187話 戦火の青春
遅くなりました。
<(_ _)>
お偉いさん達との話も終わり、俺とケイは中隊本部の天幕から出て、自分たちの野営地へと向かった。
しかしなんだかいつものケイと雰囲気が違う。
なんか考え事でもしてるような。
話し掛けづらい雰囲気のまま2人して森の中を歩いていると、ケイが突然立ち止まる。
そして前方を見たまま唐突に話を始めた。
「実はね、私のパパが戦車1個小隊分寄贈するって話なんだけど」
そこまで言って話を切ったので、相談事かと思って俺も立ち止まって答える。
「ああ、さっきの話ね。それがどうかしたの?」
するとケイはやはり前方に視線を向けたまま話しを続ける。
「さっき初めて聞いたんだよ。パパがそんなことしたってこと」
「そうなんだ、初めて聞いたんだ。でも作戦中だったしね、しょうがないんじゃないの」
「そうなんだけど……寄贈されるってことを私は了承なんてしてないのよ」
え?
何その言い方。
まるで寄贈を断るみたいに聞こえるんだけど。
「えっと、どういう事?」
「だからさあ、このままパパから戦車もらったら家出してきた意味ないでしょ。私はパパの手から離れて自立したかったから家を出て来たのよ。それがここで戦車なんてものを受け取ったら、私の行動してきた意味がないじゃない。もうパパの言いなりで生きていきたくないの」
「まあ、言ってることは解かるけどね。でも折角――」
「だから決めたの。寄贈は断るよ」
おおおおお、1個小隊の戦車がああ~!
はぁ、でもケイの気持ちもわかるんだよなあ。
しょうがない。
「そうだな。ケイの好きにしたらいいと思うよ……」
すると前方を見ていたケイが俺に向き直る。
「あ、ありがと。ケンちゃんならそう言ってくれると思ったよ。これはほんのお礼だよ」
そう言うとケイの顔が急激に接近してきた。
俺の視界一杯にケイの目を閉じた顔が接近し、柔らかい感触を唇に感じた。
俺が呆気に取られていると、スッとケイの顔が俺から離れていく。
何があったか直ぐに把握できない俺はその場で思考が停止。
そしてケイは上目遣いで俺を見ながら話し始める。
――それはそれは恥ずかしそうな表情で。
「えっと、ソーヤとリーサの件があったでしょ。人って簡単に死んじゃうんだって思い知らされたの。あれを体験しちゃったらね、何だか後悔はしたくないなって思っちゃったのよ。だからね……」
よく意味が理解できないんだが。
それよりも、なんかいつもとケイの感じが違うんですけど。
ああそうか、これがあの噂の“ツンデレ”ってやつか!
沈黙が続く。
それよりもこの空気感やばい、なんか言わなくちゃ。
こういう時なんて言ったら良いんだ?
「えええと、天気も良いし、そ、そうだね――」
何言ってんの俺!
俺がオドオドしているとケイが再び話し出す。
「そ、そうだ。せ、戦車の寄贈なんだけど、到着したら軍に寄付しようかと思ってるんだけど、ケンちゃんはどう思う?」
ケイが強引に話を戻した!
顔が赤いところを見ると、ケイもこの場の空気に耐えられなくなったんだろう。
でもそれで正解だ。
俺は助かった!!
「べ、別に良いんじゃ、ないの。ケ、ケイの好きに、すれば、ひょいと――良いと、思うひょ――よ……」
頭の中では冷静になろうとしてるんだが、身体がテンパってる。
その証拠にろれつが回ってねえ!
なんだ、この雰囲気は。
くそ、耳が熱い!
「うん、じゃあそうするよ。そうだ、皆で戦勝会やろうって言ってたんだ。ああ、遅れちゃう。ケンちゃん急いで!」
ケイが俺の手を取って走りだす。
あれ~、青春かよ!
