31話 トイレ戦
エミリーとミウの2人の肩越しに、ゴブリンの手首が床に落ちるのが見えた。
俺は咄嗟に2人を個室トイレに押し飛ばし、自分も反対側の個室トイレに飛び込んだ。
臭っ!
その刹那、床に落ちたゴブリンの手首は握っていた手榴弾を開放した。
数秒後、女子トイレに爆発音が鳴り響く。
爆風と破片が壁や個室トイレの扉を襲う。
天井板にまで被害は届き、上から瓦礫が降り注ぐ。
しばらくして、静寂を取り戻したトイレ内には煙と誇りが漂う。
俺はなんとか無事だ。
左腕に浅い傷を負ったのと、目の前の物凄い臭いの元で鼻をやられたくらいか。
そうだ、エミリーとミウ!
「エミリー、ミウ、大丈夫か!」
俺は慌てて体を起こしながら2人の方を見る。
個室トイレは四方の壁が倒れて砕けていて、その瓦礫の中に2人は倒れている。
エミリーは大股を開いて仰向けで倒れていて、その股の間にミウが顔を埋めて倒れている状態だ。
ミウが煙のため、顔を埋めたその状態のまま咳き込んでいる。
するとエミリーが「ふひ、ひん、ひん」と妙な声を出す。
この状況でそんな大人の遊びができるということは、どうやら2人は無事だといっても過言ではないだろう。
いや、むしろ余裕なんじゃないか。
「2人とも怪我はない……みたいだよね」
俺の問いかけに「はっ」とした様子でエミリーが目を開ける。
そして自分の股間に顔を埋めるミウを見た。
「ひああああ、あっ、あっ、ミウちゃあん、そ、そこはダメぇぇぇ!」
大人の遊びはワンステージ上の段階へと入ったようだ。
エミリーの叫びにミウが正気を取り戻す。
「ごほ、ごほ、ふご、ふご、んん?」
「ミウちゃん、ミウちゃん。ギブ、ギブよ!」
ミウの寝技は凄いらしいな。
あっという間にエミリーはギブアップかよ。
ミウがやっと顔を離してキョロキョロする。
「あれ、どうなったんですか。あ、ゴブリンは!?」
やっと解放されたエミリーは、精気を抜かれたような表情で答える。
「もう、大丈夫……ゴブリンは2匹とも木っ端みじんよ……」
それを聞いたミウは深くため息を吐き、肩の力を抜くのだった。
どうやらエミリーの精神も木っ端みじんのようだ。
2人とも大きな怪我はなかったが、小さな擦り傷は体中にあった。
心身共に疲れ切った俺達3人は、ホーンラビットに乗り込んで、護衛部隊の集まる元へと走り出すのだった。
途中、破戒された女子トイレへ駆けつける警備員とすれ違うのだが、いちいち報告が面倒なので何食わぬ顔で通り過ぎた。
俺達が戻るとすぐに護送部隊は出発することになった。
なんでもゴブリンの襲撃は、ミカエを救出するための作戦だったのではないかと考えたようだ。
あまりにも襲撃タイミングが怪しいからだ。
それと、俺も言われて気が付いたことなんだけど、襲撃してきたゴブリンすべてにアンクレットが装着されていた。
『誓いのアンクレット』と呼ばれる魔法の品だ。
首輪型であれば隷属魔法なのだが、アンクレット型だと契約に近い。
ある程度本人の意思が重要視されるタイプだ。
ただ、ある一定の契約を登録すれば、その契約に背いた行為はアンクレットに記録される。
隷属の首輪のように罰が発動することはない。
襲撃したすべてのゴブリンの足首には、そのアンクレットがはめられていたというのだ。
つまり襲撃を仕掛けてきたゴブリンは、何者かに依頼された可能性が高いということだな。
そうなると、この場所に長居は危険だとしてすぐに出発したわけだ。
幸いにも護送部隊に被害は出ていない。
いや、俺達ドランキーラビッツだけは、少しばかりの精神的ダメージを被っているか。
しかしやっぱり戦車エースのミカエさんって凄い人物なんだなと思う。違うな、“元”戦車エースか。
捕まった後でも彼女を救おうとする誰かがいるんだからな。
そういえばまだ手配写真でのミカエさんしか見てないな。
実物はどんな人なんだろ。
2時間ほど街道から外れた道を走り、再び街道へと戻る。
この先にある川を超えるには、どうしても街道上にある橋を利用しなくてはいけないからだ。
もし待ち伏せがあるならば高確率の場所でもある。
そのかわり橋を守る警備も厳重だ。
橋の入り口にはトーチカが据えられていて、長砲身の76㎜砲も睨みを効かせている。
そう簡単には占拠されるような防備ではないね。
ここに攻撃を仕掛けるというならば戦車が何両も必要だろう。
一応警戒しながら俺達護送部隊は橋に差しかかる。
すると川の上流から何かが多数、流れてくるのが見える
それはゴブリンの河川部隊の小舟だった。
次話投稿は明日の予定です。
ストックの量が投稿に追いつかれてきました。
ちょっとピンチ。
明日もどうぞ宜しくお願い致します。
 




