246話 マミーの権利書
手ぶらで戻れば多分ミカエさんに怒られるよな。
だってコボルトの1個小隊とブリキの棺桶とはいえ戦車も貸してくれたんだから。
しかも借りていた戦車は壊れてしまったし、コボルト兵には死傷者も出してしまったし。
どうしてくれるんだと言われたら何も言えん。
マクマクが金をくれると言ってたからそれでも良いか。
とりあえずミカエさんに言われてた、権利書みたいなのは手に入ったしな。
これがどんだけの価値があるんだか知らんけど。
俺が書類を持ったまま考え事をしていると、リッチ少尉達も戻って来たようで執務室へと入って来た。
見れば包帯がグルグルと巻かれていて、痛々しいというよりもよりアンデットっぽいな。
これって……ミイラ男、マミーか?!
遂に進化したのか!
「モリス少尉、これは何の騒ぎだ?」
「えっと……」
ヤバい、直ぐに答えが出てこない、落ち着け俺!
そのタイミングでもう一人部屋に入って来た。
「お兄ちゃん、何の騒ぎこれ?」
エミリーだ!
「エミリ~~~~~っ、心配したんだぞおぉ!」
俺が走りよって抱き着こうとすると、露骨に両手で顔面を押さえられて拒絶された。
「お兄ちゃんってば、皆が見てるでしょ。恥ずかしい……」
そっか、そう言う事ね。
すまんな、つい感情がね。
なあに、俺とエミリーは兄妹の域を超えたんだしな、ふふふ。
「ああ、そうだな。で、もう大丈夫なのか?」
「うん、凄いね。高級ポーションって。傷跡も残らないし、気になっていたニキビも治っちゃったよ、へへへ」
そこで再びリッチ少尉が割り込んできた。
「モリス少尉、もう一度聞くが、これは何の騒ぎだ」
「あ、こ、これはマクマクの父親が――」
俺は慌てて事の成り行きを説明する。
それで2人は、なんとかことの成り行きを理解してくれた。
その上でリッチ少尉は言った。
「俺にその辺の政治に関する辺りはよく理解できないが、彼らの国の事だから彼らに任せれば良いんじゃないか」
確かにリッチ少尉のいう通りなんだが、なんか俺のちょっとした悪戯心がきっかけってのが気になるんだよね。
あ、でも俺がきっかけでこうなったとかの説明は、2人には一切言わなかったけどね。
でもリッチ少尉の意見には賛成なんですぐに返答する。
「そうですね、それじゃあ成り行きに任せますよ」
「で、アレはどうなったんだ?」
リッチ少尉の言う“アレ”とは、俺が今手に持つ「魔石の採掘に関する権利書」のことだろう。
「えっと、一応は……」
そう言って手に持った書類を目立たない様に少し持ち上げて見せる。
するとリッチ少尉はニヤっと笑って、マクマクの父親であるタクタク・ダウダ氏に歩み寄って言った。
「取り込み中すまんが、今回の作戦の報酬について話し合いたい」
すげーな、ストレートに言いやがったよ。
「え、えっと、あなたは……」
マクマクお父さんはミイラ男の姿をマジマジと見ながら少しビビっている。
「俺はリッキー・アンデロ少尉、今回の救出作戦に参加した1人だ。で、今回の作戦ではかなりの死傷者も出たし、装備も失った。それに時間も掛けた訳だが、俺達は教会の慈善活動をしているのとは違う。つまり報酬だ。今回は息子さんのマクマク・ダウダ元少尉からの依頼だったわけだが、事前に報酬を貰えることになっている」
「まずは礼を言わせてください。ありがとうございます。ええと、それから報酬ですが、こちらとしても出来る限りのことはしたいと思います。それで如何ほどの金額を支払えばよろしいんでしょうか」
「そうだな、この敷地内の物を戦利品として貰えれば問題ないんだが、許可してもらえるか」
「そんなんで良いんでしょうか?」
「俺達はそれで構わん。1時間貰えれば欲しい物を勝手に貰って行く」
「わかりました、それは了承いたしましょう」
話は簡単に終了した。
魔石採掘の権利書の事は一切口にせずにだ。
リッチ少尉、恐ろしや!
