50話 ジャングルの湖
仕事に疲れて気が付いたら寝てました!
保安官事務所で魔法使いの強盗遺体を差し出すと、見事に賞金首だったことが判明した。なんと賞金は15,000シルバだ。
個人に掛かる賞金にしては少ない金額なのだが、今の俺にとっては大金である。
しかしこれで喜んではいられない。
まだ75㎜砲の金額には35,000シルバ足りないってことだ。
いつもならまだ大丈夫、あと6日もあるって考えるんだけど、その考え方をこの間エミリーに怒られたばかりなんだよね。
だから少し早めに行動することにする。
まだ日が暮れるには早い時間なので、先ほどの廃屋へと残りの戦利品を取りに行く。
2往復してなんとか全部運びきって買取所で売りさばいたんだけど、金額は1,000シルバにしかならなかった。
がっくしだよ。
ただ短機関銃がない俺にはメインの武器が欲しくて、しょうがなく廃屋にあったメーカーさえ不明のライフル銃の中から、よさそうな物を1丁だけ売らずに残した。
これでとりあえず今日の仕事は終わりにして安宿へと向かうことにした。
なんか自分で行動をすべて決められるって気持ちいいんですけど。
久しぶりの1人での宿泊だ。
いつも個室でエミリーと一緒だからね。
ただ今日は個室ではなくプライベート感ゼロの雑魚寝部屋だ。
男1人ならこれで十分。
何より料金が200シルバと格安だ。
ただしこういった格安宿では、朝起きたら荷物がなくなっていたという話はよく聞くから要注意だ。
翌朝、俺は誰にも起こされることなく1人で起きた。
言い方を変えればエミリーに踏んづけられることなく目が覚めたのだ。
なぜかあまり目覚めがよくなかったんだけど、とりあえず朝一番でハンター協会へと向かう。
エミリーとは別行動だから自分で依頼を見つけなくちゃいけない。
しかし割の良い依頼など早々あるわけない。
護衛の依頼はたくさんあるんだけど、それだと多くは稼げない。
結局、30分ほど考えて魔獣狩りをするしかないという結論に達した。
俺のハンターランクだと、実入りの良い依頼は申し込んでも不採用の場合が多く、なかなか依頼料の高い仕事は見つからない。
しょうがなくサイドカーをレンタルして魔獣狩りへ出かけることにした。
たくさん稼ぐには、俺のランクだとちょっと難易度か高い狩場へ行くしかない。
それで選んだ狩場が『ストマックレイク』という湖のある場所だ。
アリシアの街からバイクで飛ばすこと1時間。
人族が作った中継所がある。
そこに車両を預けて歩いて1時間弱で湖に到着するんだけど、俺はバイクで湖近くまで乗り入れる。
狩りで得た獲物を運ぶには、ボッチ行動する俺にはどうしてもバイクが必要だからだ。
ただしリスクも大きい。
狩場で隠して行動する場合もあるけど、その場合は当然盗まれる可能性もあるわけだ。
乗ったまま行動した場合は目立つ。
ということは敵対する亜人や魔獣の恰好の的となる可能性が高くなる。
それらを理解したうえで俺はバイクで乗りいれたのだ。
すでに何人かのハンターが来ているが、ほとんどが装甲車か小型の戦車に乗っている。
ジャングル地帯と呼ばれるこの地域は道が狭く場所によっては地面がぬかるんでいる。
その為、大型の車両や戦車で乗り入れてくるハンターはいない。
小回りが利く小型戦車や装甲車で来るハンターがほとんどだ。
中には装甲兵員輸送車で乗り付けて、戦車でないと倒せないような強力な魔獣を数に物を言わせて倒すやり方で、荒稼ぎして帰るハンターチームもある。
もちろん車両はジャングルの外に留守番を付けて待機させる。
当然人件費もかかってしまう。
地名の通り湖があるこの地ではあるけど、狩場はその水場を求めて集まってくる魔獣を狩る事が目当てだ。
低ランクの魔獣も多く集まるが、それを捕食しようとたくさんの中ランクや高ランク魔獣も集まってくる。
とにかく多数の魔獣があつまるこの狩場。当然いろんなランクのハンター達も集まってくる。
低ランクのハンターは数で戦力を補うため、小隊規模でトラックや車でやってくる。
高ランクハンターとなれば小回りが利く性能の高い小型戦車で乗り付けてくる。
その結果として、魔獣の集まる数とハンターの集まる数がうまい具合に均衡していて、魔獣不足になることはないようだ。
ただし、怖いのは水を求めて集まるそういった魔獣ではない。
一番怖いのは亜人であった。
しかしゴブリンなどの低ランク亜人はここでは滅多に出没しない。
昔はゴブリンも戦闘車両で現れたらしいが、今は目にすることはない。
それじゃあ何が出るのか?
