197話 学生食堂のイベント
まずは腹ごしらえからだな。
配布された無料食券を握りしめ、俺とモグモグ君は列に並んだ。
トレーを持って列に並んでいるとゆっくりと列が進んで行き、次第に配膳係のコックが食事の入った食器をトレーにのせていく。
この辺のやり方は戦車学校の時と一緒なんだが、食事の内容が全く違った。
幾つかの料理は自分で好きなものを選ぶことができ、種族特性に合わせた料理も用意されている。
さすがお貴族様向けとあってか料理は豪勢である。
俺達庶民じゃお目にかかれない料理が沢山ある。
あ、モグモグ君はドングリの料理を選んだみたいだ。
ってゆうか、ドングリしかトレーにのってねえし。
しかも、ドングリがでかっ。
10~15㎝はあるだろ。
俺が選んだのはマッシュポテトにハンバーグ、そしてパンに野菜スープだ。
いきなりお貴族様向け料理に手を出すのはハードルが高い。
窓際の席がちょうど空いたのを見つけた俺はモグモグ君に「先に席を確保しておく」と言って、その窓際の席へと早足で向かった。
幸いにも窓際のテーブルを確保でき、炭酸飲料を買っているモグモグ君に手を振る。
こういったドリンクは有料みたいだ。
もちろん俺は無料で飲めるハーブティーで十分だ。
すると男が2人と女が1人の3人組が俺のいる席に近づいて来る。
なんか嫌な予感がするんだが、俺は素知らぬ顔で椅子に座った。
3人組は俺の真横で立ち止まり、女がテーブルをバチンと叩いて言った。
「ここ、私達が座る席だからどいてもらえるかしら」
俺が何言ってんだこいつという顔を露骨にすると、一緒に来た細みの男の候補生が怒鳴り声を上げた。
「おい、てめえ、聞いとんのかぼけぇっ。シモンヌ・ロロー様が席を空けろと、おっしゃってるんだよっ。すぐどけ、今すぐどけ、すぐ消えろっ」
“校舎裏来い”のイベント前に、“食堂テーブル譲れ”イベントが始まっちまったよ。
まいったな、これは。
この女、シモネタ・オモローだったかな、かなり偉そうだよな。
爵位も高いのかな。
だいたい女の子に手を出すわけにはいかないなあ、どうするか。
ふと、モグモグ君の方を見ると、しきりに“こいつら危険”的なジェスチャーを俺に送っている。
そうか、こいつらはここ王都士官学校では有名な厄介連中ってことなんだろう。
確かに俺も入学初日から問題起こしたくはないんだけどさ、逆に初日から舐められたらこの先ずっと舐められるからな。
それはやっぱ避けたい。
どうせいつも周りは敵だからな、俺。
俺は周囲を見まわして武器になりそうな物を探す。
あれ、銃の形の物がないな。
えっと、フォークやナイフだと大怪我になりかねないしな、あとはスプーンか。
しょうがない、スプーンでやってみるか。
こいつらどうせ新兵レベルだろうからな。
戦車学校で鍛えたナイフ術をちょっと試してみますか。
あ、スプーン術だけどな。
「何をキョロキョロしてやがんだよ。早くどかねえとドタマかち割るぞっ」
「やっぱり、こういうバカはどこにでもいるんだな。ったく、一応言うけどさ、この席は俺が先に着いたから譲りません。理解できた?」
すると細身の男の顔が真っ赤になった。
あらら、かなり怒ってるね。
これはやっぱりひと騒動だろうな。
「こいつぅ、我慢ならねえっ!」
そう言って男がいきなり俺の胸倉に掴みかかってきた。
その瞬間、俺はその掴みかかってきた手首に、下からスプーンを突き刺した。
あ、刺さる訳ないか。
「う、うぎゃはああっ」
細身の男が手首を抱えて後ろに大きく仰け反り、そのまま後ろのテーブルに後頭部から倒れ込んだ。
金属食器とトレーが床に落ちる音とテーブルがひっくり返る音が食堂に響く。
それを見たシモネタ・オモローが小さく「きゃっ」と悲鳴を上げる。
なんだ、女の子っぽいとこもあるんじゃねえか。
気が付けば食堂にいる全員が俺らに注目しているじゃねえか。
細身の男は右手首を抑えながら「骨がぁ」と連呼している。
あれ、やり過ぎたかな。
「あ、すまん。ちょっと力入れ過ぎたかもしれないや」
俺がそう言うと、シモネタ・オモローが震える声で言った。
「が、ガス、こ、こいつを何とかしなさいっ」
