35話 蹂躙
あれは人工物の光の反射じゃないかと思う。
双眼鏡のレンズに反射したんじゃないかって気がする。
もしかしてスナイパーのスコープか?
勝手に妄想してしまう。
でもあいにくこっちは戦闘中だ。
狙撃したけりゃ勝手にすればいい。
それどころではないのだ。
ゴブリン戦車をほったらかして、未確認の反射光を調べに行くなんてことはできない。
あとで護衛部隊の隊長に何を言われるかわからないからな。
一応後で報告はするよ。
気になるけどしょうがないので戦線に戻る。
今度は敵の側面からの攻撃だ。
「ミウ、命中魔法よろしく!」
ミウの魔法の持続力はどうやら2回発射までということがわかってきた。
2発発射ごとに魔法を掛ければ問題なしだ。
「わかりました、魔法掛けます」
ミウが魔法を掛ける。
でも魔法を掛ける前と後との37㎜砲の見た目は全く変わらない。
誰もが「本当に魔法掛かってるの」って思うだろう。
停止射撃しなくても命中は確実なので、逆に敵の目標にならないように走行射撃をする。
「1時方向、距離200。側面を見せてる白いラインの戦車」
「了解です。撃ちます!」
ミウはいつものように照準眼鏡を覗きながら発射宣言をした後、ゆっくりと引き金を引き絞る。
そしていつものように徹甲弾は敵戦車に命中した。
「敵戦車、側面装甲を貫徹!」
しかし敵戦車はまだ動いてやがる。
少しだけ速度が遅くなったがすぐに持ち直した。
徹甲榴弾だったら装甲貫徹した後に車内で砲弾が爆発するから、また結果は違っていたかもしれない。
でも値段がちょっとだけ高い。
「ミウ、命中したけど効果がなかったみたい。もう一回いくぞ」
「はい!」
ミウが慎重に狙いを定める。
いやさ、どうせ当たるんだから慎重に狙わなくてもいいと思うぞ。
「今度こそ仕留めます、とどめ!」
37㎜砲弾がバナナのように曲がって敵の戦車に吸い込まれていく。
先ほどと同じ戦車に砲弾は命中だ。
しかし進入角度が浅かったのか、37㎜砲弾は敵戦車の装甲をすべるように弾かれてしまう。
「くそ、弾かれたぞ。ミウ、また魔法頼む」
俺は次弾装填を急ぐ。
しかしミウが申し訳なさそうに言った。
「すいません、魔力切れです……」
2弾も受けた敵戦車が俺達のホーンラビットに気が付いて、砲塔をゆっくりとこちらに向ける。
「エミリー、気が付かれた! 逃げろ!!」
そう俺は叫ぶのだが、よく考えたら遮蔽物など近くにない。
いったいどこへ逃げればいいのか、言い出した自分でもわからない。
エミリーもそれに気が付いて言い返してくる。
「逃げるぅ? それよりあの戦車蹂躙してやるわ!」
でた、エミリーの豹変ぶり。
これは確実にスイッチ入るっぽいぞ!
前に乗っていた車の時もそういう兆候はあったんだけど、その時に状況が似てるかも。
俺が静止するのも無視して、エミリーは突っ込んでいく。
あああああ、せっかく側面に逃げてきたのに~、また敵陣の真っただ中かよ。
敵戦車の砲口から閃光が放たれる。
こっちに向かって主砲を発射したのだ。
敵の砲弾はホーンラビットのバックミラーを破壊して後方へ着弾した。
俺は思わず言葉を漏らす。
「あっぶねえ~~」
するとエミリーはいつもより低い声で。
「ブレタン戦車のくせに~っ」
敵が次弾装填する前にホーンラビットは急接近。
エミリーは敵戦車の側面に激突する気満々だ。
しかし敵戦車もそれがわかったのか、激突する寸前に車体の向きを変えて避けようとした。
それでもエミリーは気合で敵戦車へ追随する。
そしてエミリーの口から出たとは思えない言葉を響かせて、敵ブレタン戦車の側面にホーンラビットを衝突させた。
「いてこましたろかぁぁぁあああ!!」
ああ、俺の妹が壊れていく……
敵戦車は後部に衝撃を受けたことにより、くるっと車体を90度向きを変えた。
ホーンラビットの真ん前に敵戦車がきた。
それも敵戦車は向きを変えたことにより、装甲の薄い車体後部が目の前だ。
その時、操縦しているエミリーが魔法を放った!
それはファイヤーボールだ。
オープントップ式の戦車だからできる技だ。
エミリーが放った炎の塊は車体後部を向けたブレタン戦車に直撃。
しかしさすがにゴブリン製とはいえ金属で出来た戦車だ。
ファイヤーボールは後面装甲に命中するやいなや四散してしまった。
ただ、その一撃でブレタン戦車は止まる。
俺はニヤリと笑いながらつぶやく。
「ミウ、これなら的を外さないよな?」
そして再びオープントップ式のこの戦車の有利な点。
それは視界が優れていること。
激突しながらもはっきりと敵戦車の動向が見える。
接近戦でもすぐに状況判断して、砲口を標的に向けるのは容易い。
「ケンさん、さすがに私でもこれは外しませんよ!」
そう言ってミウが徹甲弾を発射した。
わずか数メートルほどの距離、零距離射撃と言える距離で停止目標だ。
徹甲弾は敵ブレタン戦車の後部装甲をいとも簡単に撃ち抜いた。
すると戦車砲の砲口からおびただしい煙が噴出し始める。
敵戦車内で火災が発生したのだろう。
まもなくして戦車のハッチが開き、車内からゴブリンが1匹だけフラフラになりながらも這い出してきた。
開いたハッチからは大量の煙が噴出する。
「ミウ、ナイスショット。戦車1両撃破!」
しかしそれで終わりではなかった。
エミリーがその脱出しようとしているゴブリンを蹂躙したのだ。
それも敵戦車を乗り越えて戦車ごとゴブリンを蹂躙していった。
戦車を乗り越えるだと?
ありえないだろ!
だいたいこの戦車にそんなエンジンパワーあったか?
誰か俺の妹を止めてくれ!
次話は明日の夜に投稿予定です。
明日もどうぞよろしくお願いします。




