190話 ゴブリン部隊との遭遇戦
ちょっと時間が空きまして、変わった時間に投稿です。
森の奥にいたのはゴブリン戦車部隊だった。
いや、それだけではない。
歩兵部隊も集結している。
ということは、もしかして……
「やつら、街を攻撃するつもりだぞ!」
俺は咄嗟に浮かんだ考えを口に出していた。
森の木々で気が付くのが遅くなったが、よく見れば車両が動いているのが見える。
突出した地域を攻めるのは当たり前であり、そんなのは時間の問題だった。
連勝で気が緩んだか、気が付くのが遅かった。
「ケイ、ハーフトラックのバルテン軍曹に連絡。至急大隊本部へこの事を知らせろ」
251ハーフトラックに積んでいる無線機の方が長距離まで届く。
「ちょ、ちょっと待ってよ。今、徹甲弾の装填中だから……装填完了よ、人使いが荒いわね、ったく!」
しかし、こっちが撃つよりも早く、ゴブリンのセメトン戦車の47㎜砲から閃光が発せられた。
次の瞬間、隣を走っていた2号車の砲塔に火花が散った。
狙われたのはタクのシーマン戦車だ。
このⅢ突Gは砲塔が無い分車高が低く、他の戦車より目立たない為、こういった状況では得をする。
上手くいけば気が付かれる事さえない。
しかし発砲すればその発砲炎で高確率で位置はバレる。
その証拠に、ゴブリンのセメトン戦車も突撃砲で車高が低いのだが、発砲したため俺達以外の戦車からも位置がバレてしまっている。
『こちら2号車、喰らいました。乗員1名軽傷。砲塔旋回装置が故障。すいません、後退します』
タクからの無線連絡だ。
貫徹はしてないみたいだけど、衝撃でやられたか、内壁が破壊されてその破片が車内で飛び散ったか。
軽傷で済んだのならばラッキーだ。
「ケイ、ハーフトラックに連絡。2号車と一緒に後退だ」
「うん、任せて」
「ミウ、仇を取るぞ。あのセメトン戦車に徹甲弾をぶち込め」
「了解です。この距離ならいけます」
ミウもだいぶ腕を上げてきたな。
「距離500、目標セメトン!」
Ⅲ突Gが急制動して停車。
「照準OKです」
「よし、てっ!」
Ⅲ突Gの75㎜砲が徹甲弾を吐き出したと同時に動き出す。
この辺はもうアンウンの呼吸とでも言おうか。
このメンバーだからこその行動だ。
中隊の他の戦車も一斉に射撃を開始したようだ。
森の中を砲声が響く。
本来ならば命中の確認をしたいところだが、乱戦なりそうな状況でここに留まるのは危険だ。
Ⅲ突Gは待ち伏せは得意だが砲塔が無いから接近戦は苦手だ。
だから少し距離を取ってから戦闘に参加したい。
しかし、その考えとは裏腹にエミリーは突進をやめてくれない。
炎を上げて炎上する先ほどのセメトン戦車の横をすり抜けて、敵の真っただ中へと突撃した。
敵ゴブリンも急だったようで、まだ完全に戦闘態勢に入っていない。
エンジンさえかかってない車両もあるくらいだ。
これならいけるかもしれないな。
「次弾徹甲弾装填。11時方向、距離200、もう一両セメトンがいる」
セメトンの75㎜砲は威力が弱く大したことが無いように見えるんだが、成形炸薬弾,つまり“対戦車榴弾”を使われると一気に脅威を及ぼす戦車へと変貌する。
さすがに75㎜クラスの対戦車榴弾を喰らうのはまずい。
厄介な物は真っ先に仕留めるのは定石だ。
だが、エンジンが掛かっていないらしく仕留めるのは簡単だった。
無人ならば単なる金属の塊の的でしかない。
セメトン戦車の真横に命中した徹甲弾は側面装甲を撃ち抜いた後、さらに反対側の側面装甲をも撃ち抜いて、隣に停車していた装甲車の車内でやっと止まった。
やった、1発の砲弾で2両の装甲車両を破壊してやった。
「続いて1時方向、距離200。目標ブレタン戦車――砲塔をこっち向けたぞ!」
今度のは生きている戦車だ。
しかも、またしても先に撃たれた。
Ⅲ突Gは砲塔が無い分、射撃体勢に入るまでにどうしても時間が掛かり、後手になる確率は高くなる。
先に発見しても先に射撃できない場合もあるという事だ。
