
俺は引き金を引いた。
物凄い発射速度で弾丸がゴブリン2匹に吸い込まれていく。
それと同じ数だけの空の薬莢がバラバラと床に落ちて音を立てる。
やばい撃ちすぎたと思って引き金の指を緩めるがその時すでに遅く、ゴブリンは見られた有様でなくなっていた。
事が終わった俺は他にゴブリンがいないか周りを確認していると、タクを先頭にガキンチョ共が文句を言いながらこちらに向かってくる。
俺が手榴弾を車体下で爆発させたことに怒っているんだろう。
壊れていなければいいんだけど。
どこか壊れて走行不能だと俺も困るからな。
「いやあ、すまんすまん。でもさ、お前らが作戦通りに動かないからこうする他なかったんだよ」
本来は俺が撃つまで彼らは攻撃しない作戦だった。
しかし俺の弁明は火に油を注ぐ形となって、3人の怒りは収まらない。
敵に見つかってゴブリン側が先に撃ってきたから自分たちに責任はないと。それよりなぜ手榴弾を使ったんだと言い寄ってくる。
とその時、距離にして300m位先だろうか。
物陰から物陰に移動する人影を複数発見した。
「おい、何か接近してくるぞ。ゴブリンの仲間かもしれない。俺の軽機関銃とゴブリンの装備を回収してすぐに乗り込めっ、ぐずぐずするなっ」
俺の声にちょっとひるんだ3人だが、慌ててゴブリンの装備と俺の26型軽機関銃を回収してハーフトラックに乗り込んだ。
「ソーヤは運転席に入ってエンジンを掛けて。ケイは後ろを見張ってくれるか。タクは銃座について俺が合図するまで撃たないように」
俺は3人に指示を出して双眼鏡を覗き込んでつぶやいた。
「ゴブリンだ……1個小隊はいるぞ」
ソーヤが焦って声で報告してくる。
「エンジンが掛かりません」
「この状況で立ち往生かよ。しょうがない。逃げる準備だ」
しかし俺の言葉に誰も従おうとしない。
俺も予想してたけどね。
よほどこのハーフトラックが大事らしい。
俺は大きなため息をつくのだった。
市街戦って程ではなかったですね。
しかし!
次話は本格的な市街戦へと突入します。
さらに室内戦へとなだれ込みます。
すいませんが戦車は出てきません。
なんだか調子良いみたいで、スラスラ文章が進みますので、次話投稿は明日できそうです。
調子良いうちに書き貯めしたいと思います。
ということで明日もよろしくお願いいたします。
 




