183話 追撃戦始まる
猟兵達をよく見れば戦闘服は前よりもさらにボロボロで、顔は酷い汚れ方をしていて、誰がどう見てもアンデットにしか見えん。
それと出撃する時に26名いた小隊が、今や14名となっている。
という事は、12名様がリッチ小隊長に楽にされてしまったんでしょうか。
リッチ隊長まじ怖えわ。
あ、やば目が合っっちまった。
うえ、笑ってやがる――いや違う、頬に穴が空いているから笑ってるように見えるだけだ。
なおさら怖えよ。
ちょっと怖いけど彼らをここに置き去りにはできない。
猟兵達はゾンビの様にやせているからな、12名程度ならば窮屈だけどⅢ突Gの車体の上なら乗せられそうだ。
いや、乗ってもらう。
それでゴリゴリに戦ってもらおうか。
「よし、ケイ。バルテン軍曹の戦車を拾ってタクやソーヤ達と合流するぞ。急げ。敵の撤退はもう始まってる。追撃のチャンスを逃がすな」
俺の言葉にやれやれと言った感じは歪めないがなんとか皆が動き出す。
特にアンデット部隊の面々は露骨にそれが態度に出ている。
まあ死線を潜り抜けてきたばっかりだし、ここは目をつぶってやるか。
そう思って視線を逸らしたところで後ろから怒鳴り声が聞こえた。
「あんたたち、それが上司の命令に対する態度なの?!」
その声はケイだ。
猟兵達の態度の悪さにちょっと切れちまったようだ。
気持ちはわかるがアンデット相手にそれはちょっと待てだ。
怖い物知らずって言葉を知らないのか。
それに一応は命令に従ってるからな。
それが証拠に彼らの着けてる隷属の首輪は何の反応も示さない。
ケイの言葉に一瞬その場が凍り付いたのだが、その氷を一瞬で溶かしたのがリッチ小隊長の魔法のような一声。
「お前ら何ぼさっとしてる……急げ、急げっ」
このリッチ小隊長の呪文のような言葉で場の空気が急変した。
正に鶴の一声。
アンデット部隊だけでなく、俺達までが恐ろしいほどにキビキビと動き出したのだった。
準備が整いⅢ突Gで走り出すと、煙幕のなくなった街中は確かに敵が見当たらない。
リッチ小隊長の言う通り、敵は本当に撤退を始めてるみたいだな。
途中、先ほど戦闘したタイプ34が2両横転している場所を通りかかると、車体後部に乗っているリッチ小隊長がぼそりと言った。
「なんだ、あの戦車2両はまだ動くだろ。鹵獲していかないのか、もったいない」
ハンター時代なら金に換えるために接収したんだけど、今は軍隊に所属してるから俺達の物にはならないからな。
どうせ鹵獲しても軍に持って行かれちまうから、初めから余計な労力は使わない。
しかしケイが何やら言い始めた。
「そういえば私達ってケイ・ホクブ公爵の私設軍隊って設定なのよね。それだったら鹵獲すれば私達に所有権が発生するわよ。貴族特権ってやつね」
それは初耳だぞ。
「まじかよ。それは良い事を聞いたな。帰りに持って行こう。そういう事ならさ、ハンター協会支部でバルテン軍曹達が火事場泥棒したお宝さ、あれも俺達の所有権なんじゃないの?」
うん、俺、今良い事言ったな。
するとケイが悩みながら返答する。
「う~ん、そう言われてみればそうよね。そもそも黙ってればバレない気もするけど」
ケイ、恐ろしい事言うよね。
バレたらきっと懲罰部隊行き、つまりゾンビにされたうえでアンデット部隊に放り込まれ、脳が破壊されるまで戦う事を強要されて、しまいには使えないゾンビと判断されてリッチ隊長に『楽』にさせられちゃうって事だぞ。
するとエミリーが……
「そういえば今月分の借金返済分の支払いがまだだったよね、お兄ちゃん?」
さらにミウまでもが……
「あの、私も今月分の支払いをどうやって工面しようか悩んでたんですけど」
俺は空気を読める男だ。
「そ、そうだな。バレなきゃいいんだよな。だいたいそのお宝とやらって言っても、どうせショボいもんだろ。オークやゴブリンも持って行かなかったもんだし。バレたところで上層部もスルーするんじゃね。よっし、取り合えずバルデン軍曹達と話し合うか」
するとケイ。
「話し合いというか交渉なら私に任せてよね」
そうだな、ケイなら貴族だし上官だからバルテン軍曹も強気には出ないだろう。
どっちみちお宝は持ち帰ってから話し合うとして、今はタクとソーヤ達と合流して追撃戦だ。
俺達はバルテン軍曹を拾い、タクやソーヤのいる建物に到着した。
街中だと無線が繋がりづらく、合流してやっと話が出来た。
とりあえず建物に陣取っている味方歩兵部隊はそのままここを防衛してもらう。
