182話 アンデットの恐怖
道路を塞ぐようにして止まったタイプ34の側面に、後続を走っていたタイプ34が激突した途端に、ぶつけられたタイプ34は横転。
そして突っ込んだタイプ34は横転した車体に乗り上げたかと思ったら、コロンと転がってやはり横転。
結果、たった1発の徹甲弾で2両のタイプ34を擱座させたのだ。
飛び上がって喜んだのはケイだ。
「やったわよ、すごい、すごい! 1発の砲弾で2両撃破ってすごい、私天才かも!」
「お前じゃねえから!」
ケイは砲弾装填しただけだろ。
敢えて言うならミウかエミリーだな。
アホは放って置いてエミリーをそっと覗いて見ると、どうやら今は落ち着いているらしい。
スイッチ入ってなかったのかな?
まあ、無事だったからどっちでもいいか。
そういえば、置いてけぼりにしたバルテン軍曹に無線連絡しなきゃ。
バルテン軍曹に連絡すると、敵の砲弾を受けて貫徹はしてないが、その衝撃で変速機をやられたらしく低速でしか走行ができないらしい。
しょうがない、迎えに行ってやるか。
一応、まだ近くに敵がいるかもしれないから気を付けながらだな。
周囲を警戒しながら走っていると、流れる街並みの景色の中でそれをチラッと見つけてしまった。
「くそっ、この向こう側、9時方向の道路に敵戦車、並走してやがるぞっ」
地図を見ると俺達のいる道路と並走している道路がある。
この先50mほどで、お互いが同じ道路と交差する。
つまりお互いが視認出来るという訳だ。
建物の切れ目から見えたのはタイプ34の砲塔部分だけ。
敵からは車高の低いⅢ突Gは視認出来ていないことを期待する。
そうなると道路と交差したところで勝負だ。
「エミリー、この先の交差点で9時方向へ車体を向けてくれ。敵戦車を仕留める」
それだけで全員に話が通じたようで、黙々と各自が仕事に取り掛かる。
そして交差点に差しかかった瞬間、Ⅲ突Gは横滑りしながら車体を90度回転させ、砲身を敵戦車が現れるであろう方向へと向けた。
その直ぐ後、まんまと敵戦車が現れる。
タイプ34が1両――とその後にもう1両現れた。
砲塔のない戦車が。
しかし躊躇するよりも前に、俺は「撃て」の合図を出していた。
移動目標とは言え、至近距離での射撃。
今やベテランの域に達しているであろうミウは、確実にタイプ34の側面に砲弾を叩き込んだ。
砲弾はもちろんこの距離なんで貫通だ。
だけど、もう1両いるのだ。
急がないとやられる。
砲塔がない戦車、それはタイプ34の車体を利用した駆逐戦車で、砲塔を撤去して固定式の85㎜砲を載せた“タイプ85自走砲”のことだ。
Ⅲ突Gと同様に砲塔はない。
しかし何が怖いかって85㎜砲だ。
「装填急げ、敵の自走砲がこっちに向く前に撃つんだ!」
しかし敵自走砲の反応が思った以上に早い。
そう、車体は機動性の良いタイプ34のものだ。
動きが早いのは当然だ。
だが、エミリーはここぞというところで自分勝手に動いてくれる。
Ⅲ突Gが突如走りだす。
そしてあっという間に旋回しかかっている敵自走砲の側面に激突。
その勢いで敵自走砲は再びⅢ突Gに側面を見せた。
「よし、撃てっっ」
やった、いける!
と思ったのもつかの間、ケイの必死の言い訳が車内に響く。
「今の揺れで装填まだだから、ちょ、ちょっと待ってよね」
エミリーの急発進でケイの装填が妨げられていたのだ。
砲弾から手を放さなかっただけでも良しとするか。
床に落としでもしたら大変だからな。
敵自走砲は必死に旋回するが、これは確実にこっちが次弾装填して撃つのが早いな。
などと余裕をかましていたら、破壊したはずのタイプ34の砲塔が動いているのが見えた。
「くそ、タイプ34がまだ生きてるぞ。自走砲に砲弾を撃ち込んだらすぐに方向転換!」
俺の怒鳴り声が車内に響き、それを「装填完了」のケイの声が打ち消す。
ミウが75㎜砲弾を敵自走砲の側面に叩きこむと、急加速でもってⅢ突Gは後退しながら旋回する。
しかし間に合わない。
せめて分厚い正面装甲で受け止めたい。
これは1発喰らうと覚悟した瞬間、敵タイプ34の砲塔後面に火花が散った。
どこからだ?!