幸いにも敵の砲弾は外れた。
「てっ」
しかしこっちも外した……
「す、すいません!」
だいたい動く目標への戦車砲の命中率なんて期待してはいけない。
謝ることはないのだ。
意を決して停止射撃を試みるも、敵のブレタン戦車も同じ考えらしく停止しやがった。
向こうは47㎜砲でこっちは75㎜砲。
言い換えればこっちの75㎜砲弾の方が重くて装填に時間が掛かるが、敵の47㎜砲弾は軽いから装填時間が短い。
さらに言い換えればブレタン戦車に連続して射撃を許した。
停車後の発射でブレタンの47㎜砲弾はⅢ突Gの正面装甲で弾いた。
その衝撃に耳を塞いで耐えつつ、Ⅲ突Gはわずかに車体の位置をずらして、敵ブレタン戦車を射界に入れる。
砲塔を持たない突撃砲の射撃ルーチンだ。
「ケイ、急げ、次を撃たれるぞ!」
こういった場面になると解ってはいるんだけど、ついつい装填手のケイに強めにあたってしまう。
やはり腕力の弱いケイに装填手を任せるのは酷なのかもしれない。
ただ、装填操作には腕力だけでなく、器用さも必要で、ケイの運動神経は……それは言わないでおこうか。
「もう、わかってるわよ、こっちも必死なんだからねっ!」
強気の性格のケイが額に汗をにじませ、毎回口にする俺の「急げ」という言葉に文句を言う。
これも今や戦闘毎に繰り返す日常会話である。
第3者から見たら、ブレタン戦車と真正面で向き合っての無言での撃ち合い、ちょっと異様な光景に見えるかもしれないが、実は車内では必死の思いで大騒ぎ状態なのだ。
ブレタン戦車の発射とⅢ突Gの発射は、ほぼ同時だった。
Ⅲ突Gの75㎜の砲弾はブレタン戦車の正面装甲を軽々と撃ち破った。
ブレタン戦車の47㎜砲弾はというと、Ⅲ突Gの正面にいつも少し違った衝撃を残して退けた?
いつもと違う衝撃、これを言葉で言い表すのは難しい。
俺は次の射撃目標を指示してから、戦闘中にも関わらずハッチから乗り出して、Ⅲ突Gの正面を覗いて見た。
「ゲッ、砲弾が食い込んでやがる……」
正面装甲に47㎜砲弾が喰い込んだまま止まっているという、シュールな光景が見えたのだ。
徹甲榴弾だったら非常に厄介だな。
ゴブリン歩兵は逃げ惑い、各所で炎上するゴブリン戦車。
奇襲に近い形での攻撃という事もあって、完全にゴブリン部隊は混乱に陥った。
しまいにはゴブリンが味方同士の戦車で誤射し合う場面まであり、こうなると楽勝ムードだ。
まるで夜店の的撃ちの形相となった。
30分もしないうちにゴブリン部隊は敗走。
何両か乗り捨てられた戦車もあったんだが、持って帰ることもできないし、どうせゴブリン戦車は大した金にもならない……でも欲しい。
だけど後で敵に再利用されるのも困るので、少しもったいないがすべて爆破処理した。
タクが応急修理して戻って来た。
砲塔旋回は手動ですればなんとかなるそうで、戦列に復帰するそうだ。
ちょっと心配だが、本人はここで後退したくはないようで、必死に「俺大丈夫」をアピールしてくるんで、復帰を了承した。
タクは大丈夫かもしれないけど、戦車が大丈夫じゃないんだが。
今は戦車が1両いなくなっても大きな戦力低下になるしな。
その間にも正面装甲に食い込んだ砲弾を調べたんだが、どうやら魔獣の素材を使った硬質弾だったらしく、砲弾は砕けることなく突き刺さったままだったようだ。
ただ、ゴブリンがこういった砲弾を使うのは初めて見た。
一応持ち帰るか。
その後、被害状況を簡単に確認してから直ぐにこの場所を出発。
改めて敵砲兵陣地へと進路を向けた。
今回のゴブリン軍には出て来ませんでしたが、ゴブリン製でソローリン軽戦車というのが以前出て来ています。
このソローリン戦車の元ネタはL3カーロ・ベローチェ豆戦車です。
そのシリーズの中にゾロターンS-18/1100という機関砲を搭載したタイプがあることから名前をヒントにしました。
という事で次回もよろしくお願いします。




