188話 視線
思った以上に書き上げるのに時間が掛かりました。
遅くなりましたがアップ!
翌日、新編成される俺達の隊に猟兵部隊の何名かをもらえないかと、ケイと一緒に大隊本部のある場所へと向かった。
そして大隊本部の大隊長のいる所へと行って、早々に話を打ち明けるとちょっと意外な反応を見せた。
答えは簡単だった。
大隊長が二つ返事で“その場”で了承してくれてちょっと拍子抜け。
上層部に相談もしない事に少々驚かせられたが、大隊長の態度を見て少し納得した。
それを聞いた時の大隊長は嬉しそうな顔で手まで差し伸べてきた位だからだ。
ちょっと意外な反応に戸惑いながらも握手を交わす俺とケイ。
まるで商人との商談が成立したかのよう。
余程彼らの扱いに困っていたんだなと想像させられて、この大隊長も苦労してきたんだなと思う反面、俺達の軍隊生活の先行きに不安を感じてしまった。
さらに戦利品であるタイプ34を軍のテストで使うとかで、是非とも引き取りたいと言う。
代わりにモデル3スチームアート軽戦車を2両を渡すと言ってきた。
これにはちょっと悩んだ。
このスチームアート軽戦車は2戦級の戦車だからだ。
火力が足りない為、ゴブリン戦車ならなんとかいけるのだが、タイプ34でも出てこようものならまるで歯がたたない。
だけどメリットもある。
主砲はこの戦場では威力不足な小口径の37㎜砲を装備する軽戦車なんだが、軍の正式採用品なのでパーツは直ぐに手に入るし、速度が出るし軽快なため偵察車両としてなら十分使えると思う。
本当はシーマン戦車の方が欲しかったんだけど、シーマン戦車は生産が追い付かないらしく、余剰分などないんだと。
まあ、偵察車両も欲しかったしこれで妥協するか。
なにより大隊長に言われたら断りづらいし、ここで恩を売っておくのも悪くないかなと。
こうして俺達は戦利品のタイプ34とスチームアート軽戦車を交換した。
それで猟兵部隊14名の中から選抜して8名がモデル3スチームアート軽戦車、つまりは中隊本部車両へと配属が決まった。
そう、中隊となると中隊本部車両が必要となる。
通常は戦車か装甲車が3両ほどで、それ以外にもトラックや乗用車やバイク等が雑用で必要になるそうだ。
トラックやバイクに乗用車は、オークの戦利品を修理すれば今のところはやっていけそうだし。
それと猟兵達を中隊本部に配属とした理由は、一応指揮官の目の届く範囲にという理由がひとつ。
そして、リッチ隊長は懲罰部隊とは言っても少尉である。
少尉以上の階級者のすぐそばに置いて監視させておけば、上官命令に隷属の首輪が作動して命令無視はできないという思惑だ。
そうなるとリッチ少尉より階級の上の中尉であるケイしかいない。
ケイは嫌がったんだが、最終的にはなんとか俺が説得した。
そうなると後はリッチ少尉が闇ルートで都合つけてくれる戦車に期待が集まる。
俺からの希望は――
①主砲はできれば75㎜砲以上、それ以下でも貫徹力が優れていれば可。
タイプ34との戦闘を想定すること。
②修理部品や弾薬に困らない事
軍が正式採用してる戦車ならばなお良いが、市場に出回る事はあまりない。
あるとしたら横流し品だ。
まあ、それも可。
現に俺達が持ち込んだ新品のようなシーマン戦車は、その可能性が大。
ハンターが使うような市場に出回っている戦車でも可。
それなら何とか部品を調達できるから。
③扱いやすい事、
整備性が悪くて稼働率が下がったり、操縦が難しいとか問題があるのは勘弁願う。
これをリッチ隊長に伝えたら怒られました。
そんな都合がよい戦車はそう簡単に手に入らないと。
それと、シーマン戦車ならその希望に合うんだけど、シーマン戦車は軍がすべて買い上げているから。今じゃ闇ルートを使ってもそう簡単に手に入るもんじゃないと言われた。
となるとあとは他種族の正式採用戦車とか、パーツが流用できるような改造戦車かだ。
そこはリッチ隊長の腕次第になるか。
どのみち暫く時間が掛かりそうだ。
数日後、ケイパパからの戦車が1個小隊分届いた。
それを見た俺の第一声。
「新品のシーマン戦車かよ、それも全部76㎜砲搭載タイプじゃねえか……」
俺はその場にいたケイにすかさず視線を送る。
すると物凄い勢いで目を逸らしやがった。
するとタクが堪らず言葉を挟む。
「そ、それじゃあ、これは有難く貰っておいて、次に送られてきたら蹴りましょう、か……だ、だめ?」
言い終わってからタクがケイの方に恐る恐る視線を持っていく。
それに見習ってそこにいたK小隊の全員が一斉にケイに視線を送る。
すると大きな溜息をついた後、ケイが両手を大げさに交差させながら言った。
「ダメぇ!」
すると今度は全員から大きな溜息が漏れた。
俺はちょっとだけムカついて、ケイの頭を鷲掴みにしてグリグリしてやると、ケイは「も~、やーめーてーよー」などと笑いながらつぶやく。
その時、俺はどこからか妙な視線を感じて辺りを見まわすと、それはエミリー視線だった。
なんとも微妙な目。
半目というか、馬鹿にしたような、それでいて生暖かい目というか、どこか別の所を見ているような目というか、とにかく今まで見たこともないエミリーの目だ。
何か悪い事でもしていたのを発見されてしまったような気分になり、何故か言い訳をする俺。
「エミリー、待て、勘違いするな。これは、あれだ。その、何というかな、大人の難しい交渉術という奴だ。かつての3英雄が“万物に生命は宿る”っていうあれだ。なんだそれ?」
俺自身、何を言ってるか解からない。
当然エミリーにも通じないだろう。
「そう、わかったよ、お兄ちゃん……」
「え? 今ので解かったの? 何が?」
これはどう考えたらいいのだ。
詰んでしまった俺は困ってケイの方を見る。
しかし返ってきたのは肩をすくめて口をへの字にするケイの姿。
気が付けば小隊全員が俺を見ている。
今が俺の最大の試練!
