18話 偵察
盗賊ゴブリンの拠点がある場所に近づいたところで、偵察を出す事になった。
主要な街道からはだいぶ離れている場所で、険しい山道を入って行った場所だ。道路は荒れていて狭い。
トラックにはちとキツイ道のため、思ったより時間が掛かってしまった。
偵察には3等級のハンターであるカト、ヤマイの2人が行ってくれることになった。
彼等は3人いる臨時の銀牙メンバーの内の2人だ。
2人とも身長が俺よりも10㎝近く高い175㎝以上はあるんじゃないだろうか。
年齢も22歳23歳と、ここにいるメンバーの中では唯一20才を超えている。彼等以外は全員が10代だ。
4等級や5等級のハンターは大抵が10代の若者で、3等級くらいから徐々に年齢が上がってくる。
中には10代で1等級ハンターという凄い奴もいるんだが、それはごく一部で別格と考えた方がいいだろうね。
車両は茂みに隠し、カトとヤマイが偵察に出発した。
俺達は見張りを立てて2人をひたすら待つ。
実は盗賊ゴブリンの拠点の場所というのがはっきりしていない。
前情報によると、山間部の小川の流れる側にあるらしいという事と、だいたいの場所だけしかわかっていない。
つまり後は自分達で探せという事だ。
なんとも大雑把な情報での討伐依頼だ。
盗賊の戦力もゴブリンが10~20匹くらいだろうとしか情報もないし、武器情報も銃を持っているって事しか知らされてない。
おかげでしばらく誰も見向きもしなかった依頼なのだが、今回少しだけ依頼料が上がった為、俺達3チームがこの依頼を引き受ける事になったという経緯だ。
2時間くらいして偵察の2人が戻った。
予想していた拠点場所にずばりあったらしい。
さすが3等級のハンターだ。
拠点には洞穴が3つあり、入口は木の板で塞がれている。
その内の1つは恐らく倉庫か何かでも一つが住居らしい。
3つ目の洞穴は分からなかったそうだ。
ゴブリンは12~16匹で、魔法を使える個体が少なくても2匹、ゴブリンリーダーが1匹いるということだ。
盗賊の拠点へ続く道路には見張りが2匹配置されていて、倒木でバリケードを作ってるらしい。
ここまではよくあるゴブリンの盗賊だ。
しかし通常のゴブリン盗賊とは大きく違う点、それが武装している内容だった。
偵察に行ったカトが神妙な表情で言う。
「ここからが本題みたいなもんだ。良く聞いてくれ。奴ら戦車を最低でも1両所持している。キャタピラの痕跡からそれ以外にもあと1両戦車があるとみて間違いない。つまり奴ら戦車を2両持っていやがるってことだ。もう1両の戦車は見つからなかったから恐らく出かけているんだと思う」
話を聞いている全員が絶句する。
ゴブリンが戦車を所持しているってことは、軍隊のゴブリンか傭兵の類しかない。
しかしこんな人属の支配地域にいるはずもない。
いや、もしかしたらゴブリン軍の生き残りが侵攻してきて、その先鋒の一部なのか。
色々と考えが錯綜する。
沈黙の中、カトが話を続ける。
「ゴブリンの戦車なんだが偽装してたんで良く見えなかったんだが、恐らくゴブリン製の軽戦車でソローリン戦車だ。すまんが武装までは確認できなかった」
ソローリン軽戦車とはゴブリン製の2人のり豆戦車だ。
連装機関銃装備型と20㎜機関砲装備型の2タイプ存在する。
銀牙リーダーのサキが「いい?」と言って手を上げて話し始める。
「軍隊だったら盗賊のようなまねはしないと思うわ。ゴブリンと言えども軍隊なら作戦行動をとるはずでしょ。でも奴らはだいぶ前からずっと盗賊行為ばかりしている。という事はつまり戦車はどこからか入手したって事じゃないかしら。それは奪ったのか、買ったのかは分からないけどね。だから結局は軍隊ゴブリンじゃなくて盗賊ゴブリンだと思うのよね。もしかしたら盗賊の何人かは、元ゴブリン軍だった個体もいるのかもしれないけどね」
俺がちょっと質問してみる。
「ハンター事務所に無線で状況を説明して依頼料の交渉したらどうかな」
するとサキが答える。
「ここじゃ無線が届かないのよね」
ちなみに俺達は無線を持っていないが、銀牙のトラックとシャークスの戦車には積んでいるらしい。
無線機は高額品だ。
金髪リーセントが意見を言う。
「なあ、やっちまおうぜ。まさかここまで来て退却とかはねえよな。俺は引かねえからな」
ちょっと悩むところだ。
リスクが大きい。その割に依頼料金が安い。
でも盗賊ならば戦利品というお宝に期待できる。
だいたい俺達も退却という選択はない。
無駄に時間を消費できるほど金銭的に余裕などないからね。
なんせ借金持ちのチームだからな。
サキが提案する。
「そうね、それなら多数決にしましょうか。このまま退却という意見に賛成の人は手を上げてもらえるかしら」
誰もいない。
「あら、全員意見は同じみたいね。それじゃあ作戦を立てるわよ」
これでゴブリンの拠点攻撃は全員一致で決定した。
恐らく激しい戦いとなるだろう。
もしかしたらこの中の何人かは生きて帰れないかもしれない。
ゴブリン相手と言えども全員が真剣な表情だ。
問題はゴブリンの戦車だ。
もう1両の戦車が戻る前に片を付けたいというのが全員一致の考えだ。
ソローリン軽戦車が1両だけなら何とかなる。
ただ、20㎜機関砲装備のタイプだと厄介だ。
20㎜クラスだと俺達のホーンラビットの装甲を撃ち抜けるだろうからね。
しかしこちらは戦車が2両でさらに奇襲をかけられる。こちらが有利なのは変わらない。
ソローリン戦車さえ抑えられればこっちの勝ちだ。
俺達はそれぞれの車両に乗り込み、戦闘準備を整えるのだった。
次回、ゴブリン盗賊拠点襲撃。
そしてついに戦車戦か?!
次話投稿は明日の予定です。
そうぞよろしくお願いします。