それはオークだ。
ゴブリン同様に緑色の肌をした亜人だが、ゴブリンとは違い筋骨隆々の体格を持ち、人間と変わらない身長だ。
特にオークは戦闘車両で現れることが多いため、特に警戒されている。
中には賞金が掛けられた賞金首のオークもいる。
それ以外にもコボルトも出現する。
犬が2足歩行するような恰好と考えればわかりやすい、犬型の亜人。
コボルトの場合は車両の場合もあるが、ほとんどの場合が歩兵だ。しかしゴブリンと違って必ずライフルや機関銃を装備しているから厄介なのだ。
中には携帯型の榴弾発射機を使って攻撃してくる個体もいるから面倒臭い。
個体としてはそれほど強くはないが、遭遇するときは複数でいることが多いから、かなりの強敵となる。
そんな危険な地域へ俺はたった1人で来たのだ。
来てみてちょっと後悔している。
でもこれだけハンターがいるんだから、危険な時には他のハンターのところへ逃げ込めばいいか。
なんて考えているんだけど、実はそれってハンターが嫌う行為。
敵を引き付けて巻き添えにするルール違反的な行為。
ルールと言っても暗黙のルールだ。
それをやるとすぐにハンター達の間で噂が広まり、ハブられたりして仕事が激減するから要注意なんだが。
俺は早速、レンタルしてきたサイドカーでジャングルの奥へとゆっくりと進んでいく。
湖の近くまで来たところで他のハンターに遭遇した。
6人の人間のハンターだった。
俺がサイドカーを止めると先頭の人が話しかけてくる。
「やあ、調子はどうだ。何か獲物は見かけなかったか?」
ハンター同士が交わすたわいもない挨拶のような言葉だ。
胸に付けたバッジからすると話しかけてきた彼がリーダーで2等級ハンター。それ以外は4等級と3等級ハンターだ。
4等級のハンターは3人で、どいつもまだ子供のようだ。
13~14歳ってところだろうか。
それ以外は隊長を含めて20歳前後くらいのグループ。
若いハンターを連れたベテランハンターと言った風だ。
以外と装備は充実している様子。
安物ではなくちゃんとしたメーカー品に身を包んでいる上に、武器類も自動小銃に擲弾筒装備など金を掛けている。それもメンバー全員に金がかかっているというのが凄い。
狩場でハンター同士で情報を共有することはよくあること。
それで向こうも挨拶がてら話しかけてきたんだろう。
ただしすべての情報を出すとは限らない。
少し話をしたのだが、俺が4等級という身分で1人でここへ来たことにまず驚いている。
俺も逆の立場だったらそう思う。
彼らはここでの狩りの為に募った一時的なグループだそうだ。
チーム『アルファ』と名乗っている。
近くまでトラックで来たそうで、そこからは徒歩で獲物を求めて歩き回っているという。かれこれ1時間探しているらしいけど、いまだに獲物と遭遇しないとぼやいている。
乗り物で移動すると広範囲を探索できるのだが、音で獲物が逃げる可能性も高い。
反対に彼らのように徒歩での移動は探索範囲が狭いのだが、獲物を発見し場合は気付かれることなく接近することもできるというメリットがある。
どちらを選ぶかは人それぞれだ。
俺は少し話をしただけで直ぐに彼らとはすぐに分かれた。
大した情報もなさそうだからね。
ま、こっちも何の情報も与えなかったけど。
そして彼らと別れてからすぐのことだった、爆発音がジャングルに響き渡る。
近い!
今別れたばかりの『アルファ』の向かった方向だった。
俺はサイドカーを爆発音の聞こえた方向へと向けるのだった。
次話は今日、投稿したいと思ってます……
本日もどうぞよろしくお願い致します?