36話 ゴブリン戦車隊
突然、敵戦車の砲弾がホーンラビットに集まりだす。
敵中でブレタン戦車の撃破というド派手アピールをしてしまったからな。
といっても敵は同士討ちの危険もあるため、むやみに撃つことはできないはず――いや、むやみに撃ってました。
さすがゴブリン!
味方同士の流れ弾で同士討ちを始めるゴブリン戦車。
ホーンラビットは意外と狙われているようでいて、あんまり狙われていないというか。
至近弾はあるけど命中するような砲弾は飛んでこない。
「ミウ、10時方向、距離300。敵戦車がこっちへ砲身を向けようとしてる!」
「はい、確認しました。狙います」
37㎜砲弾が飛ぶ。
しかし命中魔法がない今では、ミウの力量だけでは命中させることは難しい。
せめて戦車を停止させての射撃じゃないと当てられない。
案の定、砲弾は狙った戦車の手前の地面に着弾し、砂埃を上げるにとどまった。
後部装甲板に「ガンガン」と衝撃音が響く。
「エミリー、後に回り込まれてるぞ!」
後ろに回り込んだゴブリン戦車の銃撃がホーンラビットに命中したのだ。
しかし幸いな事に敵は機関銃搭載型のスローリン戦車だった。
さすがに6.5㎜のゴブリン製機関銃で撃ち抜けるほど薄い装甲ではない。
エミリーの眉間にしわが寄り、ヤンキーのようなセリフを吐く。
「ああんっ? なんだって?」
チラッとバックミラーを見たエミリーは戦車を急回転させる。
すると車体は180度ターンをして、真後ろにいたスローリン戦車の正面に向きを変えた。
「エミリー、そんな操縦したらキャタピラ外れるだろ!」
俺の声が聞こえてるのかいないのか、エミリーは俺を無視したままエンジンを吹かす。
「チキンレースの始まりだよ!」
エミリーの言葉遣いが怖いんですけど。
敵スローリン戦車も真正面から速度を上げて突っ込んでくる。
やばい、やばい、あっちが避けなかったらおしまいじゃねえか!
っていうか、エミリーが避けるはずないからぶつける!
スローリン戦車のハッチが開き、ゴブリンが顔を出してこちらを指さす。
エミリーは笑みを浮かべて中指をオッ立てた片手を高々と上げる。
そこへ突然、敵スローリン戦車に砲弾が命中して木っ端みじんに吹っ飛んだ。
あっという間の出来事だった。
砲弾は味方陣地から飛んできたようだ。
時々味方陣地からの砲撃が、いい具合に俺達のフォローをしてくれることもあるということだ。
ただしエミリーはそれを舌打ちしてたけどな。
俺は新たに標的を見つけようと周囲を見回す。
そこで気になったのが魔獣どもだ。
意外とウザイのがこのゴブリンの魔獣使いだ。
サイに似た魔獣からの砲撃というのが、ゴブリンのブレタン戦車よりも正確だった。
俺達の乗るホーラビット同様、奴らもオープントップなので視界は良好。
つまり、戦車のような閉鎖された空間の中からだと視界が制限されるので周りの状況が把握しにくい。
その点オープントップは視界良好の上、魔獣の場合だとさらに魔獣自体の目と鼻と耳が加わる。
敵がどこに移動しようと目で追うことができる訳だ。
「ミウ、1時方向距離300の魔獣だ。榴弾込めるんで吹き飛ばしてくれ」
俺の言葉にミウが「任せて下さい」とばかりに榴弾をぶっ放す。
見事に外れてしまったんだが徹甲弾ではなく榴弾だ。
着弾と同時に爆風と破片をまき散らす。
そこが徹甲弾とは大きく違うところ。
だから外しても破片が敵の魔獣を襲う。
といっても37㎜砲弾のような小口径砲だと大した威力はない。
サイのような魔獣の足元にちょこちょこっと破片を飛ばしたに過ぎない。
でもそのちょこちょこっとした破片攻撃が、サイの魔獣の爪の間にでも刺さったのか。突然魔獣が暴れだした。
前足を大きく振り上げて吠え声を上げた。
そうなると魔獣の背中に設置してある搭乗員用の箱は大変だ。