その声でもう一人の男が1歩前へ出た。
俺と身長差はあまりなさそうだけど、漂うオーラが違う気がする。
ガスと呼ばれた男が構える。
お、こいつ格闘技経験者っぽいな。
さすがに俺も危険を感じてここで椅子から立ち上がり、スプーンをナイフの様にして持って構えて言った。
「おまえ、格闘経験者みたいだな」
すると片言の言葉で返答してきた。
「そうだ。ミリタリーコンバット、やってた。あんしん、しろ。ころさない……」
やっぱり経験者か。
見た感じは人間だけど片言ってことは島国人か。
島国人は王国から海を隔てた島国で暮らす人間で、王国に所属はしているが独自の経済で成り立っている。
するとガスとか言う男の視線が俺の胸元で止まった。
そして俺の目を見て再びしゃべり出す。
「おまえ、くんしょう、もってる……」
ああ、勲章ね。
目立つからな。
まあ、これで実戦経験者って解かって貰えたかな。
見物する他の候補生たちも勲章に気が付いたらしく、あちこちから話声が俺の耳に入ってくる。
「なんで勲章持ちがここにいるんだよ」
「腕にもついてるぞ。ふ、2つもあるぞ!」
「おいおい、良く見りゃあいつの階級、曹長だぞ」
「なんでここに曹長がいるんだ」
「なんだ、あいつ。戦場からきたのかよ」
うっわぁ、なんか変に有名になりそうで怖いな。
続いてガスは俺の腕の記章に視線を移した。
「まじゅうげきはきんきしょう……」
おお、この記章の事しってるんかこいつは。
するとガスはシモネタ・オモローに何か耳打ちする。
何だよ、やるのかやらないのかはっきりしてくれよ。
そんなことを考えていたらオモローが厳しい表情でガスを怒り始めた。
「ガス、戦う前から弱音を吐くの。あなたも一端の戦士ならこんなチンケなガキくらいでビビるんじゃないわよっ。さっさとやっておしまい」
その一言でガスは覚悟を決めたらしく、突然俺に向かって「おらぁっ」と奇声を上げて攻撃を開始した。
小柄な体格の割に重そうな拳が俺の顔面へと飛んできた。
くそ、思ったより動きも早いっ。
体を後ろへ反らせてその拳を避けるが、予想したよりも腕が長いらしく、拳がさらに伸びてくる。
避け切れ無ければ受け流すだけだ。
俺はスプーンでその拳をピシリと叩いて横へと受け流した。
ガスが少しだけバランスを崩した隙に、俺は少し距離を取る。
仕切り直しとばかりに再びガスが構える。
その時、ガスの手にスプーンの跡がクッキリと付いているのが見えて笑いそうになる。
俺がニヤついたのが気に入らないのか、ガスの表情が変わる。
そして2撃目の拳が再び俺の顔面を襲う。
今度はその拳を横に避けた。
すると間髪入れずに反対の腕からの拳が俺の顔面に迫る。
横には避け切れず、しょうがなく後ろへ下がって避ける。
するとまたガスの拳が予想よりも奥へ伸びてきた。
こいつ、腕が伸びるのか?
俺はその拳を下からかちあげる様にスプーンを打ち付けながら、しゃがむようにしてその伸びてきた拳を避けた。
俺の頭の上で奴の拳が空を切る。
くそ、伸びやがる上に1発が重い。
1発でも喰らったら終わるな。
これは防御ばかりだと不利だ。
スプーンが曲がってきちゃったしな。
ガスが体制を立て直しながら言った。
「くんしょう、だてじゃない、な。ほんきで、いく」
あれ、今まで本気じゃなかったのか。
ガスの背中辺りから闘気が湧きだすのが見えた。
あ、これってヤバいパターンじゃないのか!
食堂イベント発生です。
映画やドラマだと大抵は「覚えてやがれ」で終わるか「主人公つおい」で終わるお約束のイベントですが、そのスペシャルワンパターンを撃ち破ってやる!
という次回予告です。
と、大げさに言ってみたりしましたが、面倒臭いのでお約束発動でいこうかな
それとも……
パターンⅠ:覚えてやがれ!
パターンⅡ:ケンちゃんフルボッコ
パターンⅢ:「吶喊」突如、食堂に97式チハが突入
パターンⅣ:「お兄ちゃん、助太刀するよっ」まさかのエミリー登場
パターンⅤ:その他
さてどれにしようか。
今から考えますw
書きながら思いつく性格なんです。
という事で次回もよろしくお願いします。