次の瞬間、タイプ34の砲塔ハッチからゴーという音と共に火柱が上がり、砲口からモクモクと煙を噴き出した。
これは完全に撃破だ。
タイプ34を破壊したという事は味方ってことだよな。
周囲を見まわすと、近くの建物から見慣れた格好の連中が警戒しながら現れた。
個人用対戦車兵器のショルダーランチャーを担いだ兵士達。
それを見たケイがつぶやく。
「このタイミングで湧いて出るなんて、さすがアンデット部隊じゃないの」
そう、居場所がつかめなかった猟兵部隊が俺達を助けてくれたのだ。
なんだ、使える奴らじゃねえか。
俺は1人、ハッチからヒョイと飛び出して破壊した敵自走砲へと向かう。
一応、破壊した敵自走砲が動き出さないか戦車内部を確認する為だ。
すると車内に生きたオーク戦車兵が1匹いた。
そいつを車内から引っ張り出して地面に寝かせる。
するとリッチ小隊長がツカツカと近づいて来て、腰の拳銃をいきなり抜いて撃とうとしたんで、俺は慌ててそれを制止する。
「待った! リッち、違う――リッキー・アンデロ少尉殿。そのオーク戦車兵は捕虜にしますんで」
すると、リッチ小隊長はちょっとだけ眉間に皺を寄せた後、ケイに視線を向ける。
目を泳がせながら慌ててケイが答える。
「そ、そうね。捕虜にしましょう」
それを聞いてリッチ小隊長は拳銃をしまい、部下にあごで合図を送る。
するとササっとアンデット部隊の2人が動いて、あっという間にオーク戦車兵を縛り上げてしまった。
その後、周囲を警戒しながら話を交わす。
もちろん戦況の事だ。
するとリッチ小隊長はどこで仕入れたのか詳しい戦況を教えてくれた。
「敵の戦車部隊は壊滅で敵は退却のようです。今、敵歩兵部隊を輸送部隊が積み込み中」
するとケイが肩の力を落としながら言った。
「ふう、これでやっと終わりね……」
そこで俺は言葉を挟む。
「ケイ、まだ終わりじゃないよ。ここは追撃を掛けよう。敵の歩兵部隊に大ダメージを与えるチャンスだよ。敵の戦車部隊は少数だし、歩兵部隊を守りながらの戦闘と俺達に有利でしかないよ。今動かないでいつ動くんだよ」
俺の力説を聞いたケイは実に嫌そうな表情を浮かべながら一言。
「わかったわよ。やるわよ……は~い、戦闘準備よ。タクとソーヤにも無線で伝えて合流よ。猟兵部隊は戦車とハーフトラックに分乗ね。味方歩兵部隊は現地点で防衛ってことで良い?」
ケイが俺の方へ視線を向けたんで俺は大きく頷いた。
そういえばアンデット部隊の人数がやけに減ってる気がするんだけど。
リッチ小隊長に何気なく聞いてみると返ってきた言葉に驚愕した。
「ああ、敵戦車を撃破する時に多数の重傷者と死者を出してしまった。重傷者はその場で楽にしてやったんで、そうだな半数ほどに減ったか。それですまんが、結局3両しか撃破できなかった」
生身の人間で戦車3両も撃破すれば十分でしょ。
いや、十分すぎるって。
それと『楽にしてやった』って言葉が聞こえたんだが、怖くてそこはスルーさせていただきました。
タイプ85自走砲は「SU-85」が元ネタです。
さて、いよいよ街の奪還も佳境を迎えてきました。
次回は追撃戦となります。
という事で次回もよろしくお願いします。