すべてのゴブリン搭乗員は箱から外に投げ出され、一気に数メートルの高さから地面に激突した。
中にはそのまま魔獣に踏み潰されるゴブリンもいいる。
これでその主を失った魔獣は敵ではなくなった。
だが、他のゴブリンが騎乗する魔獣は違った。
急に矛先を俺達に向けた。
残り3頭いた魔獣すべてがこちらに向けて歩を進め始める。
「エミリー~、やばいよ、やばいよ。撤退!」
俺の言葉にエミリーは鼻で笑うと、なぜか後ろに振り向いて俺とミウに敬礼する。
そして再び前に顔を向けると、うっすら悪魔のような笑みを浮かべてエンジンを吹かし始める。
「蹂躙!」
と叫んでエミリーは一気にクラッチを繋いだ。
キャタピラが地面を激しく擦って空回転するも、すぐに地面になじみ加速する。
土埃を上げたホーンラビットが3匹の魔獣に向かって突進する。
「エミリーっ! お兄ちゃんはお前をそんな子に育てた覚えはないぞぉお!」
俺の言葉が荒野に悲しく響く。
目に涙を浮かべながらも俺は榴弾を装填する。
するとそれを見計らってミウが引き金を引く。
すると一番右にいる魔獣の搭乗員用の“箱”に砲弾は命中した。
ミウだってたまには当てることもあるのだ。
「ミウ、やるな。ナイスショットだよ」
と俺が称えると、ミウは恥ずかしそうに答える。
「あの、実は真ん中の魔獣の頭を狙ったんです……すいません」
「あ、えっと。まぐれも実力の内かな……つ、次の弾、装填するぜ」
乗組員用の箱に命中した37㎜榴弾はゴブリン搭乗員をなぎ倒す。
爆風で血みどろになるゴブリン。
衝撃で箱から落下して魔獣に踏み潰されるゴブリン。
パニックに陥り魔獣から飛び降りて地面に激突したゴブリン。
結局その魔獣の搭乗員は全員いなくなった。
もう1匹の魔獣は逃走に入るが、3匹目の魔獣はこちらに突進してくる。
するとエミリーは叫びながらさっきよりでかいファイヤーボールを放つ。
巨大な炎の球が宙を舞う。
それは魔獣の前足に着弾し、その足を焼け焦がして爆散する。
魔獣はたまらず背中の乗員のゴブリンもろとも地面に倒れる。
そこへエミリーが笑い声を高らかに、何の躊躇もなく蹂躙したのだった。
ここへきて味方陣地に動きが見える。
今まで有利な地形に隠れながら攻撃していた戦車が1両、また1両と陣地から這い出してきたのだ。
そして俺達同様に敵部隊へと突進していく。
すると残った味方戦車も我も続けとばかりに一斉に前進を始めた。
そうなると完全に戦局は俺達に傾いた。
ゴブリン戦車は次々に味方戦車砲により被弾していく。
どれくらいの時間がたっただろうか。
敵ゴブリン戦車部隊と生き残った魔獣が退却を始めた。
逃げる敵戦車にここぞとばかりに、ハンター達からの砲撃が集中する。
なんたって後面装甲は薄いからね。
敵戦車も砲塔を後ろに向けて応戦するが、もはや威嚇射撃でしかない。
魔獣もしっぽを振って逃げていく。
俺はホッとして肩の力が抜ける。
しかしすぐに姿勢を正して気を引き締める。
「エミリー、ミウ、2人とも怪我はないか」
俺の質問に小さく「大丈夫」と答える2人。
無事を確認したんで味方陣地へと戻るようにとエミリーに指示を出すと。
「は~い、戻りま~す」
っておい、さっきまでの豹変ぶりはどこいったんだよ!
エミリーの力ない返事のせいか、ホーンラビットの走りもなんだか適当に感じる。
陣地に戻ると他のハンターの戦車も集まってきている。
だけど数が少ない。
そう、今の戦いで破壊されてしまっていたからだ。
怪我人も結構出ているらしく、地面に寝かせて治療をしている姿が多数みられる。
ふと、護送車に目をやると、なんと護送車両にも砲弾が命中したらしく大変なことになっていた。
俺達も何か手伝おうと急いでホーラビットから下車するのだった。
次話は明日投稿予定です。
明日もよろしくお願いします。