ふと、ソーヤの方に顔を向けると、俺と目が合った途端、わざとらしく大きな溜息を吐きやがった。
おおお、お前にやられるのが一番痛いんだよ。
ますます居ても立っても居られない状況へと追い込まれた。
と思った矢先、助け船が入った。
「中隊長、大隊本部に至急来てくれとの事です」
大隊本部からの伝令だった。
だいぶ慌てているようなので恐らく出動命令だろう。
その慌てようからも皆に緊張感が伝わり、自然とK小隊の全員も慌ただしく自分たちの戦車へと向かう。
といっても中隊編成はまだ終わっていない為、L小隊が不在な状態だ。
我々ドランキーラビッツ中隊、略して『DR中隊』はJ小隊とK小隊の2個小隊しかいない。
ちなみに中隊編成が整ったらタクはL小隊の小隊長に、ソーヤはJ小隊の小隊長に昇進予定だ。
ソーヤもタクも爵位持ちで、戦車学校卒業の時に自ら軍曹希望で准尉から降級している為、准尉には直ぐに戻れる。
(残念ながら少尉になれなかったが)
だから編成終了したら准尉として小隊長をやってもらう予定だ。
猟兵部隊も軍からのスチームアート軽戦車が届くまでは元の猟兵部隊で戦っている。
さらにJ小隊はシーマン戦車を2両修理中で残るは2両しかなく、K小隊もバルテン軍曹のシーマン戦車が整備中で動かせない。
つまり1個中隊にも関わらず、戦車は5両しかいないのだ。
それとナミによる251ハーフトラックが1両がプラスされるが戦力としては薄い。
この状態で出動命令が出たら大変だ。
しかし20分もするとケイが渋い顔で帰って来て言った。
「30分後に出るわよ。敵の砲兵陣地を潰せって命令ね。急いで準備して。それと味方歩兵部隊が2個中隊同行するって話よ」
そういえば奪還した街の奥に敵の砲兵部隊がいるって言ってたよな。
という事は、俺達が街を奪還したから生まれた作戦じゃねえか。
そこで疑問が湧いた。
「なあ、ケイ、俺達って確か戦線を突出してるって話だったと思うんだけど」
するとケイも思い出したように言った。
「そうね、そういえばそんな話を聞いたわよね」
「となると、俺達がここで敵砲兵部隊を叩きに行ったら、両サイドから敵に挟み撃ちとかされたりしないの?」
「考えてみたらそうよね」
おい、ケイ、なんで冷静なんだよ。
この重大さがわかってないよな。
そこで何故かタクが俺に耳打ちする。
「(ケンさん、ケイは一応中隊長ですから、言葉、こ・と・ば)」
いかん、すっかり忘れていた。
いつものタメ口で話していた。
ケイもいつも通りにするから忘れていた。
ふと、周囲の視線に気が付くと、全員が俺とケイを見ている。
続いてエミリーをそっと見てみると、やはり皆と同じ様な目で俺とケイを見ていた。
ああ、そうか、そういう事か。
「(タク、わかった、そういうことだったんだな)」
俺がエミリーを見ながらタクに小声で返答すると、何故かタクが呆れたように言った。
「そこは全然わかってないんですね。ケンさんって無茶苦茶、鈍感男だったんですね……」
タクのその言葉に俺は笑いながら答えた。
「ははは、そうそう、昔からよく言われたよ。でさ、それってどういう意味なんだ?」
タクの表情が一瞬で無くなった。
言い訳:
前回の投稿の時点で9割仕上がってたんですが、修正を繰り返しているうちに時間が……
何とか書き上げてる途中に寝落ちして、こんな時間に投稿ですw
スチームアート軽戦車ですが元ネタはM3スチュアートです。
M8グレイハウンドとどっちにするか悩んだんですが、キャタピラが勝った次第です。
という訳で次回もよろしくお願いいたします。




