189話 ゴブリンの森へ
俺達ドランキーラビッツ(DR)中隊の戦車5両で出発した。
3号車、戦車長がソーヤの乗るシーマン戦車の操縦席には、リーサの代わりにナミが任についている。
それと251ハーフトラックとオークの戦利品のサイドカーには、バルテン軍曹達が乗車している。
彼らを休ませておくと、碌なことにならないと考えたからだ。
また何処からか色々と盗んできそうだからな。
ハーフトラックには無線機は他のよりも性能の良い機器を積んでいるから、色々と中継地点として役立ってもらうつもりだし、サイドカーにも無線を積んで偵察で力を発揮してもらう。
そのうちハーフトラックには重火器でも搭載できるように改造でもするか。
いやダメか、良く考えたらタク達の所有物だったか。
ま、タクの物は俺の物だからな。
251ハーフトラックは魔族と言われる種族の製品らしいが、それ以外にも結構な変わり種の製品やマニアックなものが多く性能も高い為、人族の間でもかなりたくさんの製品が出回っている。
その中にも251ハーフトラックに搭載できそうなマニアックな武器があるかもしれない。
いや、きっとある!
さて、戦車で移動しながら目的の場所までの道のりを考えなきゃいけない。
あまり時間が無い。
走るⅢ突Gのハッチから上半身を出し、折り畳まれた地図を眺めながら1人考え事をしていると、隣のハッチが開いてケイがヒョッコリ顔をだした。
「ねえ、ねえ、ケンちゃん。どう思う。なんか良い作戦ある?」
指揮官のくせに作戦も考えてないのかよ。
まあ、いつもの事か。
「地図を見ればわかる通り、この敵砲兵陣地を俺達部隊が叩きに行ったとする。そうするとまず間違いなく、こことここのの勢力圏から敵部隊が俺達を挟み撃ちにしてくるだろ。そうすると敵砲兵陣地の守備隊も合わさって、俺達は3方向からの攻撃を喰らう訳だ。まあ、後ろは街の守備隊がいるから逃げ道は確保されてるけどな。どう考えても全滅まっしぐらのコースだろ」
「えええ、それならどうするのよお」
俺はニヤリと笑みを浮かべながら地図を指さす。
「ここを突破する」
俺が指さした場所というのはゴブリンの支配地域であり、ゴブリンの精鋭部隊が駐留している場所であるが、敵砲兵部隊のいる場所とは全然違う地域でもある。
当然のことながらケイが「何か勘違いでもしてんじゃないの」と半分バカにした感じで言葉を投げかけてくるのだが、俺は平然とした口調でなおも話を続ける。
「いいか、よく聞けよ。このまま俺達が占拠した街を通って敵砲兵陣地へ攻め込んだら左からはゴブリン、右からはオークの部隊に挟み撃ちされる可能性が高いだろ。それだったら左のゴブリン部隊を突っ切って混乱させた上で、敵野砲陣地を攻め込めばだよ、少なくても挟み撃ちの可能性は低くなるだろ」
「まあ、たしかにオークよりゴブリンの方が良いけど。でもこっちは戦車5両しかないのよ。それにゴブリンと言っても精鋭部隊って話でしょ。そう簡単にその精鋭部隊を混乱させて突破とか無理じゃないの」
確かに簡単じゃないとは思う。
だけど挟み撃ちになるよりも良いだろ。
それに精鋭部隊とはいっても所詮はゴブリン、何とでもなる!
