23話 遭遇戦
本格的戦車戦へ!?
協会から借りたカメラで証拠の写真を撮る。
破壊した戦車、討伐したゴブリン、そして倒したトロル、それに持っていた武器と周囲の写真など規定通りに撮り終えた。
討伐したゴブリンと捕虜にしたゴブリン、合わせて10匹だった。
残りは周囲の森に逃げたようだ。
結果を見るとゴブリン討伐は大成功といっても良いだろう。
拠点をぶっ潰した上にこちらはほとんど無傷だからな。
ただ、チーム“ドランキーラビッツ”としてはどうかなと思う。
依頼料金以外の稼ぎはゴブリン討伐1匹につき300シルバ、あとはゴブリンがため込んでいたお宝の山分け分しかない。
トロルが使ってた毛皮とソローリン戦車の報奨金は未知数だしな。
お宝の方も実はあまり期待できない。
というのもゴブリンがため込んでいたお宝っていうのは、安い毛皮類や程度の悪い武器、質の悪い弾薬類、あとは食料品や酒類であとは金になりそうなものはなかった。
お宝を見つけたのはシャークスだが、俺個人的に思うにちょろまかしてないか?
俺達に申告してないお宝ないか?
まあ、答える訳ないよな。
若干がっかりした様子で俺達は街へと戻る道をたどる。
ガレ場の道を抜けて、通常の道に出た途端だった。
完全に油断していた。
唐突にそれは出現した。
先頭を行くシャークスの35型戦車が広い道路に出ようとした瞬間、逆に広い道からこちらの細い道に入ってきたモノがいた。
中型のゴブリン製の戦車だった。
シャークスの戦車と正面からぶつかった。
正面衝突だ。
お互いにあまりに唐突過ぎて、避けることが出来なかったのだ。
金属同士が激しくぶつかり合う音が森に響く。
ゴブリン戦車、ってことは盗賊の仲間か!
銀牙のトラックをシャークスの戦車とホーンラビットで、前後挟むようにして走っていたので俺らは一番後ろにいた。
でもこの位置からでもよく見える。
ゴブリン製の戦車はブレタン戦車という、かつてのゴブリン軍の戦車の中でもメジャーな戦車のひとつだ。
人属の市場にも時々出回ることもあるけど、不人気な戦車であまり売れないらしい。
人族にはちょっと狭い車内というのと、信頼性の低いエンジン性能だからだ。
それでもカタログ的な性能ではすごい数値だ。
47㎜砲1門、主砲同軸に6.5㎜機銃1丁、車体前面に6.5㎜機銃1丁
全面装甲30㎜、最高速度32㎞ 乗員4匹
中級ハンター内でも通用する性能数値だ。
しかし実際はよく故障するし、懸架装置の不備による劣悪な乗り心地、主砲の性能も低く燃費も悪い。それでハンター達からは敬遠された。
しかし重量は14トンもある。
シャークスの35型戦車の10トンに比べて1.5倍近い。
衝突して勝てる訳がない。
シャークスの戦車は衝撃で弾き飛ばされた形となり、道路脇の窪地へ後方から突っ込んで木に激突した。
ただ、ゴブリンのブレタン戦車もただでは済まなかった。
シャークスの戦車が激突した木がへし折れて、その木がブレタン戦車の上に倒れてきたからだ。
ただ倒れてきただけなら深刻な被害が出るはずもない。
ゴブリン製といえども戦車である。
それ位で深刻なダメージを被るほど軟ではない。
ただその倒木は運悪く、砲塔の旋回を妨げる位置にはまってしまったのだ。
そのおかげでブレタン戦車は、砲塔の旋回ができなくなってしまった。
「やばい、やばい、エミリー後退しろっ、後退っ!!」
焦った俺は、ひたすら後退の指示を出すのが精一杯だった。
いや、それしか思い浮かばなかった。
ゴブリン戦車といえど47㎜砲を装備しているんだぞ。
一発食らっただけでこっちは終わりだよ。
エミリーもそれを理解しているようで、顔色を変えて後退を始める。
俺は後方を確認しながらエミリーに指示を出す。
エミリーの操縦手席から後方を確認しながら後退するのは難しい。
誰かが指示を出さなくちゃ無理なのだ。
「ミウ、撃てるなら撃っていいそ。さっき込めた榴弾がまだ装填されたまんまだ」
「はい、でもトラックが邪魔で……」
俺達の前には銀牙のトラックが走っていたからだ。
トラックも慌てて後進しているが、この荒れた道だ。前進でも遅いのに後進となるとさらに遅い。
トラックの銃座からはしきりにブレタン戦車への銃撃が繰り返されている。
視察口を狙って撃つことにより敵の視界を遮っているのだ。
トラックの射手は中々のベテランだな。
ただやりすぎると砲弾を食らうから注意しろよ。
ブレタン戦車が車体を前後へと動かしているが、倒木とシャークスの戦車が邪魔をして身動きが出来ないままだ。
「エミリー、5mほど後ろならトラックとすれ違いできる。そこで俺達が前に出る!」
「了解よ、お兄ちゃん」
「ミウ、キャタピラを狙えるか」
「はい、この距離なら……やれます!」
すれ違いが出来る場所まで来たところで道の端に戦車を寄せて、銀牙のトラックを後方へ抜けさせる。
これで37㎜砲の射界を遮るものはなくなった。
「エミリー、停止させろ。ミウ、停止射撃だ。タイミングは任せる!」
「はい!」
戦車が停止して一呼吸置いた後、我がホーンラビット搭載の37㎜対戦車砲が咆哮を轟かせた。
設定資料
ハイエナ装輪装甲車
装甲:6~8㎜
乗員:2名
武装:7.92㎜機関銃1丁
装甲は申し訳程度の厚さしかなく、小銃弾くらいしか防げない。
武装は砲塔に7.92㎜機関銃1丁と貧弱装備。
最高速度は中古市場に出回っているものだと40㎞程度、程度が良ければ50㎞まで出せる物もある。
しかしサスペンション機構が古く、乗り心地は最悪と言われる。
かなりの数が中古市場に出回っているため、思った以上に安く手に入る。
そのため、低ランクのハンターが良く手にする車種であり、戦場跡をハイエナのように戦利品をかっさらっていくため、この名称がついた。
また個人改造により外見や武装なども大きく異なる車両も多数存在する。
第1話に登場するがゴブリンの対戦車砲にすぐに吹っ飛ばされた装甲車がこれだ。
ということで明日も次話投稿予定ですので、どうぞよろしくお願いいたします。
 




