181話 迂回せよ
お待たせしました。
俺の“後退”という言葉、エミリーに聞こえてないのか?
Ⅲ突Gの魔改造されたマイバッカ4気筒エンジンが唸りを上げ始めた。
エミリーがエンジンを空吹かしをしてるのだ。
やばい、まさかこの場面でスイッチなのか?!
スイッチのタイミングがわからねえ~~~~
「皆、掴まれぇえええっ!!!!」
俺の言葉が合図になったかのように、Ⅲ突Gはキャタピラを地面に擦り付け火花を上げて急加速した。
俺はこのまま敵の正面から突撃するのかと思い、腹をくくったんだがそうではないようだ。
敵戦車が進んでくる道路の方へは曲がらず、その勢いのまま真っすぐに突っ切ってしまった。
敵戦車の進路を横切った形だ。
タイプ34の内の1両が慌てて主砲を発射したが地面に着弾したに過ぎず、Ⅲ突Gはすでに交差点を渡り切っていた。
魔道エンジンは伊達ではない。
それ以前に操縦はエミリーだし。
でもエミリーはどこへ行こうってんだよ。
まあ、とりあえず危険地域からは逃げられたからいいか。
しかしこうなるとバルテン軍曹のシーマン戦車だけがあの場に放置状態で、きっとタイプ34の袋叩きになってしまうのはまずいか。
勝手な事をして道草喰ってた彼らは自業自得なんだが、一応は同じ小隊の隊員だから放っても置けないな。
無線でバルテン軍曹に連絡した。
「こちら1号車、モリス伍長。バルテン軍曹聞こえるか。1つ良い案があるんだけど」
『ああ、聞こえてるよ、こちらバルテン。モリス伍長、今はそれどころじゃない。こっちはなあ、こっちは集中砲火を喰らってぇんだぞ。駆動装置をやられて身動きが取れないんだよっ、こっちはな』
バルテン軍曹は相当苛立っているみたいで、声がひっくり返りそうだ。
命令無視した火事場泥棒なんかしてるからバチが当たったんだな。
俺は文句を言うバルテン軍曹の声を無視して話を続ける。
「バルテン軍曹。目の前に緑色の屋根の建物あるだろ、4階建ての奴。その1階部分に榴弾を1~2発ぶち込んで見てよ。きっと良い事が起きると思うよ」
それだけ言って俺は無線を切った。
俺はハッチから顔をだしてバルテン軍曹の方角を観察していると、シーマン戦車の75㎜砲の砲撃音が聞こえ、暫くすると緑色の屋根の建物が崩れ始めるのが見えた。
土埃が舞い上がり、その周囲は再び煙幕弾を撃ち込んだようになる。
今ので恐らく敵戦車が進んできた道路は、崩れた建物の瓦礫で封鎖されたはず。
これで敵戦車はバルテン軍曹のシーマン戦車に近づけなくなったという訳だ。
さっき通った時に崩れそうな建物があるという事は確認済み。
闘技場でのシュミレーションバトルの市街戦で、たくさんの朽ちかけた建物を見てきたからな、その時の経験が今になって役立ったという事だ。
そんなことをしていると、Ⅲ突Gがちょいちょい進路を変えているのに気が付いた。
地図で確認すると、さっきのタイプ34のいた道路の方へ迂回しながら向かっている。
そういう事ね。
回り込もうって作戦ね。
スイッチ入ってもちゃんと考えてんのか?
すると突如、前方に敵タイプ34の側面が見えた。
なんとドンピシャの位置に出た。
崩れた建物の瓦礫に道路を遮られた敵は、必死に方向転換している最中のようだが、倒壊した建物の破片が邪魔をしてかなり手こずっているようだ。
しかし俺達が今いる場所から敵戦車に近づくには、ギリギリ道路が狭過ぎてⅢ突Gでは入って行けるほど道幅に余裕がない。
まあ、余裕で射程内なんで問題ないけどな。
「ケイ、徹甲榴弾装填。エミリー、頼むから止まってくれ」
するとⅢ突Gはピタリと停車する。
俺は姿勢を低くして、恐る恐るエミリーのいる車内の操縦席を覗く。
肩で息をしてる感じでゆっくりと肩が上下してるが、なんか落ち着いてるっぽい。
いいね!