お主も悪よのぉ。
早速、金庫内のものすべてをかっさらい、さらには執務室の壁に飾ってる絵画まで持ち出す。
まるで盗賊だな。
もちろん絵画に手を出したのはバルテン軍曹だ。
ついでにちょっと歪な形の“壺”も嬉しそうに抱えて行ったな。
バルテン軍曹の趣味が解からん。
官邸敷地内の倉庫も物色したが、そこには大したものなどなかった。
というよりも、金庫内以外はゴミだったな。
俺は約束した「モフモフ女学園」のチケット1年分をマクマクから受け取り、名残惜しいがウッドチャックの領地を後にした。
☆ ☆ ☆ ☆
帰国途中でよくよく考えたら、チケット貰ったのは良いが、ウッドチャック領まで来ないとチケットが使えないことが判明。
当たり前だ。
お店はウッドチャック領内にしかないんだからな。
「くっそお~、チケット貰った意味がねえじゃねえか~~!」
俺は帰りの船上で海に向かって叫ぶのだった。
そして久しぶりに王都へ帰還した。
実に8日ぶりである。
戻ればDRメンバーからこじんまりとした祝勝会で迎えられた。
ちなみに今回の報酬なんだが。
交通費に関しての費用は大佐の金庫内の札束で往復分はまかなえた。
特に帰りはちゃんとした客車と船室を利用したが、それでも金は余った。
しかし、弾薬代や1人当たりの報酬を差っ引くと、ほとんど残らず手元に余った金額は3,000シルバポッキリだ。
ヤバい、ミカエさんに借りた3号式軽戦車の弁償金額が払えない。
決して高い戦車ではないんだけど、それでも10万シルバ以上はするだろうな。
そこでケイに相談だ。
「ケイ、明日ミカエさんとこへ帰還報告をしに行くんだけどさ、借りてた戦車を壊しちゃったんだよね。それと権利書なんだけど……」
するとケイ。
「ちょっと見せてもらえる、その権利書とやらを」
そう言って権利書を眺め始める。
結構長い時間権利書を眺めてからやっと口を開く。
「うーん、ちょっと難しいわね~」
何がだろうか?
素直に聞いてみる。
「えっと、どういうこと?」
「この権利書ってね、ウッドチャック領内全域に関わる魔石採掘の権利書なのよ。だからこの権利書を私達で貰っちゃうと、ウッドチャックの国が多分破綻しちゃうのよ。一番良さげな方法は、利益の何割かを貰えるようにした方が良いわね。経営も現地の向こう任せにした方が良いと思うし。その方が長く採掘が続けられるから、結果的に私達の懐も長く潤うってことよ。例えば毎月ミカエさんは利益の内一割、私達も一割みたいな感じでね。多分、その利益を考えたら3式戦車なんて誤差でしかないわよ。それから名義変更しないといけないから、もう一度ウッドチャックへ行かないといけないわね」
「ちょっと何言ってるかわかんない」
「あのねえ~、人に長々説明させておいてそれはないでしょ。まあ、いいわ。この件は私とミカエさんで話し合って決めるわね」
こうして俺はケイに全振りした。
その後、細かい手続きは弁護士を雇ってすべてやってもらうことになった。
金は掛かるが、弁護士がウッドチャック領を訪問して面倒臭い手続きはやってくれる。
その経費を考えても俺達には多額のお金が転がり込んでくるらしい。
そんな事をやりながらも俺達は王都防衛に付いていたんだが、時々砲撃はあるものの、大きな戦闘はほとんどなく、膠着状態が続いている。
たまにオークやゴブリンとの小競り合いがあるが、戦線は全く動かなかった。
そんな時、遂にサンド島からの物資と増援が王都へ到着した。
遂に約束の戦車が貰える時がきたのだ。
サンド島から補充が来たら准将との約束で、戦車を4両貰えるというもの。
俺は大喜びで駅の集積場へと向かった。
交渉ごともあろうかと、一応リッチ少尉も召喚しておいた。
それと乗って帰ることも考えて、戦車を操縦できる者も含めて総勢10名ほどで乗り込んだ。
駅に来てみれば凄い量の補充物資だ。
すでに作業員が次から次へとトラックに物資を積み込んで、各方面へと輸送して行く。
戦車も凄い量が到着している。
バレタイン戦車にクロムニエル戦車にウルセイダー戦車、そして各種シーマン戦車。
その中でもシーマン戦車の長砲身17パウンダー砲搭載バージョン、通称シーマンホタル戦車が混じっていいたのを発見。
ただシーマンホタル戦車は数が少なかった。
そこでリッチ少尉の手腕を使ったんだが、それでもたったの1両しか手に入らなかった。
ほとんどのシーマンホタル戦車は行き先が決まっていたからだ。
1両とはいえ手に入っただけでも運が良いと考えるべきか。
それ以外は76㎜砲搭載シーマンで揃えられた。
75㎜砲登載ではなく76㎜砲というのがありがたい。
これでシーマンホタルが1両とシーマン76㎜砲が3両の合計4両だ。
これで中隊の再編を試みる。
設定
シーマンホタル戦車の元ネタは、シャーマンの17pdr砲登載車であるシャーマンファイアフライです。
ホタルを英語にするとファイアフライとなります。
17pdr砲とは口径76.2㎜の英国の高初速の速射砲です。
17ポンド砲と書く場合もあります。
当時、米国の76㎜砲よりも貫徹力がありました。
これにてストックが無くなりました。
早ければ月曜日、遅くても火曜日には投稿する予定です。
という事で次回もよろしくお願いします。




