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徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


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46話 左掌の戦い






 メンタル社製の75㎜砲の前へと、惹きつけられるようにふらふらと歩いて行く俺。


 俺は75㎜砲の長い砲身に手を触れる。

 あれ?

 これって本当にメンタル社製?

 こんなに砲身短かったかなあ。

 前オーナーが改造でもしたのかね。

 マズルブレーキの形状もなんか違う気がするんだが。

 砲架はしっくりくるんだけどなんか砲身が俺の記憶と違う気がする。

 でも対戦車砲なんて滅多に見ないから何とも言えないんだよなあ。


 新品ではないようで、あちこちに傷がついている。

 それでも結構使い込んでるんだな。

 

 俺が75mm砲に見とれていると、耳元でなぜか悩ましい声を聞こえてくる。


 サファイヤちゃんだ。


「見てえ、この大砲はすごいわよぉ。あなたの乗ってきた戦車、砲塔が壊れてるわよね。この大砲を載せるっていうのはどうかしら。あなた確か自走砲に乗ってるよのねえ。それのバージョンアップみたいなものよお」


 それを聞いてふと思う。

 サファイヤちゃんとは初対面。

 今日は2型戦車で来たのになぜホーンラビットに乗ってたことを知ってるんだ?

 すぐに疑問を投げかける。


「な、なんでそんな情報知ってるんだよ」


 やべえ、興奮してきた。

 落ち着け俺!


「あらあ、当店のカモ――常連様の情報くらい調べてるわよ。今乗ってるガンキャリアーを当店で売って、今日持ってきた戦車にこれを載せるってゆうのはどう。お安くしておくから~」


 今、カモって言って言い直したよね!


「それが、実はあのガンキャリアーは撃破されちまったんだよ……」


「あらあ! それは好都合――じゃなくて残念ねえ。それならなおさらこの大砲なんてどうかしら。めったに市場に出ないんだから」


 今また言い直したよね?

 それに対戦車砲は需要がないから出回らないだけだから。

 めったに市場に出ないのは当たり前。

 それくらい知ってるからね。

 俺は言い訳を口にする。


「でもあいにく予算が乏しくてさ。それにエミリーの許可が下りないよ。あ、エミリーって妹ね」


 俺の言葉に対してさらに彼女の営業トークは炸裂する。


「あら、それじゃあ戦車なしでどうやって戦うのかしら。それにこの大砲なら1000m離れた距離からでも敵を撃破できるわよ」


 彼女は俺の腕を自分の胸の谷間にぐいぐいと挟み込んでくる。

 正直やばい。

 落ちそうである。


「ち、ちなみに幾らするのかなあ、なんて……」


 彼女の目が一瞬光る。

 そして今度は俺の左掌を谷間に挟み込む!

 そして耳元で囁く。


「取付工賃込みで55,000シルバでどうかしら?」


 確かに破格の価格なのかもしれない。

 でも対戦車砲なんてどうせ店に置いておいても売れるわけない。

 それでたまたま来た『カモ』に売りつけようとしているに違いなかった。


 で、でもさ。

 お、俺の左掌の感触が「買っちまえ!」と言っている。

 腰が砕けそうなのに耐えながら俺は声を絞り出す。


「も、もう一声……」


 するとサファイヤちゃんは一瞬表情が険しくなったように見えたが、すぐ取り繕って笑顔で答える。

 

「う~ん、それじゃあこれで限界よ。工具一式と砲弾48発付きで50,000シルバでどう?」


 その瞬間、俺の左掌は谷間の最奥部へと到達した。


「くっ……買います……」


 ついに俺は撃破されました。

 俺はその場にへなへなと崩れ落ちる。


「お買い上げありがとうございま~っす」


 サファイヤちゃんは商談成立した途端に俺からプイっとそっぽを向く。

 そしてモリじいのところへ手を振りながら走っていく。


「売れましたよ~。店長の言った通りでした~。あの75㎜野砲売れましたよ~」


 してやられた!

 色仕掛け商法かよ!

 って今変なキーワードが聞こえた気がするけど気のせいだよね?

 そうか、あの子は素人さんだもんね。


 こうして俺はまたしても勝手に大きな買い物をしてしまうのだった。


 取付作業に6日間かかるらしいので7日後に取りに来ることになった。

 ついでに俺は消費した短機関銃などの弾薬類を持ち金で購入。

 一応手付金代わりに護送依頼中に得た品物を置いてきた。

 現金の持ち合わせがあまりなかったからね。

 大したものはないので気持ち程度の金にしかならないが、それでもいいと笑顔のモリじいに言われた。

 その笑顔がなんか憎たらしい。

 それと一応だけど、池の跡地での戦闘での俺達が撃破した戦車の回収を依頼した。

 回収できてもできなくても金はとられるが、それはエミリー様に了承済みで現金を預かっている。

 こっちは一括払いでモリじいに支払った。


 それよりエミリーへの言い訳を何と言おう。

 「えへへ、手が滑ってサインしちゃった、てへっ」って言ったらぶっ飛ばされるだろうな。

 それに7日後に残りの代金を支払わなくちゃいけない。

 借金もまだあるのに買っちまった。

 やばい、大ピンチ!

 誰にも見つからないところに隠れたい!

 ああ、谷間があったら入りたい!


 こうして俺は期待と後悔と羞恥心の交じる気持ちで揺れながら、とぼとぼとした足取りでハンター協会へと歩き始める。


 俺は左掌をじっと見つめるのだった。






次回、妹エミリーに主人公はぶっ飛ばされるのか、はたまた75㎜砲の購入許可は下りるのか?


次話投稿は明日の予定です。


明日もよろしくお願い致します。





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