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徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


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37話 囮護送





 味方が陣取っていた場所は悲惨な状況だった。


 動けなくなった味方戦車。

 砲弾の直撃を受けたのか車体中央に被弾跡があり、ハッチからは炎がいまだにメラメラと上がっている。

 その燃え上がる戦車を前に茫然と立ち尽くすハンター達。

 苦労して手に入れた戦車なんだろうな。

 それが一瞬で動かなくなったんだから、そりゃ言葉も出ないよね。


 怪我人も多い。

 あちこちで地面に横たわる怪我人の手当てをしていいるハンターがいるのだが、完全に人手が足りてない。

 治癒魔法が使える者が少なすぎるのだ。

 この数だとヒールポーションの数も足りなくなるだろう。

 ポーションは高価な物だから、このクラスのハンターだと持っている者も少ない。


 俺達はどうしていいかわからず、取り合えず隊長を探す。

 きっと何か指示を出してくれるはずだ。


 隊長はすぐに見つかった。

 護送車の側で救護の手伝いをしている。

 護送車は運転席付近に命中弾があったようで、もはや修理できるレベルを超えている。

 安全な場所に隠れていたはずだが、流れ弾にでもあたったんだろうか。


「エミリー、ミウ、隊長発見。あそこ」


 俺が早足で歩きながら指で指し示すと、2人は黙って俺についてくる。

 

 怪我をしたのは兵員輸送車に乗っていたハンター達がほとんどだ。

 車両から降りて小火器や歩兵用の対装甲火器でゴブリンの戦車に対抗していたのだ。

 もちろん生身の体でだ。

 そりゃあ怪我もするだろう。

 中には帰らぬ人となったハンターもいる。


 ちょっとした惨状にエミリーとミウは黙ったままだ。


 護送車の近くまで来ると囚人らしい6人が、拘束具をつけたまま地面に座っていた。

 いや、正確に言うと囚人服を着ている男性が4人とゴブリンが2匹だ。


 俺はてっきりミカエの仲間だから全員人間だと思ってたんだが、どうやらゴブリンにも仲間がいたのか?


 俺は隊長の側まで来ると声を掛けた。


「隊長、大変な戦いでしたね。で、そちらの方々はあの有名なミカエさんの仲間ですかね。でも肝心のミカエさんが見えないようですけど」


 俺は写真でミカエの顔を知っているし、性別も女だっていうのは有名で誰もが知っている。


 すると俺の方を振り返った隊長がちょっとだけ嫌な表情を見せた後、再び前を向いて作業を続けだしながら答える。


「ひどい戦いだったな。お前らもご苦労だった」


 隊長は俺の質問に答えてない。

 エミリーが口を挟む。


「あの、答えになってないですよね、隊長さん?」


「ああ、そうだな。これを見ちまったんだからそりゃあ疑問に思うだろうな。しょうがない。そっちの4人の男は確かにミカエの仲間だ。それで残りの2匹のゴブリンはお尋ね者の“ギガント”と休憩所で地下から侵入してきたゴブリンだよ」


 お尋ね者のギガントが最近捕まったって話は聞いたことあるな。

 ん?

 それじゃあミカエはどこ?

 俺の疑問をエミリーが代弁してくれる。


「ミカエさんは最初から乗ってなかったってことですか?」


「ああ、そういうことになる。ミカエは別の部隊が別ルートで輸送中だ」


 隊長の返答にエミリーの表情が険しくなり、一歩前に出てさらに追及する。


「どういうことでしょうか、隊長さん。ちゃんと答えてくださいね。これは契約上の問題にもなりますからね」


 契約という言葉を出されてさすがに困った様子を見せる隊長。


「契約の問題か。そうだな、俺が知らされているのはミカエの救出作戦という情報が入ったってことだ。ただな、保安官の情報ってのは意外と筒抜けでな、それで2つのルートで護送を行うことになった。つまり俺達はおとりの方だってことだ。それとだ、できるだけこの情報は秘匿したかったんで一部の者しかこの事は知らん」


 そこまで黙って聞いていたエミリーが首を傾げてさらに質問する。


「それならなんでお尋ね者のギガントが乗ってるんですか」


「うむ。そいつらはたまたま移送命令が送られて来たからだ。護送車の席に空きがあったから乗せたに過ぎない。さっき襲ってきたゴブリン共の目的はおそらく、このギガントを救うためだな。これは全くの誤算だたったがな。ミカエの仲間以外からも狙われるとはな」


「休憩所での地中から現れたそのゴブリンなんですけど、隷属の首輪をしてましたよね。ということは、そのギガントの仲間ってことなんですか?」


「いや、あれはミカエの仲間の差し金だ。このゴブリンがすべて吐いたよ。ミカエが護送車に乗ってるか確かめに来たんだそうだ」


「それじゃあ、ミカエの仲間とギガントの仲間の両方に狙われているってことですよね」


「まあ、そうなるのかな」


 そこまで聞いたエミリーが、今度は両腰に手を当てて一段声のトーンを上げて告げる。


「賃金のアップを要求します!」


 一瞬きょとんとした表情を見せる隊長だったが、すぐに表情をほころばせる。


「はははは、そうきたか!」


「笑いごとじゃないです。契約ではミカエとその仲間の護送となってます。それがいつの間にお尋ね者のゴブリンの護送も加わっています。おかしいですよね」


 この隊長は保安官事務所の護衛指揮官、つまり雇い主側ってことだ。


「わかった、悪かった。契約を出されると何も言えないよ。そうだな……」


 隊長が言い出す前にエミリーが先に要求を突きつける。


「予定の3倍の金額を要求します。それに加えて弾薬及び燃料代もそちらもちでお願いします」


「はあ? 3倍はないだろ。それに弾薬と燃料まで……」


「お願いします!!!」


「いくらなんでもそれは……」


 口ごもる隊長にエミリーは悪魔のような微笑みで畳みかける。


「ハンター協会に報告したらどうなるのでしょうね~」


「くっ……しょうがない。それで手を打とう」


 はい、エミリーの完全勝利です。


 この後俺達は怪我人の手当てや車両の修理などを手伝い、一段落した頃には日が沈みかけていた。


 一応無線が届く範囲には救難信号を送ったそうだが、誰とも連絡は取れなかったそうだ。

 日が暮れてしまったので移動は危険と判断した隊長は、この地で夜を明かす決断をする。


 俺達は魔獣の遠吠えが聞こえるこの地で、野営の準備をすることになる。


 しかしこんな状況とは裏腹に、その日の夜空には満天の星が輝き、ハンター達の心を癒すのだった。





次話は明日投稿予定です。


明日もどうぞよろしくお願いします。



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