191話 砲兵陣地へ突入
改めて敵砲兵陣地を目指しつつ、ゴブリンの拠点と思われる場所を突破する。
いくつかそれらしいゴブリン歩兵部隊と遭遇するも、対戦車火器などほとんど持たない部隊ばかりで難なく突破していく。
そして大した抵抗も感じずに、遂に敵歩兵陣地近くまで到達してしまった。
しかも予定よりかなり早い。
「なんか呆気なく到着しちゃったよな」
と、俺がポロっとつぶやくと、そうでもなかったと皆が声を揃えて反論する。
ゴブリンの戦車部隊との遭遇戦のことだ。
どうやら楽勝気分だったのは俺だけみたいだ。
そんな事よりもまずは先行するバルテン軍曹達の偵察連絡が気になる。
しかしその偵察にもあまり時間を掛けたくない。
オーク部隊が完全に動く前に決着は付けたいからな。
完全にというのは、初めからオーク部隊が動くであろうことは想定済みで、ただしその中でも即応部隊だけが動くというのが想定内ということ。
直ぐに動ける部隊は必ず存在するが、時間を与えるとそれ以上の部隊が動き出し、そうなると数の力で押されることは想像がつく。
だから時間が重要だ。
バルテン軍曹もそれがわかっているからか、大して時間がかからず無線連絡がはいる。
『こちらバルテン、ゴブリン砲兵陣地が慌ただしくなってる。今がチャンス、どうぞ』
よし、予定通りだ。
自分たちの遅配地域に物凄い勢いで人間部隊が攻め込んでいるのだ。
それは動揺するだろう。
よし、一気に攻める!
「ケイ、味方砲兵に時間通の砲撃を要請、歩兵部隊へ侵攻を開始するように伝えてくれ」
「了解よ、いよいよ始まるのね。ケンちゃん、しっかり戦利品をゲットしてよね」
そっちかい!
まあ、確かに戦利品がないと来月分の借金返済に困るし、中隊の戦車維持費の事もあるしな。
でもゴブリンの戦利品じゃあまり金にならないし、そもそも戦利品を持ち帰る時間的余裕もないと思うが。
ま、それはケイには言わないでおこう。
味方の砲撃が始まった。
という事は味方歩兵が進軍を開始したってことだ。
ゴブリン砲兵陣地の正面には塹壕が掘られていて、結構な規模の構築陣地が出来上がっている。
あの陣地をまともに正面から歩兵が進めば、それ相応の被害がでるだろうな。
だけど、そんなことをさせるつもりはない。
俺達がわざわざゴブリンの支配地域を進行して来た意味がなくなる。
味方歩兵は正面から牽制射撃程度で前進はしない。
敵の注意を引き付けるのが役目。
「DR中隊、前進!」
代わりに俺達DR中隊が侵攻する。
もちろん、ゴブリン砲兵陣地の後方からだ。
まさか自分たちの支配地域側から攻められるとは、夢にも思ってないだろうからな。
だから防備も手薄のはず。
正面からの味方歩兵の牽制攻撃に加えて、ゴブリン部隊の頭上には砲弾が降り注ぐ。
それだけで早くも敵は混乱しているのが見てわかる。
そこへソーヤの3号車を先頭にして、J小隊の2両のシーマン戦車の合計3両が敵陣へ突入した。
Ⅲ突Gとタクのシーマン戦車は別行動だ。
Ⅲ突Gは突撃砲なんで乱戦は苦手。
だから少し距離を置いた場所から狙撃だ。
エミリーは不満そうだが、最後に突撃するからと言ってなんとか抑えてある。
そしてタクのシーマン戦車だけど、砲塔旋回が手動なんでやはり乱戦になると不利ってことで、別の任務を与えた。
補給品の集積所を狙えと。
それらしい場所は何ヵ所か目ぼしつけてある。
この混乱に乗じてうまい事やってくれよ。
これでもうバルテン軍曹を盗人呼ばわりできないな。
その援護のためにも俺達Ⅲ突Gは敵の野砲へと榴弾を飛ばす。
ソーヤ達のシーマン戦車の突入ですでに混乱状態の中、さらにゴブリンの勢力圏内からの砲撃だ。
ゴブリン陣営はパニックに陥った。
「なあ、あれってオーク製の76㎜野砲じゃねえかな?」
俺がポロっと言ったつぶやきだが、Ⅲ突Gの乗員にそれが理解できる者などいるはずもなく、全員の頭上には「?」マークが浮かんでいる。
あれを水平にして撃たれるとヤバくなるんだけど、ゴブリン共はそれどころじゃないか。
敵陣へ5~6発の榴弾を叩きこんでやっと敵陣からの応射がきた。
かなり遅かったな、さすがゴブリンといったところか。
といっても戦車に対して効果があるような武器ではなく機関銃の弾丸だ。
ちょっとウザいので榴弾を叩き込んだら一瞬で沈黙した。
ゴブリンの抵抗も弱まったところで、俺達もそろそろ突入しようかという事になり、張り切ったエミリーがエンジンを吹かした。
ソーヤ達4両はすでに野砲陣地は潰したのか、正面の構築陣地への攻撃に切り替えている。
敵構築陣地の後方から1ヵ所ずつ丁寧に砲弾と弾丸を叩きこんで撃破していく。
仮に堅牢な陣地だとしても、後ろから攻撃されたらひとたまりもない。
こういう時のシーマン戦車の12.7㎜の重機関銃は、非常に効果的でちょっと羨ましい。
簡単な土嚢や丸太くらいならば簡単に撃ち崩してしまい、なおもその中のゴブリン兵までも肉片へと変えてしまう。
時と場合によっては榴弾を撃つよりも効率が良いかもしれない。
何より安上がりだ。
そしていざⅢ突Gが敵陣へ突入してみたんだが、ゴブリン兵はすでに逃走を始めており、エミリーの活躍の場が残っていない状況だった。
これはヤバい。
非常にまずい。
突入するのが完全に遅かった。
エミリーの気分を害さない様にしなくては!
