38話 地雷
撤退したゴブリンが再び陣形を立て直して襲ってくる恐れもあったので、夜も厳重に見張りを立てていたのだが、結局朝まで野良魔獣の襲撃さえもなかった。
俺達は予想外にすがすがしい朝を迎えるのだった。
中には夜を徹して戦車の修理をしていたハンターもいたらしく、眠そうな表情をしている者も結構いる。
俺達の戦車のホーンラビットは大きな故障もなく、大した整備も必要なかったのだが、車体のあちこちに機関銃の弾痕やら、エミリーが色々とぶつけてくれた跡がしっかりと残ってはいた。
後部装甲にはっきりと残った弾痕の跡を見ると、もう少し上に命中していたら俺かミウが直撃だったと思われる。
よし、これはミウとエミリーには黙っておこう。
それと無理な地形を無謀な走りでぶっ飛ばしたので、車体底面の装甲や車体周りの装甲などがグニャリと曲がってる。
特に車体前部はひどく変形している。
これはエミリーによる暴走の結果だろうな。
とりあえず走行に支障はない程度には修繕したんで問題なしとしよう。
そしていざ出発という段階になって、ここに残るというハンターがでた。
戦車の修理が完了していないハンター達だ。
戦車をこの場に置いて後で取りに来るという提案には、『盗まれる』という一言で却下された。
ここは昨日まで戦車戦があった場所。
何両かの動けなくなった戦車や破壊された戦車が点在している。
戦車回収車両でも持ち込めばそこそこの金を得られるだろう。
襲撃したゴブリンやここにいるメンバーはこの場所を知っている。
ただし街からは離れているし、街道からも離れた場所なので、それ相応の護衛は必要だが。
こういった戦場荒らしと呼ばれる行為を生業としている専門業者もいるくらいだ。
ただ、この場に残るという意見に反対する者もいない。
戦車に乗っていなければ戦車乗りハンターなんて邪魔でしかない。
戦車で来たんだから生身で戦えるほどの武装など持って来てるはずもない。
それにここで残るということは、護衛の契約は破棄とみなされて賃金は未払いとなる。
雇い主にとってはラッキーな話だ。
そういった訳で、戦車をこの場に置いていけないという搭乗員4人がこの場に残ることとなった。
それ以外の戦車をなくしたハンターは戦車放置の選択をした。
ただし、この場に残るハンターからは、街に着いたら回収業者に連絡するように頼まれた。
なんとしても戦車を回収したいんだろうね。
そりゃあ戦車なんて高価な乗り物だから当然か。
戦車があるかないかでは収入が大きく違うしね。
一応俺達が撃破した戦車には印を付けてきた。
街に戻ったら回収業者に壊れたゴブリン戦車の回収を頼むつもりだからだ。
他の奴に持っていかれなければ、俺達の印を付けた戦車は街まで輸送してもらえる。
もし回収業者が現場に到着したときにその戦車が無かった場合でも、費用は支払うことになる。
回収できた場合はその壊れた戦車の査定金額の10~25%を持っていかれる。
回収する場所までの距離によって比率は変動するのだ。
性能の良い無線機があればかなり遠くからでも街へ連絡できるのだが、その分性能の良い無線機というのは高価だ。
性能はピンキリで値段も同様ピンキリとなっている。
魔法的な部品を使っている無線機が一番高価な品となっていて、いわゆる魔道具と言われる品だ。
俺もそこまで良い無線機でなくてもいいからほしいんだけど、今はそこまで懐事情がよくない。
なんせ借金まみれの生活ですから。
怪我人などはは装甲兵員輸送車に乗せ、さらにその後ろにはワイヤーで壊れた護送車を牽引していく。
護送車は前部が破壊されているが車輪は生きているので、自走は難しいけど引っ張ることはできた。それで牽引して囚人を運ぶ手立てだ。
生き残った戦車はホーンラビットを入れてわずか3両。
あとは破壊されたり故障してここに置いていくしかない状態だ。
一気に戦力が減ってしまった。
これで再びゴブリン部隊の襲撃にあったらどうなるんだろうか。
一応そういった事態を想定して、危なくなったらすぐ逃げるということになっている。
そして出発して2時間ほどして街道に戻ってしばらく進む。
そこまでは順調。
全く問題なし。
しかし街道を走ること30分で事態は最悪の状況に陥る。
事の始まりは先頭を走る戦車が急停止したことから始まる。
先頭を行く戦車には“罠発見魔法”の術式機材が装備しているようで、その装置が反応したらしく隊列は止まった。
全車両警戒態勢でその場で待機。
装甲兵員輸送車から数人降りてきて、携帯用の罠発見機を手に持って道路を捜索するらしい。
それらは戦車を失ったハンターの役目らしい。
個人装備のないハンターはこれぐらいしか役に立たないからだ。
待ち伏せ攻撃を警戒していたが特に攻撃もなく、30分ほどで道路上の5つのゴブリン製の対戦車地雷を見つけて除去した。
それじゃあ何のためにこんなところに地雷なんて設置したんだろ。
待ち伏せじゃないなら何の意味があるんだろ。
『まあ、ゴブリン製の地雷ってことはどうせゴブリン共が待ち伏せの為に仕掛けたんだろ。でも車両が全然通らないもんだから待ち飽きて立ち去っちまったんだろうよ』
こんな事をハンター達は口々にしながら先へ進んでいった。
俺も特に気に留める事もなかったんだがエミリーだけは違った。
「絶対なんか変よね。そう思わない、お兄ちゃん?」
俺はエミリーのその言葉に首をかしげるしかなかった。
次話は明日投稿予定です
明日もよろしくお願いします。