ただ、水蒸気のように薄っすら闘気みたいのが見えるんだが……
「目標12時方向タイプ34、距離200」
「徹甲榴弾装填完了よ」
「こちらも照準良しです」
「そっか、それなら――撃てっ!」
この距離ならさすがに通常射撃でも外さないだろう。
予想通り、ミウは車体側面のエンジン付近に75㎜徹甲榴弾を叩き込んだ。
75㎜徹甲榴弾を喰らったタイプ34は、たちまちエンジンから炎を上げ始めた。
放って置いても大丈夫かな。
「ケイ、次弾も徹甲榴弾を装填」
「ほいきた」
ケイもだいぶ慣れたもんで、重い砲弾でも反動をつけて持ち上げ、流れるような動作で一気に75㎜徹甲榴弾を込める。
そして俺に親指を立てながら「装填完了」と伝えてくる。
先ほどのエンジンから火を吹いているタイプ34は、機関銃の弾薬に引火したようで、パンパンと小さな破裂音を立てている。
そしてしまいにはハッチがブワっと開いて、ゴーという音と共に物凄い勢いで炎が飛び出した。
乗員のオークは脱出したようには見えない、ってことは可哀そうだがそう言う事だな。
これは戦争なんだ。
その爆発したタイプ34を盾にするようにして、他のタイプ34が砲撃してきた。
「別のタイプ34! エミリー下がれ。ケイ、次弾装填っ」
俺の怒鳴り声に反してⅢ突Gは後退どころか前進を始めた。
この狭い通路に向かって。
ガリガリガリガリガリ
エミリーさん?
思いっきりⅢ突Gの両側面を建物の壁に擦ってる。
ただ擦ってるだけではない。
強引に入り込んでいるもんだから、両脇に建物が次々に崩れていく。
エミリー、やめてくれ。
人間の街を壊すのはやめて下さ~い。
敵のタイプ34の76㎜砲弾が発射された。
この距離でこっちが狙いを外さないくらいだから敵も狙いを外さない。
ガインと嫌な音が車内に響く。
大丈夫、跳ね返した!
「ひ~。もう、オークの戦車め。装填完了よ、やっちゃって!」
こんな中、なんとかケイも装填が終わったらしい。
俺は直ぐに「撃っていいぞ」の合図をミウの肩を叩くことで知らせる。
するとミウが走行で車体が上下して照準が難しいと思ったらしく、自分の判断で命中の魔法を使い75㎜砲を発射した。
それは正解だった。
発射されたタイミングでは、明らかに上方へ砲身が向いてしまっていて、普通に撃ってたら明後日の方向へ砲弾は飛んでいたと思う。
だが魔法照準のおかげで砲弾はしっかり敵のタイプ34の砲塔に直撃。
一発で敵戦車は誘爆して、タイプ34の砲塔が空高く舞い上がった。
「やったぞ、これで5両目撃破だ。ハンター時代なら戦車エースの称号だぞ」
嬉しさのあまり声を上げてしまったが、喜んでいる余裕があるのは俺だけみたいだ。
他の皆は黙って先頭に集中している。
ま、しょうがないか。
まだ前方には敵戦車がいるはずだし。
Ⅲ突Gはまだガリガリいわせながら狭い通路を進行中だし。
「ケイ、次弾装填は徹甲弾でよろしく」
一瞬、ケイの頭の上に「?」が浮いたようだが、特に質問もせずに揺れる車内でも器用に装填作業を続ける。
ケイの「?」の理由は徹甲榴弾から徹甲弾に切り替えたからだろうな。
説明が面倒臭いからケイに今はしないが、徹甲弾ならば壁の向こう側にいる敵にも攻撃できるからだ。
徹甲榴弾は壁を貫通した後に爆発してしまうが、徹甲弾ならば壁を貫通した後も敵の戦車の装甲を貫通する可能性がある。
もちろん威力は落ちるんだけどね。
そしてやっとのことで狭い通路を抜け出した。
目の前にあるのは破壊したタイプ34が2両のみ。
いや、違う。右方向に逃げて行くタイプ34が2両。
「3時方向タイプ34が2両、右に旋回!」
エミリーが「ち~~ぃっ」とか言いながら車体を急激に旋回させる。
徹甲榴弾のままでも全然いけたみたいだな。
まあ、いいか。
そしてピタリと車体が止まった途端にケイの「装填OK」の声。
俺がミウに「いつでもいいぞ」との声を掛ける。
すると今度は魔法射撃は行わず通常射撃をするようで、車体の揺れが落ち着くのをミウは照準器を覗いたまま待っている。
「撃ちます!」
車体の揺れが治まったのか、ミウは自ら宣言してから75㎜砲を撃った。
砲弾は後続を走るタイプ34の側面に命中するも、残念ながら跳弾してしまう。
しかしその跳弾した砲弾が斜め前を走るタイプ34の転輪辺りに命中した。
すると転輪が外れ、その影響でキャタピラが切れて車体の制御が崩れた瞬間。
タイプ34の車体が90度回転して道路を塞ぐようにして止まった。
そこへ後続のタイプ34が突っ込んだ。
過酷な週が終わりました。
ここから少しだけ仕事も楽になりそうです。
ミリタリークラシックスという雑誌を買ってるんですが、今回はシャーマン戦車特集という事で色々とネタを仕入れたいと思います。
という事で次回もよろしくお願いします。




