30話 手榴弾
俺は1人でミウとエミリーのトイレ待ちなのだが、一応俺の周りというか近辺には護送部隊のハンター達が集まってはいる。
もちろん護衛の戦車もエンジンをかけて警戒中だ。
近くにいたハンターに聞いたところ、ゴブリンの侵入用の洞穴は全部で4か所発見したそうだ。
その4か所全部の洞穴はすでに制圧しているとの事だ。
ゴブリン共は制圧済みだが一応まだ警戒態勢は続いている。食事中だった者もいるようで、ホットドックを咥えたまま銃を持つハンターもいる。
意外とのどかな雰囲気にも見えるのだが。
しばらくして警報のサイレンが鳴りやんだ。
しかしエミリーとミウがまだ戻らない。
これだから女は困るな。
このままだと護送車両が出発してしまう。
しょうがない、連れ戻しに行くか。
俺は女子トイレに向かって歩き出す。
心なしかテンションが上がる。
あ、俺、無意識のうちにスキップしてたよ。
女子トイレは男子トイレに比べてだいぶ立派な作りの建物だった。
しかも塀が建物の周囲を覆っている。
すぐ近くには俺たちの戦車、ホーンラビットが停車している。
ここにいることは間違いないな。
俺は戦車内に置きっぱなしだった38型短機関銃を肩に掛け、若干ニヤケながら女子トイレに向かう。
「お~いっ、エミリーとミウ。そろそろ出発だってよぉ。いい加減出てこいや!」
俺が塀越しに声を掛けるのだが返事がない。
あれ、まだトイレの中で頑張ってる最中なのかな?
もう一度声を掛ける。
「返事がないなら中入るぞ~。これは緊急事態ってことで女子トイレに入るんだからな。痴漢じゃないぞ。入るぞ~~!!」
俺は塀の中へと入っていく。
すぐに女子トイレの出入り口が目に入る。
女子トイレといえども男子トイレ同様ちょっと臭いな。
それにしてもなんか変。
トイレの出入り口のすぐ横の地面に穴が開いている。
この穴もトイレなのか。
なわけないか。
じゃあ、これって……。
そおっと短機関銃を構える。
穴の中は暗くて見えない。
ここもゴブリンの潜入用の穴か?
まさかエミリーとミウはこの穴に引きずり込まれたんじゃないだろうな。
俺は短機関銃を構えたまま穴に近づく。
女子トイレ内が奥まで見えるあたり、出入り口のちょうど前まで来て、ふと、視界の隅っこに人の気配を感じた。
俺は視線を穴からトイレ内へと移すと、トイレの一番奥の方に人影があることに気が付く。
奥の壁際にエミリーとミウが寄り添うように壁にもたれ掛かっている。エミリーは拳銃を構えており、ミウはピンと抜いた状態の手榴弾を両手で握りしめ、その両手を前に突き出している。
そしてエミリーとミウに相対するように反対の壁には、ゴブリンが2匹がやはり拳銃を構え手榴弾を握りしめていた。
あ、もしかしてこれって、お互いに手榴弾を警戒して銃を撃つことができないし、だからといってこの緊迫した状況では大声を出すこともできない。
ましてや誰かが動こうものならこの緊張した空気が壊れ、お互いが銃の引き金を引きいたうえで手榴弾を手から離すだろう。
それくらいこのトイレは緊迫した空間だった。
しかし、どんな緊迫した空間だろうが所詮ここは、街から遠く離れた辺鄙な場所にある簡易トイレだ。
そう、臭いがきついのだ。
命のやり取りが交差する緊迫した空間なのに臭い。
なんともシュールな状況だ。
やばい、この緊張の糸を切るとぜってえ修羅場と化すな、ここは。
それに臭いし。
どうする?
鼻曲がりそうだし。
手榴弾放り込むか。
だめだ、エミリーとミウがいるんだった。
ああ、臭いが目に染みる。
ええい、面倒が臭い!
そう、面倒臭いや‼
俺はゴブリンに向けて短機関銃をぶっぱなした。
俺は2匹のゴブリンへと20発ほど銃弾を叩き込んで引き金を引く指を緩めた。
なんの抵抗もできずにハチの巣となった2匹のゴブリンを確認した俺は、どうだとばかりにエミリーとミウの方を見る。
するとエミリーがゴブリンの方を見ろと顎をクイクイと動かす。
何が言いたいんだよ。
俺は再びゴブリン2匹に目を向けると、2匹とも完全に息絶えているのは確実なのだが、そのうちの1匹のゴブリンの片方の手首がちぎれかけていて、今にも床に落ちそうなのだ。
さらによくよく見てみると、その千切れかかった手には、安全ピンを抜いた手榴弾が握られていた。
その手首が風に揺られてぶらぶらと揺れている。
やばい、落ちたら爆発する!
エミリーとミウはその場で立ち上がろうとするのだが、エミリーは足が痺れてしまったのか真ともに立ち上がれない。
ミウに掴まってなんとか立ち上がるのだが、ゆっくりとした足取りで歩くのも精一杯みたいだ。
「早くしろっ。ゴブリンの手首が千切れそうだぞ」
俺は手招きしながら2人を呼ぶのだが、2人の速度は上がらない。
そんなエミリーが俺に文句を言う。
「あんなになるまで撃つことないじゃないの。お兄ちゃんのせいだからね。少しは手伝ってよ!」
「わ~ったよ。手伝えばいいんだろ」
俺は短機関銃を背中に背負うと2人のところまで歩いて行く。
「まったく、世話がやける――」
俺が2人の側まで来た時だった。
ゴブリンの手首はポトリと床に落ちたのだった。
次話投稿は明日の予定です。
明日もよろしくお願いします。
 




