262話 自走砲(ちょんまげ)再び
俺達はガンキャリアーから、コボルト製戦車に乗り換えて王都東門を目指すことになった。
そして俺達が選んだのは1号式砲戦車ホニーⅡが1両だ。
いわゆる自走砲と呼ばれる車両なんだが、コボルト軍的には砲戦車と言う呼び名らしい。
7人と中途半端な人数なんだが、とりあえず1両だけ借りた。
それにDR部隊と合流すれば俺の戦車があるはずだしな。
選択肢に75mm野砲装備の1号式砲戦車ホニーⅠもあったんだが、オーク製戦車の装甲に効くのか不安があったんで、105㎜野砲搭載のこちらを選択した。
なんたって105㎜砲を搭載しているのだ。
これならいくら何でもオークのタイプ34にも効果あるだろう。
ただし、砲自体がほぼ野戦砲のままなので発射するのに手間取りそうだ。
それ以外にも数種類の豆鉄砲搭載の紙装甲戦車があったのだが、もちろんそれらには目もくれなかった。
ただし、借りた後にエミリーから「また、ちょんまげ戦車にしたの?」と呆れられた。
それを受けてバルテン軍曹が「でかいちょんまげだな。うははは」とか言いいやがるから、思わず火炎手榴弾を投げそうになったぞ。
ミウからは「砲身を回転させたかったです」と砲塔付が良かったと言われてしまった。
折角シーマンホタルという砲塔付き戦車に乗っていたのに、またも自走砲に逆戻りだ。
それとコボルト製の対戦車携帯火器も借りてきた。
5号式45㎜無反動砲とか言う個人用携帯兵器と、99号式破甲爆雷とかいう亀の子みたいな爆薬だ。
5号式45㎜無反動砲は成形炸薬弾を飛ばす武器らしいのだが、長い筒の先に円筒形の弾頭が付いていて、それを敵戦車に飛ばすというもの。
コボルト兵の説明によると有効射程は50m。
しかし30m以内に近づかないと命中は難しいと言われた。
「それって30mが有効射程だろっ」と突っ込んだのだが、通訳のナミはそれを訳さなかった。
ま、当然か。
亀の子みたいな爆薬は磁石で敵戦車に張り付けて爆発させるもので、20㎜厚の装甲を破壊できると言われた。
2個重ねれば40㎜までいけるとか言っていたけど、魔族製の吸着地雷は1個で140㎜の装甲をぶち破るぞ、と喉元まで出たんだが、どうせ訳してくれないだろうから飲みこんだ。
無償で借りる身分で文句など言えません。
だけどコボルト兵の間で俺を「キショイ」とか「キショッ」とか呼ぶのが定着しつつあるようで、それだけはほんと勘弁してほしい。
1号式砲戦車ホニーⅡの操縦はもちろんエミリーが担当し、バルテン軍曹が装填手、砲手がミウ、無線手にナミ、戦車長にオモローを割り当てた。
経験は浅いがオモローが階級的に車長となるのだが、そこはバルテン軍曹にフォローをしてもらう。
俺とリッチ少尉はというと、車外戦闘要員だ。
無反動砲と亀の子を使っての対戦車戦闘になる。
そう言えば、リッチ少尉の車外戦闘など近くで見たことないからな。
凄い期待しちゃうんだが、油断するとゾンビにされそうだから気は抜かない様にしようっと。
さて出発したは良いが、やはり敵の銃砲撃が集中する。
ガンキャリアーと同様にホニーⅡはオープントップ式なのだが、姿勢が高い分砲弾の破片や銃弾が良く当たる。
砲弾も16発しか積めないとか言われたんで、車体後部のエンジンルームの上に予備砲弾を木箱ごと載せたんだが、当然のことながら装甲は無いので敵弾が当たったら終わりだ。
それで敵の銃弾や砲弾の破片が車体に当たるたびに、オモローが車体後部の予備砲弾を見ながら騒いでうるさい。
俺とリッチ少尉はその予備砲弾の木箱の両脇にいるんだが、まるでオモローが俺達を怖がっているようで何かやだな。
リッチ少尉と一緒にしないでほしい。
そして砲弾が降り注ぎオモローが騒ぐ中、エミリーの破天荒な操縦で無事に東門をくぐった。
すると戦闘は東門からそう遠くない場所で行われていた。
それは敵が東門まで迫っているということを意味する。
見ればDR部隊の戦車も見えるが、防御陣地内を突破されて入り込んだオーク戦車も見える。
その敵戦車は俺達に気が付いていないみたいだな。
チャンス!
