56話 装甲ハーフトラック
俺は中継所内にある露店でバイクを修理してもらっている最中だ。
どうやら完全修理は無理だけど、走れるようにはなるとのこと。
オークからの戦利品の60型戦車も別の露店で修理依頼中だ。こちらも応急修理で他の戦車の転輪を利用すれば、そこそこだが走れるようにはなるらしい。
すごい、職人技だ。
中継所や休憩所の中にはいろいろと露店が設置されている。
食べ物や飲み物は必ずと言っていいほど出店している。
ただし味は保証できないし値段も街よりも高い。
それ以外にトラックなどで来て露店を出す修理屋や武器屋、簡易買取所まであったりする。
もちろん街にある店に比べて割高な値段設定だ。
それでも予備パーツや弾薬が欲しい時や、どうしても修理が必要な場合には非常にありがたい。
こういった露店は人気の狩場が近くにあると店数も多くなる。それだけ需要が見込めるからだ。
俺もどうしても修理が必要という事で高い費用を払って現在利用しているわけだ。
さすがにこの中継所の露店では戦車の買取はしてくれない
修理して街まで行ってから売るしかないのだ。
しかしバイクも合わせて修理に丸1日かかる。
特に戦車は意外と修理箇所が多いことが判明した。
擲弾筒が命中した砲塔なんだが、なんと若干のひびが入っていた。
擲弾筒の製造会社の社長の息子のタク・ナンブ曰く「手榴弾の3倍近くの威力がありますから」だと。
小型の迫撃砲並みにの威力があると自慢していた。
しかしそのひび割れは修理依頼しなかった。
街まで無事に走れるようにしてくれるだけでいいのだから。
夕暮れまでまだ少し時間がある。
ベンチに座ってコーヒーを飲みながらボケ~っとくつろいでいると、1台の半装軌車両が入って来た。
前輪は通常のタイヤなのだが、後輪がキャタピラの装甲トラック。
斧マーク社の251型装甲兵員輸送車だ。
乗員2名のほかに10名も乗せることができる。
大抵はモデル3の安く出回っている半装軌車を乗るハンターがほとんどだ。
反対に251型は高級品。にもかかわらず性能はそれほど良くない。
という訳で非常に珍しい車両だった。
そして251型が俺の座るベンチの目の前で停車する。
何事かと思って俺はきょとんとしたまま車両を見つめる。
すると後部座席で立ち上がった人物が俺に向かって言った。
「何じろじろ見てるのよ、いやらしいわね」
それはケイだった。
否定はしないけどさ、今はそんな目では見てないから!
そしてさらに251型から他のガキンチョ共も顔出す。
「あ、ケンさん。自分たちのトラック持ってきました」
笑顔でそういったのはソーヤだ。
ソーヤが運転していたらしい。
なに、トラックって251型のことかよ。
ええもん乗っ取んなあ、こら!
続いてタクも顔を出して「遅くなりました」などと言ってくる。
いなくなったと思ったらこいつを取りに行ってたのか。
よくもまあ外に置いておいて盗まれなかったよな。
しかしそんな疑問もすぐに消されることになる。
留守番で雇っていたらしい5等級ハンターを下ろして金を渡していたからだ。
見たら800シルバ渡している。
4等級の俺の1日の護衛料金相場よりも高いじゃねえか。
留守番の為にわざわざハンターを雇う贅沢。
普通にこの中継所で有料駐車すれば安く済むのだが、それを敢えてしないガキンチョ共。
俺はため息しかでない。
「どうしたんですか、気分でも悪いのですか?」
それはお前らのせいいだろ。
そう思ったが口には出さない。
俺は顔を上げてふと251型に視線を持っていくと恐ろしいものが見えた。
251型に装備している武器だ。
それは34型多用途機関銃という高級機関銃だ。
値段も凄いが発射速度も凄いから、あっという間に肉片の山と弾薬代が飛んでいくらしい。
251型へ手榴弾を投げ入れたい衝動に駆られながらもなんとか耐えて、その日は寝床に着いた。
ガキンチョ共は中継所内の簡易宿泊所を利用するらしいが、俺は金がもったいないからガキンチョの251型の中で眠らせてもらうことにした。
もちろんガキンチョ共が簡易宿泊所に消えて行った後には、いやというほどあちこちいじくりまわしてやった。
特に34型多用途機関銃はいじり倒したぜ。
翌日は修理が完了する夕方まで、この中継所の近くで簡単な魔獣狩りをして時間を潰した。
弱い魔獣を使ってガキンチョ共の腕前を知ろうと考えたんだが。
しかし結果は悲惨だった。
膝丈ほどの草原で体長40㎝ほどのワイルドラットを見つけて、逃げ道をふさぐ為に全員で取り囲んだんだけど、ワイルドラットが必死にその輪の中から逃げ出そうと走り出した。
その走り出した方向はいうとケイのところだ。
突進してくるワイルドラットに対してケイは、「ひえぇぇぇぇっ」と叫び声を上げつつ小銃をぶっ放した。
しかし咄嗟の発砲に加えて腰が引けてしまっている構えでは、動く標的に当たるはずもなく、その弾丸は正面にいた俺の足元に突き刺さる。
「ううわっ、あっぶねえ~」
俺は声を上げながらのけぞる。
ワイルドラットはというと、縮こまったケイの真横をすり抜けて逃げてしまった。
ケイはそれでもまだ震えている。
心配したタクがケイが声を掛ける。
「ケイ、大丈夫か?」
震えながらコクコクと首を縦に振るケイ。
酷いなんてもんじゃないな。
下手したら同士討ちだ。
でもいつも偉そうな口を叩いているこの女、魔獣に怯える姿は結構可愛いじゃねえか!
俺はあまりの酷さにまずは全員を集める。
「はーい、全員集合!」
怒られる事を予想してるようで、3人ともしんみりした様子だ。
「はい、この中で戦闘経験が一番ある奴は誰だ」
俺の質問にケイとソーヤがタクを指さす。
それを見た俺はタクに向かって質問する。
「タク、どのくらい戦闘経験あんの?」
するとタクはキリっとした表情で答える。
「はい、魔獣は何匹も仕留めたことがありますよ」
少し自慢げに言ったので俺はちょっと期待してさらに聞いた。
「へえ、魔獣狩りの経験はあるんだな。それで何を狩ったんだよ?」
「ホーンラビットを何匹も倒してますよ」
俺は目が点になる。
「ホーンラビットだけ、なのか……」
「そうです。こいつで何匹も吹き飛ばしてますよ」
タクが手で叩いたのは擲弾筒だった。
擲弾筒でホーンラビットを何匹も倒したということらしい。
オーバーキルじゃないのか。
折角食べられる魔獣なのにそれだときっとミンチだな。
「そ、そうか。よくわかった……」
擲弾筒の扱いはそこそこできるってことは理解した。
75㎜砲の代金支払いにはまだ時間があるんだよな。
よし。
俺はガキンチョ共にある提案を持ち掛けるのだった。
やはり次話投稿は1日置き位になります。
明日はお休みで明後日投稿します。
どうぞよろしくお願いします。




