57話 廃墟の射撃練習
チョイ長めです。
俺は話を切り出した。
「提案があるんだけどいいかな」
タクが不思議そうな表情で俺を見て返答する。
「提案ですか。いったい何のです? とりあえず話は聞きますけど」
俺は一呼吸置いたのち話を始める。
「お前らって戦闘能力からっきしだろ。そこで俺が少し訓練をしてあげようと思ったんだけどどうかな。ただしタダではない。それ相応の指導料金は払ってもらうけどどうかなと思ってね。だけど俺もたかが4等級のハンターだから教えられる事もそれほど多くないけどね」
ガキンチョ3人は顔を見合わせる。
そして近づいて何やら話し合いを始めた。
会話の内容を聞いているとどうやら訓練は決定のようだが、指導料金が決まらないらしい。飛び交っている金額を聞くと俺の考えている金額よりもはるかに高額だ。
そこで俺が話に割って入る。
「えっと、指導料金は3人合わせて1日1,000シルバでいいいよ……」
俺の提案した金額は恐らくだが、自分のハンターレベルの相場よりもかなり高い金額だ。でも彼らが話していた金額よりかは遥かに安い。
ただし4等級ハンターが訓練指導することなど滅多にない。
いや、俺の知っている限りでは聞いたこともない。
一応3等級クラスの相場を思い浮かべて算出した金額だ。
多分、4等級ならこのくらいだろう……と思う。
たぶん。
すると3人で少し言葉のやり取りをした後、タクが代表して「お願いします!」と返答したことにより、俺達の契約は結ばれた。
「それじゃあ早速訓練に移るけど、俺のことは指導教官と思ってくれ。俺の命令は絶対ということだからね。いいかい」
すると3人が少し恐怖の表情で頷いた。
こうして俺のガキンチョ共への戦闘訓練が始まった。
と言っても俺には75㎜砲の支払い期限という制約があるから数日間が限度だ。
基礎訓練などからやっていたらそれこそ数か月必要になるからそれは省く。
それで今回は戦闘訓練に特化して教えることにした。
まあ、俺ができる訓練内容もそれくらいしかないからね。
俺の得意分野だと近接戦闘だ。
素手での格闘は得意ではないから武器を使った近接戦闘に限る。
「よし、まずは全員集まってくれるかい。まずは実戦的な事を覚えてもらうために場所を変える。ここからちょっと離れたところに小さな廃墟の街があるんだ。そこの建物を使って練習するから移動するよ」
ガキンチョ共は知らないらしい。
廃墟と化した街がこの先にあるんだけど、その街の水場は枯れてしまっていて魔獣が寄り付かないために、それを狩ろうとする人族や敵対亜人もいない。
人が住んでないから射撃練習をしても流れ弾が誰かに当たる心配もない。
練習中に魔獣が襲ってくる可能性も低い。
つまり練習する場所にはもってこいの場所だ。
「よし、それじゃあ出発」
俺の掛け声とともにガキンチョと俺は、ハーフトラックでの移動を開始した。
走り出して1時間ほどで廃墟の街へと到着だ。
言葉通り廃墟と化した街が広がっている。
結構小さな街なのが見てとれる。
街の周りは防壁で囲まれているのだが、戦闘によりその半分近くが崩れてしまっていた。
壊れた防壁の合間からところどころ見える街並みも、もはや瓦礫と言われるほどに破壊されつくしている。
高い建物はほとんど崩れてしまっていて、今やすべて低い建物だけである。
街に入っていくと街の主要な箇所にはバリケードがあったと思われる残骸もある。
その近くでは戦車や装甲車などの残骸も散らばっている。
これらはすべて昔あったゴブリンとの戦争の遺物と言われている。
当然誰も住んでいるはずもなく、銃の練習にはもってこいの場所という訳だ。
俺も昔、親父に銃の扱いをここでたっぷり仕込まれたくちだ。
ハーフトラックを街の中央へと進ませる。
一応警戒だけはしておく。
ゴブリンやコボルトが通りかかる場合もないとは言えないからね。
ただ、水場が枯れてしまっているからその可能性は低いはずだが、休憩のためにたまたま立ち寄る場合もあるから注意は必要だ。
