48話 廃屋
俺はエミリーとミウの2人と別れ、とりあえず強盗が倒れている現場へと行く。
強盗2人の捕獲権利を主張したところ、買取所の店長からすんなりと受け入れられた。というよりも感謝された。
俺がやったんじゃないけどな。
お礼に「これをやろう」と言って1つの木箱を渡された。
中身を見ると手榴弾が6個入っている。
1つ450シルバ前後で売られているごく一般的な――いや違うな。俺にしたら高級な部類に入る手榴弾だ。
ラッキー!
背中に風刃を受けた1人目の強盗は虫の息。
ほっとけば死ぬけど俺は盗人の命を救うほどの情け深い男ではない。
もう一人の強盗は右肩から右腕に掛けてに多数の散弾を喰らって痛そうだったが、放っておくと逃げかねない程度だ。
2人の強盗は大したものは持っていなかった。
安物の拳銃とこれまた安物のライフル銃だ。
これじゃ金にならん。
保安官に突き出すしかない。
賞金が掛かっていればラッキーってくらいいか。
そのうち保安官がここに来るだろうと思って待っている間、意識のある方の強盗が必死で俺を説得しようと試みる。
最初は聞く耳を持たなかった俺なんだけど、話を聞いているうちに段々興味を持ちだした。
話の内容はこうだ。
男は自分たちのアジトへ行けば金があるという。
その金と引き換えに逃がしてくれというよくある話だ。
大抵こういった話では最終的に悪者は最後まで悪者で、決して信用してはいけなかったという教訓しか残らないものだ。
昔、親父が生きている時の話だ。
俺は親父と盗賊の1人を生きたまま捕らえたところ、今回と同じように金と引き換えに逃げしてくれと言ってきた。
自分たちの住んでいる小屋にいけば今まで盗んだ金があるという。
仲間はみんな死んでしまって誰もいないから受け渡しも楽だという。
その時親父は何の躊躇もなく、その提案を承諾したのだ。
そしてそいつの案内の元、とうとう山の中にある盗賊のアジトらしい小屋に案内された。
すると親父はその場で盗賊の眉間に弾丸を叩きこんだ。
そしてその小屋の窓に手榴弾を続けて2個投げ入れる。
2回の爆発の後、親父と俺は小屋に突入して、生き残っている盗賊をすべて一掃した。
誰もいないと言っていたアジトには、盗賊の仲間がまだいたのだ。
こうして盗賊を全滅させた俺達親子は、ゆっくりと盗賊のアジトから戦利品をせしめたのだ。
さて、この話を思い出しちゃったんで、俺はこの盗賊の話に興味を抱き始めたというわけだ。
ただこいつの棲家が町中にあるってことが問題ではある。
山の中と違って騒ぎが大きくなると保安官に通報されて厄介だ。
保安官の中には盗賊グループからワイロを取っている輩もいる。
できれば騒ぎは最小限に収めて保安官の介入は避けたい。
俺は強盗の男を連れて歩き出す。
そして街の裏通りへと入っていく。
ここら辺は確かサガ一家のギャングの縄張りだ。
そして強盗の男はここだと言って指をさした建物は、どう見ても人が住むような場所ではない。
廃屋と言ったような、今にも崩れ落ちそうな建物だったからだ。
胡散臭い4~5回建てのビルに囲まれた日の当たらない一画に、ポツンと1軒だけぼろ屋がたたずんでいる。
窓ガラスなどは一切なく、入り口の扉さえ壊れて地面に落ちているほどだ。
「おい、本当にここがお前の棲家なのか。嘘をつくんじゃないぞ」
俺の質問に「嘘じゃない」と言い張る男。
「よし、お前から中へ入れ」
俺が短機関銃の銃口を向けて支持すると、男は言いづらそうに口を開く。
「あの、こいつは降ろしてもいいですかい?」
どうやら担いでいたもう一人の強盗は息絶えたらしい。
しょうがないので下ろす許可を与える。
思えばこいつ結構タフだな。
右手が怪我してるにもかかわらず、ここまで人を背負ってきたんだからな。
男は暗がりの廃屋へと入っていく。
「さあ、早く金のある所へ案内……」
何かおかしいことを感じて言いかけた言葉が止まる。
おかしいというか違和感?
その隙に男は暗がりへ入って見えなくなる。
慌てて俺は男の腰に結わいたロープを手繰り寄せるのだが、手元には切られたロープが戻った。
しまった!
そう思った瞬間、暗闇から炎の球が俺めがけて飛んできた。
ファイヤーボールか!
避けられないと判断した俺は、持っていた短機関銃で炎の球を防ぐ。
短機関銃に激突した火の玉は衝撃で四散、慌てて握っていた短機関銃から手を離す。
しまった、武器を手放しちまった!
すると笑い声が暗闇の中から徐々に近づいてくる。
視界の中に現れたのは強盗の男なのだが、怪我をしていた右肩と右腕の傷が治癒している。
治癒ポーション? いや違うな。
こいつ治癒魔法も使えるのか。
まさか街のチンピラのような盗人に、魔法が使えるような奴がいるとは思わなかった。完全に油断していた。
男は俺の前に現れるとニヤニヤしながら言ってきた。
「形勢逆転だな、坊主。まさか街の盗人が魔法を使えるとは思わなかっただろ。あまい、あまいよ。これがあるから俺はずっと生き延びてきたんだよ。たださ、有名になりすぎて大きな仕事ができなくなっちまってな。この街でバレない様に仕事してたってわけだ。まあ、坊主も運がなかったな。いいところまでいったんだけど、ここまでだ」
男は再びファイヤーボールを放つ気だ。
しかし俺は平静を装って男に言い放つ。
「いいことを教えてやる。魔法は発動するまで時間が掛かるんだよね。つまりちょっとの余裕があるってことだよ」
「何言ってやがる!」
俺は握りしめていた手榴弾を男の前に転がす。
ファイヤーボールの詠唱を終えた男の視線が手榴弾で止まる。
「ひっ!」
男の小さな悲鳴と共に、手榴弾の爆発とファイヤーボールがほぼ同時だった。
俺は扉を突き破って外に飛び出した。
ファイヤーボールが俺の背中をかすめる。
同時に爆風を体に感じ意識が遠のいていくのだった。
次話投稿は明日の予定です。
どうぞ明日もよろしくお願い致します。




