25話 裁判
鹵獲したゴブリンの戦車、ブレタン戦車へはエミリーが乗り込み操縦してもらい、ホーンラビットは俺が操縦している。
そう、ブレタン戦車は動ける状態で確保できたのだ。
ゴブリンの戦車兵捕虜はサキ達のトラックに乗せてもらっている。
最後の大逆転で、俺達のチーム“ドランキーラビッツ”が大稼ぎしたのだ。
だってゴブリン製ではあるけど動く戦車に捕虜のゴブリンが3匹だ。弾薬代金や燃料代を差引いても黒字確定だ。
でも銀牙のチームも捕虜3匹いるし、ゴブリンも4~5匹葬ってるんじゃないかな。そうなると燃料代引いても一応はプラスになるはずだ。
でも5人で頭割りすると手取りは低いよな。
シャークスは盗賊をやはり4~5匹討伐しただけだしな。
戦車にもだいぶ被害が被ってるから、修理代や弾薬費用を考えるとだいぶマイナスになるんじゃないのか。
ゴブリン戦車にぶつけられた箇所など大きく変形した上に、ところどころに亀裂が入ってしまっているくらいだ。
間違いなく赤字だな。
いやまてよ。
ゴブリン盗賊のお宝を申告しないで懐へ入れてるだろうからな、それ次第か。
所詮ゴブリン盗賊だから、どうせ大したものはないと思うけどね。
俺達のドランキーラビッツは大きく稼ぐことが出来、反対に金髪リーゼント達はおそらくからっきしだ。
なんか笑いが込み上げてくるぜ!
途中幾度か魔獣が出現したが戦車で蹴散らし、無事にアシリアの街にたどり着いた。
そしてハンター協会へ報告へ行こうという段階になって、シャークスのメンバーが俺達メンバーに何やらいちゃもんをつけてきやがった。
その内容というのがゴブリン戦車、つまりブレタンの所有権利についてだ。
俺は最初、金髪リーゼントの言っている意味が理解できなかった。
しかし、よくよく聞いていると何となくわかってきた。
こいつは頭がおかしいという事を。
奴らの言い分はこうだ。
突然街道からゴブリン戦車が現れた。
それでシャークスの35型戦車の車長であるセイヤが、咄嗟の判断で操縦手のタモツに指示を出した。
その指示というのが車体を衝突させろというものだったそうだ。
そういえば金髪リーゼントってセイヤって言うんだったな。
絶対忘れないとか言ってて忘れてたよ。
突然出て来たゴブリン戦車に対して、咄嗟の判断で敵戦車へ衝突させる指示までの時間的余裕はなかったと思うんだけどね。
まあ、それは百歩譲って認めたとしてもだ。
「だから俺達シャークスの取り分を分けてもらおう」
ってどういう事だよ。
完全に斜め上をいく考え方だろ。
自分達も攻撃に参加したから取り分はよこせって事らしい。
こいつら帰りの戦車内でずっとこういった悪知恵を考えていやがったな。
さすがにこの言い分には面喰った。
ミウなどは口を開いたまましばらくポカンとしていたもんな。
エミリーに関しては俺に助けを求めてきたし。
「ね、ね、お兄ちゃん、どのタイミングで笑うの?」
笑うタイミング?