すぐさまホニーⅡを停車させて105㎜砲の射撃準備をしないと。
発射用の装薬と弾頭が別になっているこの元野砲は、装薬と弾頭の2種類を装填しなければならず、薬莢式の一体式に慣れた俺達にとっては非常に面倒臭い。
だがオモローはオロオロしていて乗員に指示を出せていない。
しょうがない、言ってやるか。
「オモロー、指示を!」
俺の言葉にハッとした様子で車長であるオモローが反応した。
「ろ、ロローよっ! 目標正面のタイプ34、距離は……400、徹甲弾装填」
オモローの指示するより前にすでに発射準備に取り掛かっていたバルテン軍曹が即座に告げる。
「装填、完了~」
続いてミウ。
「照準良しです、オロロー中尉」
「だからオモローよ! 撃てっ!!」
おいおい、自分でオモローって言っちゃったよ、それも気が付いてないし。
しかしミウよ、お前のその勇気、嫌いじゃないぞ。
105㎜砲の反動は凄まじい。
車体が思った以上に揺れた。
「お、お、オモローって言っちゃったじゃないの!」
突っ込みが遅い!
それに俺を睨んで言うな!
すぐにナミが知らせてくる。
「タイプ34炎上」
ミウの腕も相当上がっているよな。
この距離じゃもう魔法無くても外さない。
しかも初めて撃つ砲なのにだ。
「ミウ、照準器の具合はどうだ?」
一応聞いてみる。
「かなり暗いですけどなんとかなりそうです。それと照準点の調整が少し必要そうですけど」
やはりコボルト製の照準器は性能が良くないか。
しかしそれはどうにもならない。
あと、照準の調整は実戦でやってもらうしかない。
ホニーⅡを味方へと近づけると、見慣れた戦車が見えてきた。
シーマン戦車にクロムニエル戦車、そして251装甲輸送車などの車両も数台。
ほとんどがDR部隊旗を掲げているが、そうでない車両もいる。
王都防衛隊の軍司令部直属の部隊もいる様だ。
「ケンちゃん!」
真っ先に俺を見つけて駆け寄って来たのはケイだった。
「ケイ、無事だったか!」
「ケンちゃんこそ、それにみんなも……」
そう言いながらケイは目に涙を浮かべる。
聞けばDR部隊の車両のほとんどは破壊または行動不能状態らしい。
自走砲や軽装甲の車両はほとんど破壊されてしまったそうだ。
かなり悲惨な戦いだったらしい。
そんな中でもタクとソーヤは生きているらしい。
それを聞いて少しほっとした。
何だかんだ言ってもタクとソーヤは長い付き合いだからな。
ふと見ればライフル銃を使った墓標が幾つも立っている。
「ケイ、あの墓標は……」
するとケイが悲しそうな表情で言った。
「あれはDR部隊の仲間のよ。あれくらいしかできなくて……」
お互いに言葉が詰まる。
ホニーⅡに乗っている他のメンバーもザワついている。
死者が出たのはショックだ。
それも10人以上の戦死者数は初めての経験である。
あれだけポーションをふんだんに用意してこれだ。
だが、ここで落ち込んでばかりはいられない。
これ以上の戦死者を出さない為にも。
俺は表情を改めて強引に話題を変える。
「ケイ、今ここの指揮は誰が執っている?」
「あ、校長よ。変わってないから。あっちの陣地にいるわよ」
「そうか、まずは報告へ行ってくる」
俺はホニーⅡを防御陣地へ移動するように言った後、あの元校長の王都防衛隊軍司令官の所へと向かった。