「じゃあ、ケイは何か良い案でもあるの?」
俺の返しにケイは顔を引きつかせて返答する。
「な、ないわよ。ある訳ないじゃないの。もう、その作戦でいいわよ。そのかわりケンちゃんが指揮を執りなさいよ」
「おい、指揮はいつも俺じゃねえかよ」
「そうと決まれば同伴している歩兵部隊の隊長にも知らせないといけないわね」
あ、スルーしやがった。
「あ、そうそう。歩兵部隊は街の外れで待機な。合図があったら砲兵陣地へ一気に攻めてもらう手はずにしてくれ。それと街の守備隊の野砲が協力してくれるんだろ。念のため話を通しておいてくれよ」
「え? 歩兵部隊、置いてっちゃうの」
「一緒にいたら逆に狙われるだろ。装甲されてないただのトラックだぞ。乗ってる歩兵もろとも準滅されるのが落ちだし、持ってる武器も小火器と迫撃砲くらいだしな。それより伏兵させておいて一気に攻めた方が良いだろ」
「よく解からないけど、それでいいわよ」
こうして大体の作戦は決まり、戦いの準備は整った。
味方歩兵部隊の2個中隊は街へと向かい、俺達DR戦車中隊はゴブリンの部隊目指して進路をとった。
俺達部隊のずっと先を偵察しながら行くのは、バルテン軍曹の部下のサイドカーだ。
俺達部隊は街を大きく迂回する形で進路をとっているけど、今進んでいる場所はすでにゴブリンの支配地域の森の中。
そんな中、俺達DR中隊は結構な速度で走っている。
素早く移動することによってこちらの居場所を特定させず、敵の対応も後手後手になる。
つまり、敵が俺達に対応する前にそこから移動しちゃえってことだ。
そして敵の砲兵陣地まで一気に移動して、すばやく叩いて即座に後退。
大した被害も受けずに敵砲兵陣地を撃滅。
モリス軍曹は英雄となり、女性兵士からモテモテ。
エミリーからも「お兄ちゃん、素敵。だーい好き!」
ケイからも「ケンちゃんイケメン、ご褒美よ……」な~んて!
おおお、ハッピーエンドな結末じゃねえか。
我ながらすばらしい作戦だ。
「ケンちゃん、何ニヤニヤ1人で何やってんの? 猿芝居?」
ツンデレのツンの部分できたか。
その筋の人にはこの言葉はご褒美らしいけど。
その時、前方から銃声が聞こえた。
どうやらライフル銃のようだが味方ではなく、ゴブリンのライフル銃の銃撃音だ。
そして直ぐに先を行くサイドカーから無線連絡が入る。
『ゴブリン兵と遭遇、4~5匹の歩兵』
ゴブリンの斥候のようだ。
俺は放って置くように指示して、やや速度を上げてそのまま突き進む。
すると再びサイドカーから連絡が入り、今度は小隊規模のゴブリン歩兵を発見したそうだ。
運が良い事にまだ敵には気が付かれていないらしい。
これは面白そうだな。
「全隊、突撃!」
車内では「は?」という空気で充満するも、エミリーただ1人だけ背中にオーラを発し始める。
タクからも無線で「突撃命令で間違いありませんか?」と何故か聞いてくる。
もちろん再度無線で言いましたよ。
「全車両、これより敵歩兵部隊へ吶喊する!」
実は敵歩兵の発見した場所というのがさらに敵陣の奥、そこへ突撃するならゴブリン支配勢力の奥へ行かなくてはいけないということ。
誰もが「砲兵陣地の攻撃予定時間に間に合うの?」と言いたいのだろう。
なんとかなんじゃね、ついでだヨ、ついで。
そして突撃してみると、ゴブリンの歩兵部隊が対戦車兵器などを装備しているはずもなく、逃げ惑うゴブリン歩兵に対して一方的な蹂躙攻撃となった。
まあ、知ってたけどな。
しかし、この「ついで」で行った攻撃が思わぬ事態へと発展した。
水を得た魚の如く、ゴブリン歩兵を蹂躙していくエミリーなのだが、突然あらぬ方向へと車体の向きを変えた。
「おいおいおい、エミリーさん? どこへ行こうとしてますか?」
俺の問いに何故か片言で返すエミリー。
「あっち、もっと、じゅうりん」
あっちに何かいるのか?
キューポラから前方を凝視すること数秒後、思わず声を上げた。
「くそっ、セメトン戦車。徹甲弾装填、急げっっ!」
俺の視界の先にはゴブリンの戦車部隊が映っていた。
やっと投稿です。
9割くらいまでは結構な早さで書き上げられるんですが、残りの1割が進みません。
修正みたいな作業ですね。
何故かこの作業が一番時間を取れれてしまいます。
良く言えばそれだけ丁寧。
悪く言えば面倒臭がり←こっちか?!
今話から戦闘シーンに入りますので書く速度が若干早まります。
(戦闘シーンの方が書いてて楽しいからw)
それとゴブリンのセメトン戦車、セモベンテが元ネタですが、これはセメントという言葉に似ていいるからそう名付けました。
ゴブリン戦車のブレタン戦車、元ネタはカルロ・アルマートですが、これの名前の由来は「ブレダ機関銃」を搭載してる事からブレタンにしました。
その他にも「ヒルノ・ヨルマート」「アルマジロ」「サルマーネ」などといった案がありましたが、ブレた機関銃という、いかにも命中しなそうな名前が気に入りまして、少しだけいじった名称になりました。
という訳で次回もよろしくお願いします。