俺はハッチから身体を乗り出し周囲を見まわして標的を探す。
見つけた!
まだ破壊されておらず、さらにまだしぶとく抵抗を試みているゴブリンの構築陣地を!
「よし、エミリー。10時方向に敵機関銃陣地。吶喊していいぞ!」
水を得た魚の如く蹂躙目標を見つけたエミリーは、背中にオーラのようなものを発しながら銃弾を浴びせてくる敵陣地へと突入した。
そこには塹壕が掘られていて、戦車といえどもさすがに蹂躙くらいでは塹壕の中に潜む敵兵までは仕留められない。
機関銃陣地は難なく潰せたが、歩兵が塹壕の間を逃げ回る。
これは俺の出番かな。
「ケイ、俺は塹壕の中のゴブリンを仕留めてくる。ちょっとの間頼むな」
「うん、了解。気を付――」
とケイが言い掛けたところで一際大きな声でその言葉を遮った人物がいた。
「お兄ちゃん! 気を付けてね!!!」
エミリーだ。
「お、おう……」
なんかいつもと違う車内に、かろうじて返事は返したがなんかしっくりこない。
ケイとエミリーがにらみ合ってる?
なんか険悪な雰囲気っぽいけど大丈夫か?
何かあったのか?
とは言っても今は戦闘中。
俺は銃と手榴弾を持って車外へと出て行った。
降りてすぐにオロオロするゴブリン兵を発見して短機関銃の弾丸を叩きこむ。
1.5mほどの深さの塹壕に入り込むと、負傷しながらも俺にライフル銃を向けようとするゴブリン兵。
俺は素早く走り寄り、短機関銃の銃身で敵のライフル銃の銃口を跳ね上げる。
その拍子にゴブリン兵は空へと銃弾を飛ばしてしまう。
ボルトアクション式のライフル銃なので、そうなったらガシャコンと手作業で次弾装填するしかない。
慌てて再装填しようとするゴブリン兵だが、そんなこと俺がさせるかよ。
次の瞬間、俺の右ひざがゴブリン兵の腹へと食い込むと、九の字になったゴブリン兵の顎の下に短機関銃の銃口を持っていった。
「悪いね、ゴブリンにしては勇敢だったけど、これでおしまいだよ」
俺は引き金を引いた。
直ぐに周囲に目をやると、塹壕の一画に扉があるのを発見。
横穴のようだ。
おおお、これはもしかして補給物資の保管庫か!
中で待ち伏せしてるかもしれないから、一応は隠れながら扉を少しだけ開く。
予想通り、すぐに中から銃撃が返ってきた。
しょうがない。
物資保管所の可能性があるから吹っ飛ばしたくないんだけどな。
俺は持って来た手榴弾を扉の中へと放り投げる。
するとゴブリンの騒ぎ声が聞こえた後、手榴弾が爆発した。
そして間髪入れずに短機関銃を構えて、俺は煙で充満する中へ突入する。
すると血を流しながらも立ち上がろうとしているゴブリン兵を見つけ、そいつの後頭部に弾丸を1連射ほど叩き込む。
さらにもう1匹のゴブリン兵が壁に背を当てて座っていた。
かろうじて息はしているが、結構な重傷だ。
そいつに銃口を向けて引き金を引こうとしたが、ふとその手が止まった。
というのは他の兵士と違う恰好をしている、
将校の制服っぽいのを着ている。
それも今まで見たことが無い立派な制服だ。
階級章を見てもどれくらい偉いかは俺もわからん。
多分かなり偉いんじゃないかという気はする。
佐官クラス以上じゃないだろうか。
そうなると大隊長とか連隊長とかになるのか。
となるとここは部隊本部ってところか。
なんだ、残念。
ま、それならこいつは連れて帰るか。
となると貴重なポーションを使わないといけない。
もったいないがここは大盤振る舞いだ。
良い情報が聞けるかもしれないからな。
あとでナミに尋問させよう。
オーク製の76㎜野砲が出て来ました。
F-22、76㎜野砲が元ネタです。
大量に鹵獲したドイツ軍がそれを改造して、自軍で正式採用した使ったという野砲です。
マルダーⅡやⅢでも搭載されたりしました。
という事で次回もよろしくお願いします。