中央広場のような場所にトラックを止める。
前に来たときは親父と2人きりだった。
その時と比べても全然変わっていない。
ハーフトラックから降りると前に親父と猛特訓した建物が目に入る。
懐かしさが込み上げてくる。
まずはあそこで訓練するか。
この街の中でも比較的大きな建物だったことがうかがえる。
ガキンチョを引き連れて俺は建物の占有する庭らしきところへと入っていく。
廃墟というだけあって天井部分は一切なくなっている。
壁だけが2階の高さくらいまでところどころ残っているのを見ると、この建物が2階建てだったということが予想できる。
街の有力者が住んでいたという噂もあり、この街でも大きな建物の内のひとつだ。
瓦礫がひどくて庭まで車両が入ってこれないが、中央広場に面しているので問題はないだろう。
ガキンチョ共を建物内部へと案内する。
建物の内部から庭を見ると庭にいくつかわざとらしく、何かの金属の残骸がいくつも立てられている。
俺がそれらを指さしながら説明する。
「あれが見えるか。あのおっ立っている数字が振ってある残骸があるだろ、あれが射撃の的だ。まずは俺がやるから、そのあとにお前らも順番にやってもらう。よく見てろよ。」
まずは10mの距離から始めるか。
俺は近くまで歩いて行くと壊れた自転車の残骸のところで立ち止まり、腰のホルスターから拳銃を抜く。
今はライフル銃は持っていない。持って来てるのは26型軽機関銃……のコピー品だ。
さすがにこれで撃ってもお手本にはならないからね。
今回は拳銃を使います。
そして一呼吸置いたのち、拳銃を撃ち始めた。
的は全部で10個ある。
番号の若い順番に俺は1発ずつ弾丸を叩き込んでいく。
命中するたびに金属の残骸でできた標的が甲高い金属音を上げていく。
8つの的に命中させると俺はすぐに弾倉交換をして、残りの2つの的にも弾丸を叩き込んんで終了した。
それを見たソーヤとタクが「ひゅ~」と小さく口を鳴らす。
俺が振り向いて早速やってもらおうと声を掛ける。
「それじゃあ、まずはタクから――」
するとすぐにタクが俺の言葉を遮る。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。俺らにはそんな拳銃さばきは無理ですって!」
「あ、君らはその手に持ってる自動小銃でやってよ。使い慣れたそっちの方が当てやすいと思うよ」
「いや、そういうことじゃなくてですね」
怖気着くタクを宥める様に俺は言った。
「なあに、最初からできるなんて思ってないから大丈夫、大丈夫」
俺の気軽な言い方に少し安心したのか、仕方なくといった感じでタクが前に出てきた。
そして小銃に弾丸が入っている事を確かめると緊張した様子で撃ち始めた。
かなりゆっくりな照準速度にもかかわらず、この距離で命中率は7割くらいと残念な結果に。
次にやったソーヤなどはもっと酷い。
命中率は5割ほどしかない。
さらにケイに関して言えば、弾倉交換がまともにできない。
クリップでまとまった弾丸を何度も落としていた。
それと射撃の途中で銃が重いらしく、結局、石の上に置いてのしゃがみ撃ちとなった。
それでも2割ほどしか当たらないときた。
反動を抑えきれていないのが原因だ。
うん、俺が予想してた腕前の斜め上をいっているな。
まあよくその腕前で『ストマックレイク』みたいな中級ハンターが行くような狩場へ行ったよね。
俺は少し考えてからある提案を持ち掛ける。
「あのさ、君らのその銃なんだけど重すぎるし反動がきついんじゃないのかな。完全に銃に振られてる感じがするんだけど。持つ銃を変えた方がいいと思うけどどうかな?」
すると3人はまずいことを言われたという顔をして固まるのだった。
次回、廃墟の街中で実践訓練か?!
あ、これって市街戦になるのか?
スターリングラートか!
なわけないか。
次話投稿は明後日の予定です。




