21話 トロル
トロルへと発射された砲弾は前回の弾道とは違い、真っ直ぐにトロルの顔面へと吸い込まれた。
しかし前照灯の光を遮ろうと顔の前に手をかざしていたトロル。そのかざしていた右腕に砲弾は命中した。
着弾した砲弾はすぐ爆発してトロルの右腕を吹き飛ばす。37㎜榴弾という比較的小型の部類に入る砲弾だが、至近距離で爆発すればそれ相応の被害を被る。
人属であれば生きてはいられないレベルのはず。
当然の事ながらトロルの顔の前で爆発した37㎜砲弾も、激しい爆風と破片を撒き散らした。
「やった!」
俺は思わず声を上げたけどすぐに後悔することになる。
エミリーがつぶやく。
「お兄ちゃん、まだみたいよ……」
俺は双眼鏡を覗く。
トロルは吹き飛んだ右腕を抑えて唸り声を上げていた。
上半身、特に顔面は顔だと分からないほどにぐちゃぐちゃだ。辛うじて穴の様に開いた口だけはわかる。
「うわっ、まだ生きてるってのかよ。ミウ、もう一回撃つぞ!」
俺は次弾装填を急ぐ。
「はい、わかりました。あの、でも魔力がもう限界で……」
やはりミウの“命中”の魔法の力での命中だったのか?
いや、大型武器に命中の魔法はかかるなんて聞いたことがない。
命中の魔法はライフル銃の大きさ位までのはずだ。
絶対ミウの気持ちの問題に決まってる。
「ミウ、自分の腕の信じろ。猟銃も37㎜砲も大きさの違いだけだよ。ミウならできる!」
「はい、やってみます」
「よし、榴弾装填完了」
ミウは慎重に狙いを定めている。
「撃ちます!」
37㎜榴弾が飛ぶ。
しかし、今度はトロルの足元の地面に着弾。
小石を巻き込んでの爆風を撒き散らす。
トロルはバランス崩して転倒。
それでもゆっくりとこちらに顔を向けながら起き上がる。
ぐちゃぐちゃの顔がいたたましい。
さらに全身に砲弾の破片や小石が突き刺さっている。
痛そう……
「お兄ちゃん見て、あのトロル再生してるよ!」
エミリーの声に再び俺は双眼鏡を覗く。
エミリーが言う様に、ぐちゃぐちゃだった顔が徐々に治りかけている。
「まじかよ。再生能力があることは聞いてたけど、あんなに早いのかよ。ミウ、連続射撃するんで頼む」
俺は何回目だろうか次弾装填をして装填完了を告げる。
ミウが発射する。
「当った!」
ミウは嬉しさで声を上げたのだ。
今度は右肩に命中してごっそりと肉片を飛び散らせる。
トロルは一瞬だけ動かなくなるが、すぐにゆっくりとだがこちらに向かって歩き始める。
「ミウ、ダメだもう1発だ」
「はい、撃ちます」
今度はトロルの右側の岩壁に着弾する。
砲弾の破片と岩の破片を爆風が巻き込んでトロルに襲い掛かる。
しかし土埃と砲煙で俺達からはトロルの姿が見えなくなる。
くそ、見えないじゃねえか!
それでも俺は次弾装填し終わるとミウに伝える。
「見える様になったらすぐに撃っていいぞ」
足音が聞こえる。
間違いなくトロルの足音だ。
それも徐々に近づいて来る。
隣にいるミウの荒い息づかいが聞こえる。
なかり興奮してるんだろう。
実戦経験はほとんどないんだからしょうがない。
「撃ちます!」
突然ミウが発射宣言をした。
え、まだ見えてないぞ。
発射された砲弾は数メートル先で爆発した。
俺達に破片が降り注ぐ中で、今の爆風で視界が開ける。
「お兄ちゃん、見て見て!」
いちいちうるさいなあ。
言われなくても見てるって。
数メートル先には首が千切れかけたトロルが、かろうじてその場に立っていた。
そんな状態で生きていること自体が驚きだ。
しかしもう歩く気力もないんだろう。
残った左腕で俺達を掴もうと、しきりに腕を前へと伸ばすだけだ。
「しぶといよな。傷もだいぶ再生してやがるしな。よし、最後にもう1発……」
そう言いながら俺が次弾装填しようとしたところで、エミリーが口を挟んだ。
「お兄ちゃん、止めは私がやるよ」
そう言ってエミリーは“風刃”の魔法を放った。
鋭い風の刃は千切れかけた首の皮をあっさりと切り落とす。
するとトロルは全身の力が抜ける様にその場に崩れ落ちた。
「なんだよエミリー。はじめからそれ使えよな。美味しいところを持っていった感じじゃねえかよ。なんかずるいな」
俺の文句にエミリーは笑顔で答える。
「切り札は最後に出す物よ。ふふふ」
いや、あれは絶対ビビッて忘れてただけだと俺は推理するぞ。
とりあえず危なかったが俺達はトロルに勝ったのだ。
ハンターとして箔が付くってもんだ。
エミリーとミウのはしゃぐ声が洞窟に響くのだった。
設定資料
主人公が持つ短機関銃:モデル38短機関銃
口径:9㎜
発射速度:550発/分
重量:約3800g
折り畳みストック付き
32発の箱型弾倉が一般的だが、一部カスタム品としてドラムマガジンも出回っている。
9㎜弾は拳銃としても一般的に広く出回っている為、比較的安く手に入る。そういった理由から9㎜口径の短機関銃は人気がある。
そこそこの命中精度で扱いやすく、故障も少なく信頼性が高い。初心者からベテランまで幅広く使用されている短機関銃である。
中古品や改造品、模造品まで出回っており、その状態により値段もピンキリである。
PPS-43やMP40やM45の形状をイメージして頂ければと思います。
次話は明日投稿予定です。
それでは明日もよろしくお願いします。




