40話 罠に突入
俺はエミリーのすっとぼけた返答に激しく突っ込みを入れると、エミリーは面倒くさそうに返答する。
「いいお兄ちゃん、よく聞いてよね。まず盗賊ゴブリンが親分のギガントとかいうゴブリンリーダーを救出するためにこの辺に地雷を仕掛けたのよ。でもミカエを救う目的のアベンジャーズのメンバーは自分たちの作戦を邪魔されたくないのよ。おそらくこの街道の先で何か仕掛けてこようとしてるんじゃないの。だからこの場所で待ち伏せしてるゴブリンが邪魔だった。だから私たちが来る前に襲撃してゴブリン達を全滅させて、さらに証拠が残らないように死体は埋めたんじゃないの。そうなるとこの先にアベンジャーズが待ち構えていることになるのよ。だから隊長に賃上げ交渉よ!」
確かにエミリーの推理は凄い。どうやったらそこまで推理できるんだよ。
でもな、最終的には『金』かよ!
でも本当にこのさきにアベンジャーズが待ち伏せしていたらエミリーすげえな。
ぎゅっとしてやってもいい。
いや、むしろぎゅっとしたい。
俺はエミリーの話を隊長に伝えに行った。
もちろん賃上げ交渉の部分はカットだ。
そこはエミリーに任せる。
俺の話を聞き終わると隊長は怪訝そうな表情をする。
そりゃあ話の筋は通るけどさ、そう簡単には信じられないよね。
そして隊長曰く。
「この先の街道は迂回路がない。だから結局は待ち伏せがあろうがなかろうがこの道を行くしかないんだ」
そう、この先にはトンネルがあり、そこを通らないと大きく山を迂回することになる。そうなるとさらに36時間はかかってしまう。
トンネルの先はしばらく1本道で迂回路はない。
だから仮に待ち伏せが本当にあったとしてもこのまま街道を進む。
もちろん待ち伏せがある前提で警戒しながら進むそうだ。
地図を見て怪しい箇所は事前偵察をしながら進むんだが、それでもじっくりと警戒しながら行くという余裕はない。
敵に態勢を立て直す猶予は与えたくないというのと、一刻も早く無線が届く場所に行って一連の成り行きを連絡して、あわよくば応援を呼びたいところだ。
まあ、そうだろうね。
最初いた6両の戦車と装輪装甲車に装甲兵員輸送車が、今や3両の戦車と1両の装甲兵員輸送車になってしまったんだからな。
まあ、その分敵にも相当なダメージを与えたんだけど。
それで今ある戦力というと、まず俺達の戦車“ホーンラビット”、そして20㎜機関砲装備の2型戦車、そしてゴブリン製ではあるが短砲身の75㎜砲を搭載するセメトン突撃砲戦車だ。
突撃砲というのは砲塔がない。
つまり前方に砲身がほぼ固定された状態なため射界が狭い。しかし砲塔がない分車高を低く作ることができ、しかも低費用で建造できるのだ。
しかし所詮はゴブリン製。
人間が作った戦車と一緒に考えてはいけない←重要
「故障」+「低燃費」+「信頼性の低い戦車砲」といった付録は常について回るのだ。
でも、ゴブリン製の物は個体差が激しいことで有名でもあるのだが。
まあ、結局前に進むしかないってことで、護送部隊は一応警戒しながら1列縦隊で街道を進む。
偵察装甲車がやられてしまったのがきつい。
偵察用の車両は大抵、各種のセンサー的な魔道具を積んでいる。それも偵察車両用の場合は普通よりも性能が良い物だ。
武装に比重を置かない分、偵察に必要な装備に比重を持っていく。
でもそれもピンキリで、ランクの低いハンターの所有する車両には期待してはダメだ。
しかしその偵察車両がいない今、せいぜい罠発見がいいところ。
そのため進む速度もゆっくりとなる。
もし待ち伏せているとなれば敵は人間だ。
ゴブリンとは違う。
しかも敵となるのはミカエの仲間のベテランの元ハンター達だ。
正直言えば逃げたい。
護衛契約を破ってペナルティーを科せられたとしてもだ。
今の護送部隊の戦力を見ればわかると思うが、この戦力でベテランの元ハンターの戦車とどう戦えってんだよ。
俺はエミリーとミウに意を決して提案した。
「なあ、2人ともよく聞いてくれ。逃げるぞ、いいな」
するとエミリーが眉間にしわを寄せながら言い放った。
「はあ、何を言ってるのかな、お兄ちゃんは?」
ちょっとエミリーが怖いんですけど。
「え、だからここはだな。勇気ある撤退を……」
エミリーは俺の意見など聞きたくないとばかりに言葉を続ける。
「は~い、それでは公平にここは多数決をとりま~す」
「あの~エミリーさん。何を言い出すのですか?」
俺の言葉は無視してエミリーはミウを見ながら言葉を続ける。
「このまま進んで賞金首ゲットで借金返済する人手を上げて~、は~~~いっ!」
エミリーが凄まじいい形相で挙手しながらミウを凝視した。
まるでライオンに睨まれた子ネズミのごとく、ミウはゆっくりと申し訳なさそうに右手を上げた。
「エミリー、待て! なんかずるくねえか」
「何がよ。ちゃんと公平に決めたじゃないのよぉ。今の公正な決定に反対するなら街に戻ってから審議官の仲裁で――」
「わ~った。俺の負けだよ。はい、はい、トンネル突撃ね。その代わり2人とも覚悟しておけよ。今までで一番厳しい戦いになるぞ。それと危なくなったら無理せずすぐに逃げる事、これだけは約束してくれ」
「はいはい、引き際が大切ってことね」
ミウもこくりと頷く。
うわあ、結局進むことになっちまったか。
ふと空に顔を向けると先ほどまで晴れていた空に、急に灰色の雲が流れ込んでくるのが見える。
「まさに暗雲が立ち込めたってやつだよ……」
俺は大きくため息をつくのだった。
次話投稿は明日の予定です。
明日もどうぞよろしくお願いします。