その後、ゾンビ部隊とK小隊とで戦勝会を開いた。
戦死者への追悼も込めてだ。
ソーヤも強引に連れてきたんだが、相変わらずの様子。
こういう時に役立つのがバルテン軍曹達で、色々と食料や飲料を調達してきてくれた。
それにこういったパーティーでの盛り上げ役は彼らにしかできない。
下ネタは女性隊員からは不評だけど一番盛り上がるネタでもある。
今のソーヤには効果ないが。
この時点で札束もバルテン軍曹らと山分けした。
そして大騒ぎも落ち付いてきた頃、ケイが皆の前で俺とケイの昇進と部隊配備に関しての発表をした。
ケイパパからの寄贈の件も隠さずにだ。
その話をした上でこうも告げた。
「――それで、新しく戦車を購入しようと思うの。1個小隊分ね」
いや、待て。
そんな話、俺も聞いてないし。
そもそもケイよ、戦車が1両どんだけの値段するか知ってるのか。
金持ちの金銭感覚じゃわからんか。
足りるとしても一気に貧乏中隊になるぞ。
弾薬と燃料、そして修理工賃は軍が負担してくれるけどな、予備パーツは有料だから消耗品も買っておかなければいけないんだぞ。
まあ、シーマン戦車だったら軍でも使ってるから手に入りやすいけどな、そうでない場合は予備パーツを探すだけでも一苦労だ。
と思っていたら、それに対して質問する者が現れた。
「ちょっと良いか。そんな資金はあるのか。オーク戦車に対抗できる車両を買うとなると中古でも400シルバ位はするぞ。1個小隊分となると1,600シルバの予算が必要ってところだな。貴族にしてみても大金だろうに」
そう言ったのは猟兵部隊のリッチ少尉。
そういえばリッチ隊長も少尉ってことはお貴族様ってことだよな。
するとケイは露骨に知らなかったという表情を見せて言った。
「そうなの? その辺詳しそうじゃないの、リッ――リッキー少尉」
危なく“リッチ”って言いそうになったな。
少しだけ困った表情をしつつもリッチ少尉は視線を逸らしながら言った。
「その、なんだ、若気の至りで昔は軍品の横流しもやったからな」
こいつはなるべくしてなったと言い切れる、生粋の懲罰部隊の隊長だな。
っていうか、こいつどんだけ悪さしてるんだか。
しかし今はその経験が使えそうだな。
そこで俺は提案を持ち掛けた。
「それならリッ、リッキー少尉、もしかして戦車1個小隊分の手配とかもやってもらえたりしないでしょうか。もちろん出来るだけ安い値段でという条件ですけど」
するとリッチ隊長はアゴに手を当てて少しだけ考え「それは別に構わんが――」と一言断った上で話を続けた。
「条件がある。それは俺達の部隊を貴様らの部隊に正式に加える事だ」
ちょっと驚いた。
さすがにこれは悩む。
仮にも彼らは懲罰部隊のメンバーだからだ。
つまり程度の差はあるが、彼らは全員が犯罪者である。
特にその隊長のリッチ隊長は曲者だ。
エミリーや他の隊員もやはり悩み顔で何故か俺を見てくる。
ここの指揮官であるケイに至っては、俺の横から肘でグイグイと突いてくる始末。
皆の視線とケイの態度は俺が判断しろという意味なんだろう。
俺達がそんな風に悩んでいるとリッチ隊長が再び口を開く。
「ああ、言っておくが今ここにいる全員じゃないぞ。戦車経験のある者と砲兵隊だった者など使えそうな奴だけだ。それに中には嫌がる奴もいるし向かない者もいる。そこんところは俺が責任をもって選別する。その代わり予算はどれくらいかは知らないが、俺のコネをフル活用してやる。俺なら売値の半値近くまでなら値切れるぞ」
最後の文言にはちょっと心が揺らぐな。
半値までいけるならかなり性能の良い車両もいけるな。
そういえば中隊規模ってことなら中隊本部車両も必要になるんだよな。
1個小隊に加えて中隊本部車両も購入できるかもしれない。
あれ?
この思考はすでに中隊に迎える設定になってるじゃねえか!
そして最終的に彼らの半数以上を臨時ではなく、正式に俺達の中隊へ迎える決意をした。
だけど、上層部がそれを承諾するかはまた別の話だ。
言い訳:書きかけの文章にに3000文字ほど追加で書き終わり、上書き保存のキーを押して画面を閉じたんですよ。
しかし!
上書き保存されていなかったんですね。
キーを押し忘れたのかと思い、キーボードを叩き壊すほどの怒りに耐えながら、再び書き進めて再び2000文字書いたところでしっかりと上書き保存キーを押す。
しかしだ!
やっぱり保存されていなかった訳だ。
で、そこでやっと調子がおかしいという事に気が付いたという訳です。
結局PCの再起動(実はこれもフリーズしてしまい上手くいかず、3回やりました)でなんとか直りました。
今のところ普通に動いています。
何回PCをぶん投げようと思ったことかw
という事でやっと投稿です。
次回は早めに投稿できそうです。
次回予告:
ケンちゃんとケイの急接近にエミリーは⁉
えええ!
まさか猟兵部隊が⁉
戦車1個小隊寄贈を蹴るの⁉
という事で次回もよろしくお願いします。