いや、いや、エミリー、ちょっと待て。
「エミリー、あの人達の目を見てごらん。冗談を言ってる目に見えるかい?」
エミリーはふるふると首を横に振る。
シャークスのメンバーも赤字のまま帰れないと考えたんだろうね。
でもね、さすがにこれは納得がいかない。
金髪リーゼントに俺が話を切り出す。
「シャークスの代表はあんただよね。えっと“ソイヤ”だったっけ」
俺の言葉に嫌な表情を露わにし、金髪リーゼントが答える。
「シャークスの代表の『セイヤ・シマ』だ。間違えるな」
「ああ、そうか。それで代表の“エイヤ”、文句があるならハンター協会を仲介に入れるけどいいか」
一瞬言葉に詰まった様子の金髪リーゼントだが、すぐに表情を元に戻して言葉を続ける。
「ああ、望むところだ。それからな『セイヤ』だ。いい加減に覚えろっ」
「ああ、それからハンター協会の仲介料金なんだけどさ、俺らがそれ位支払ってやるよ。その代りだけどさ、シャークスの取り分がゼロだった場合はお前らが全額支払えよな、問題ないよな?」
金髪リーゼント野郎の顔が青ざめる。
そして仲間の3人でこそこそ話し合いを始める。
「ああ、それでいいだろう。それじゃあ早速ハンター協会へ行くぞ!」
金髪リーゼント達3人が歩き出す。
その後ろを俺達3人も付いていく。
困った様子の銀牙の5人もしょうがなく俺らの後ろに付いてくる。
いやあ、銀牙のメンバーには迷惑かけるね。
俺達の問題が解決しないとハンター協会へ報告できないもんね。
そして受付で仲介依頼をして待つこと1時間、俺らは6人は別室に呼ばれる。
離れたところにある傍聴席みたいな席で、銀牙の6人は退屈そうに座っている。
一通りの事の流れの話とお互いの言い分は終了した。
ハンター協会の仲介役は1人の女性だった。
ちょっと怖そうな隻眼の茶髪で歳の頃は30歳前後だろうか。
恐らく元ハンターだと思う。
名前はミア・サトと言った。
その女性が深くため息をした後、口を開く。
「は~、仲間同士でほんっと面倒くさい奴らだな。まあ、いい。それでそっちの5人。全部見てたんだろ。1人ずつ説明しろ」
傍聴席に座る銀牙のメンバーへのご指名だ。
金髪リーゼントはちょっと嫌な顔をする。
銀牙メンバーはお互いの顔を見合わせ、少し迷ったようだが諦めて5人が順番に話し始める。
しかし5人とも自分が見た通り、シャークスにも俺達にも有利な証言などしなかった。あくまでも中立な立場を通す様だ。
話を聞き終わった仲介役のミアがやはり面倒臭そうに口を開く。
「だいたいの話はわかった。結果はシャークスの取り分は無しだ。以上!」
俺達メンバーは笑顔がこぼれる。
反対にシャークスのメンバーには怒りの表情が見え隠れする。
結果を言うとミアはとっとと席から立ち上がりこの場から去ろうとする。
それをシャークスのメンバー3人が手を伸ばしてそれを制止する。
「どうしてですか、納得いかないですよ」
「そうですよ、せめて理由を教えてください」
「そうだ、どういうことだよ」
するとミアはシャークスの手を大きく払いのけて言った。
「えええい、うるさい奴らだ。だいたいだな、急に目の前に戦車が現れてだぞ、それを蹂躙しろなんて命令にだ、すぐに操縦手が反応できるか訳がないだろ。仮にそれが出来たとしてもだ、お前らの戦車が吹っ飛ばされた時点で戦闘は一旦終了している。その次の戦闘でドランキーラビッツが勝利したんだろ。お前らとは一緒に戦闘に参加してないという判断だ。いい加減にしろ。これ以上いちゃもんをつけるんならお前らシャークスにペナルティーを課すぞ。それでもいいのか?」
それで話を終わった。
シャークスのメンバーは誰一人として文句を言えなくなったのだ。
ただただ、シャークスの3人は悔しそうな顔で俺を睨みつける。
俺は小さく拳を握りしめ、心の中で『しゃ~~~~っ!!』と叫び声を上げるのだった。
設定資料
主人公:ケン・モリス
男、黒髪、黒い目、身長165㎝ 15歳
物心ついた時にはすでに母親はいなかった。
父親はハンター稼業
ケンが6歳の時に父親は再婚。その時の相手の連れ子が1歳下のエミリー。
ケンが8歳の時、再婚相手である新しい母親は病気で死亡。
その頃から父親の非番の時には銃の扱いを習い始める。
10歳の誕生日にモデル38短機関銃を父親に誕生日プレゼントとして貰う。
11歳になるとエミリーと一緒に父親のハンター稼業について行くようになる。
13歳になるとハンター協会にハンター登録する。
その翌年にはエミリーもハンター登録する。
エミリーがハンター登録してまもなく、ケンの父親は魔物狩りの最中に流れ弾にあたってあっけなく死亡したと留守番していたケンに報告があった。
父親の死亡で後に残ったのは多額の借金だった。
金額にして80万シルバ。
年利15%で毎月利子だけでも1万シルバ払う。
ということで次話投稿は明日の予定です。
それでは明日もどうぞよろしくお願い致します。