ハーフトラックとナミもここで待機してもらうついでに、作戦本部へ現状の説明と敵部隊への追撃戦をするとことを伝えてもらう。
追撃戦の許可は取らずに俺達はすでに出発したということで、事後報告って形で連絡してもらおう。
ちなみにこれはソーヤの提案だ。
建物にいた味方の被害状況はほとんどなく、タクとソーヤの戦車もほとんど無傷で、中庭に入るところで敵戦車が2両ほど燃え上がっていた。
2両とも勝手に射線に入って来たから一撃で勝負はついたらしい。
それは良かった。
ちょっとだけ心配したんだけどな。
さて、そろそろ出発しますか。
弾薬も燃料もまだ十分あるし、K小隊の恐ろしさを思い知らせてやるか。
猟兵部隊は3~4人づつで各戦車に分乗していて、敵を発見しだい下車戦闘という流れの予定だ。
敵の戦車はほとんど残っていないらしいから、それほど苦しい戦いにはならないと思う。
という事で蹴散らしますか。
「前進!」
こうして猟兵を乗せた戦車3両が出発した。
あ、バルテン軍曹の戦車はお留守番となりました。
修理が間に合いませんでしたので。
ナミもハーフトラックと一緒に留守番です。
リッチ小隊長の案内で、街を取り囲む防壁の近くで敵の車両部隊を発見した。
う~ん、ここまでしっかり敵の位置取りまで理解してるとは。
恐ろしや、アンデット部隊隊長リッチ!
そこはトラックや装甲輸送車が停車しており、今まさにオーク歩兵が乗り込んでいる真っ最中だった。
すでにオーク兵を満載して出発しているトラックもいるようだ。
車両は街の外で車列を作っていて、街から外へ出たオーク歩兵が順に乗り込んでるのが見える。
「ケイ、全車両に通達。各個撃破。1両も逃すな」
先陣を切って一番最初に敵トラックを撃破したのはタクの戦車だった。
実はタクのシーマン戦車の砲弾は命中していない。
敵トラックの手前に着弾したのだが、弾種が榴弾だった為に着弾と同時に爆発し、多数の破片と爆風を周囲に撒き散らした。
それが敵トラックに直撃したのだ。
あっという間に燃料に引火して、車両もろとも多数のオーク歩兵が吹き飛んだ。
非装甲の目標など命中しなくても十分やれる。
続いてはソーヤの戦車砲の榴弾が、オーク歩兵の集団の真ん中に着弾した。
もちろん周囲のオーク兵は見るも無残な形となる。
オーク兵も黙ってやられているだけではない。
一斉にライフルや機関銃を撃ち返してきたんだが、戦車に小銃弾が通用する訳もなく、すべて戦車の装甲によって弾き返してやった。
砲塔のないⅢ突Gはやはりこういった状況では不利になる。
撃ちたい方向に車体を向けないと撃てないというハンデがある。
だがⅢ突Gには他の戦車に無い特技がある。
それはリミッター制限のないエンジンによる圧倒的な速度、それを操縦する悪魔のような子の蹂躙攻撃がある。
1発だけ砲弾を敵の中へ撃ち込んだ後、Ⅲ突Gは速度を落とさず敵陣へと斬り込んだ。
最初に踏み潰したのは輸送トラック2両と装甲輸送車が1両の合計3両。
後方から一気に乗り上げて2両のトラックを踏み潰し、最後の装甲輸送車は激突して半壊にしてから横転させた。
3両を破壊するのに僅か数秒の出来事だ。
護衛なのか唯一いたタイプ26軽戦車2両は、砲撃する前にⅢ突Gとソーヤのシーマン戦車が撃破した。
完全に一方的な攻撃だった。
ここへきて解かったんだが、シーマン戦車の砲塔上に12.7㎜重機関銃が搭載されてるんだが、これが凄いなんてもんじゃない。
主砲を撃たなくてもこの重機関銃だけでトラックはもとより、装甲輸送車両までボコボコにしてくれる。
生身のオーク兵なんて1発喰らっただけでバラバラになってしまうほどの威力。
対してⅢ突Gの車体上に搭載してる機関銃と言えば、口径7.92㎜の発射速度のやたら速い機関銃だ。
性能自体は優秀なのだが、やはり12.7㎜の機関銃と比べてしまうと威力不足となる。
こっちの利点と言えばリモート式の機関銃だから、安全な車内から撃てるってとこだ。
オーク歩兵に対してだけ撃つなら問題はないのだが、威力のある機関銃はちょっとうらやましいかな。
このままだとタクとソーヤのシーマン戦車組に、片っ端から手柄を持っていかれそうな勢いだ。
「ケイ、弾幕薄いぞ。何やってんの!」
リモート機銃担当のケイに思わず強く当たってしまった。
変な時間に投稿です。
そろそろ街の奪還作戦も終盤です。
という事で次回もよろしくお願いします。




