47話 操り人形
ワールドカップラクビー見てました
(T_T)
残念……
俺は今ハンター協会の正面門の前にいる。
エミリーを思い浮かべると足の震えが止まらなくなるのは何でだろう。
俺は両手で自分の頬をバシッと叩き、気合を入れて協会の建物の入り口扉に向かう。
すでに手続きは終わったようで、エミリーとミウが外にあるベンチに座って待っていた。
意を決して2人の座る長椅子を目指して進む。
2人の座る長椅子の前に立つ。
深く深呼吸してから俺は声を出そうとしたのだが、エミリーに先を越された。
「どうしたのお兄ちゃん、歩き方が操り人形みたいだよ?」
それに対してミウが追加攻撃をかましてくる。
「いえいえエミリーさん、操り人形の方が動きはいいですよ」
それはまさにカウンター攻撃だった。
エミリーとミウのその一言で、俺の中の何かがガラガラと崩れ落ち、頭の中が真っ白となる。
覚悟を決めていた俺はそこで一気に力が抜けてしまった。
そんな俺の様子を気にも留めないエミリーはなおも話を続ける。
「えっとそれからね、依頼完了で貰った金額が凄いよ。これ見てよ」
エミリーが1枚の紙を俺の目の前に広げた。
そこには今回の依頼完了の支払い金額が書いてあった。
俺は気力のないままその用紙の数字部分を見る。
「え? まじか。1人につき3,200シルバに、戦車手当でチームに1,000シルバ!」
すげえぜ。
エミリーの脅しに近い交渉術の成果だな。
でも戦車を破壊されるという手痛い損失があるけどな。
さて、ここからどうやってエミリーに戦車購入の許可をもらうかだ。
あ、許可も何も購入はしちゃったんだけどね。
「す、凄い依頼金になったね。でもさ、戦車がなくなっちゃったから……」
俺が言いかけた言葉を遮るようにエミリーが話を続ける。
「これで少し借金返せるよね、お兄ちゃん」
笑顔で俺を見ているよ。
がんばれ俺!
「あのさ、実はさ。これ……」
俺は75㎜砲の契約書をエミリーの前に掲げる。
するとエミリーとミウが用紙に顔を近づけるようにして覗き込む。
ミウがぼそりとつぶやく。
「これって購入契約書ですね。それもサインされてるってことはすでに購入済みのようです。あ、でも支払いはまだみたいです」
ミウ、わざわざ声に出して余計な説明しなくていいから!
エミリーが無表情でつぶやく。
「50,000シルバって書いてあるのは何かの間違いかしら?」
「いえ、間違いではありません……」
「そう。ならひとつ聞いてもいい、お兄ちゃん?」
「は・い」
「このお金、誰がどうやって支払うのか説明してもらってもいい?」
「えっと、そ、それは……」
俺はどうやってこの場を切り抜けようか、あらゆる言葉が脳内を錯綜する。
その時だった。
ハンター協会事務所のすぐ隣にある買取所から騒ぎが聞こえる。
俺はそちらに視線を移す。
すると勢いよく2人組の男が店から飛び出だしていくところだった。
そして聞こえる店主のらしき人物の声。
「強盗だ~~!」
俺はチャンス到来とばかりに強盗を捕まえに走り出そうとする。
このどさくさに紛れてこの話をうやむやにしようという作戦だ。
とりあえず今この場の雰囲気はまずい。
へたすりゃ命に係わる。
まずは一旦この場を離れる!
しかしその俺の考えは甘かった。
一瞬で元の空気に戻ってしまったからだ。
エミリーが俺を睨んだまま片手で魔法を放ったのだ。
風で出来た“刃”が宙を飛ぶ。
そして一瞬で逃げる泥棒の背中に突き刺さった。
泥棒は悲鳴を上げて勢いよく地面に崩れ落ちてしまう。
そしてもう一人の泥棒はミウがショットガンで狙い撃ちした。
結構な距離があるのだが、1発で強盗を穴だらけにした。
対戦車砲だとダメなのにショットガンはやたらと上手なんだよな。
背中に風刃を受けた強盗は瀕死の重傷のようだが、ミウのショットガンを浴びた強盗はまだ息があるようで、買取所の店主らしき男に取っ捕まっている。
ハンター協会のすぐ近くでもこんな事件はちょいちょい起きる。
ハンター協会のそばにある店の方が繁盛している場合が多く、それだけ金の臭いが強いということだ。
エミリーはよそ見をしている俺の顎を掴んで、錆びついた機械を回すようにギギギっと首をひねり、視線を正面に持ってくる。
「お兄ちゃん、人が話をしている時はちゃんと目を見て聞いてよね」
「は・い」
ミウもなんだか機嫌が悪そうだ。
というのも支払い保証人が『ドランキーラビッツ』とチーム名が書かれているからだろう。
俺は苦し紛れに75㎜砲がいかに凄くて安く手に入ったかを力説する。
「――だから滅多にみられない品だぞ。それに硬芯徹甲弾を使えば1500mの距離でも100㎜の装甲板を貫通するんだぞ。それに聞いて驚くなよ、なんとメンタル製の――」
「もういいわ、お兄ちゃん」
「へ?」
「7日後に支払いよね。それまでに稼げるだけ稼いできてよね。もちろんお兄ちゃん1人でよ。文句ないわよね」
「わ、わかりました。エミリーさん、ご指導ありがとうございました」
「あ、それから。あの強盗の処理はお兄ちゃんの自由にしていいわよ」
それって報奨金もらえたら俺の物ってことでいいのかな。
優しいんだか怖いんだかわからんな。
俺は操り人形のような動きで行動を起こすのだった。
次話も明日投稿予定です。
どうぞよろしくお願い致します。