もちろん戦闘は続いているから砲弾は常に頭上から振ってくるし、銃弾も飛び交っている。
あちこちで歩兵や戦車が銃砲撃を放っている。
戦闘している歩兵の大半が負傷兵のようだ。
その戦場から少しだけ下がった場所にある、倒壊したビルの一画にひっそりと司令部はあった。
入り口扉は吹き飛ばされたのかすでにないが、ドア代わりに汚い布が張ってある。
窓ガラスなどもなく、中が丸見えである。
小さな一画に土埃でまみれたテーブルが1つ置かれていて、崩れかけた壁には何やら色々と書きこまれた地図が貼ってある。
何人かの士官がそこにいた。
真っ先に逃げずに最後まで残っているのは感心するが、生き残るつもりはないんだろうか。
「失礼します。モリス中尉、ただいま戻りました!」
俺が入って行くと、一斉に視線が集まる。
その中の大尉が声を掛けてきた。
「なんだ、見ない顔だな」
「モリス中尉です。特殊作戦の任務から返りました。その報告をしたいのですが」
「そうか、これは驚いた。貴官があの“騎士王”か……ああ、ちょっと待っていてくれ。マッキ中将を読んでくる」
そう言うと、奥にある階段を登って行く。
今『騎士王』って言ったよな。
もしかして俺の二つ名か?
一騎打ちとかよくやったからなのかな。
しかし悪くない二つ名じゃね?
うひひ、騎士王かあ、むふふふ。
それと校長の名前を初めて聞いた。
でも何故だか昔に聞いたことがあるような気もする。
しばらくするとその元校長のマッキ司令官が双眼鏡を持って降りて来る。
高いところから敵情を視察していたらしい。
軍司令官が自らやることじゃないだろうに。
狙撃されるぞ?
「モリス中尉、只今戻りました。あの、特殊作戦の報告をしたいのですが」
「そうじゃったな。ご苦労じゃった。報告を聞こうかのお」
特殊作戦部隊の隊長であるデッシ大佐に報告じゃないんだな。
ってゆうか、デッシ大佐や特殊作戦本部員がいない。
ま、いいか。
そこで俺は撮って来たカメラとフィルムを渡し作戦の報告をしたのだが、マッキ司令官の顔色が余りよろしくない。
「――以上が作戦報告です。それと敵情を撮影したカメラとフィルムです」
するとマッキ司令官は悲しそうな表情で言った。
「そうか、大変じゃったのお。魔族が毒ガスロケットを撃ち込もうとしていたとはのう。まったく驚きじゃよ。じゃがな、そのカメラとフィルムはサンド島の統合本部へ持って行ってもらえんかのう。ここでは必要無いじゃろ」
「あのそのことなんですけど……ここにいる部隊全員での撤退はしないのですか」
俺の言葉を聞いてマッキ司令官は、薄っすらと笑みを浮かべる。
その表情は笑顔なのに悲しそうであった。
文字数の調整やら手直しで大幅に時間が掛かってしまいました。
ホニーⅡの元ネタは「一式十糎自走砲 ホニⅡ」です。
旧日本軍の戦車です。
5式45㎜無反動砲の元ネタは「試製五式四十五粍簡易無反動砲」です。
格好悪いですw
照準装置もなく、命中率は期待できない代物。
99号式破甲爆雷の元ネタは旧日本軍の「九九式破甲爆雷」で、その形状から亀の子と呼ばれていたそうです。
1300gで直径128㎜となっているので、意外と小さいです。
さて、次回予告
王都東側の一画に追い込まれた王都軍とDR部隊、さてどうやってこの窮地を脱出するのか?!
というところで次回もよろしくお願いいたします。




