179話 オーク戦車を迎え撃て
「お、お待たせ。装填完了……」
改めて――
「ミウ、撃てっ!」
この1発で3両目のタイプ34の正面装甲をぶち抜き、そのまま正面から建物に突っ込んで停車した。
そして停車した敵戦車のハッチが開くと、生き残ったオーク戦車兵が逃げ出していく。
よし、撃破だ。
しかしⅢ突Gの75㎜砲は良い働きをしてくれるよな。
この75㎜砲があれば怖い物無しだな。
しかし安心したのもつかの間で、回り込んだ敵はそれだけではなかった。
タクの乗車する2号車から連絡が入る。
『こちら2号車、オーク歩兵らしき動きを確認。すでに街中に入られているようです』
その無線連絡とほぼ同時に俺の双眼鏡にも、オーク歩兵部隊が道路を進んでくるのが見えた。
街中で敵歩兵を戦車で相手するのはちょっと面倒臭いぞ。
高いところにいる歩兵ほど厄介なのはないし、建物の上から対戦車兵器なんか撃ち降ろされたりしたらたまったもんじゃない。
「ケイ、街に入った味方歩兵に掩護を要請できるか?」
俺の提案にケイが「一応やってみる」と言って無線を操作し始める。
暫く味方歩兵部隊の指揮官らしき人物と無線のやり取りをした後、ケイがやっと俺に向かって口を開いた。
「ケンちゃん、敵の歩兵は任せてくれって。でも負傷兵をかなり抱えているみたいで、あまり期待はしないでくれって言ってる」
それはしょうがない。
それでも援護がないよりましだ。
オークは人間を喰う。
それを味方歩兵達も知っているから必死で戦うだろう。
降伏は死を意味する。
猟兵部隊にも連絡を取りたいが彼らは無線を持ってない。
勝手にやってもらうしかないか。
「ケイ、右翼の戦車隊はどうなってる?」
ケイが忙しなく無線操作を続けながら返答する。
「次から次へと、私だってねぇ――あ、繋がった」
完全に俺とケイ小隊長の立場が逆転しちゃってる、すまんな。
多数の命が掛かっているからね。
ケイが無線で右翼戦車隊と連絡した内容によると、丘を回り込むように撤退中らしい。
2個小隊いたシーマン戦車が今や半数近くにまで減っているそうだ。
なんでそこまでやられるんだよと思うが、それは練度の問題なのかもしれない。
なんでも敵戦車は停車射撃と走行射撃を旨く繰り返して、確実にシーマン戦車の数を減らされらたんだと。
それで味方シーマン戦車は右往左往しているうちに各個撃破された流れらしい。
戦車学校での生徒や教官の力量を思い出し、ため息が出た。
でも敵タイプ34にも相当な被害が出ていて、一旦後方に下がってから街中へと入って行くのが見えたという。
それでこっちも今がチャンスと撤退中という訳か。
ただ、敵戦車の残存数は不明だそうだ。
右翼部隊が半数……さすがに掩護してくれとは言えないか。
最後にケイが付け加える様に言った。
「それとね、ボス中隊長が負傷したらしいよ。重症っぽいね」
マジか。
ちょっと心配だな。
そういえば幼女中隊長は右翼の戦車部隊の指揮をとっていたんだよな、忘れていた。
だけど今はそんな事より自分達の事だ。
俺は作戦前に貰ったこの街の地図を眺める。
よし、これでやってみるか。
「皆、作戦を伝えるから聞いてもらえるかな」
コの自型の建物があったので、そこの中庭に戦車を入れる。
そこ入って中庭入り口に戦車正面を向けていれば、少なくても側面からの敵戦車砲弾の受けることはない。
さらに建物の中に味方歩兵を入れて貰えば、敵歩兵の肉薄攻撃も防げる。
あらかじめ砲身を中庭入り口に向けておけば、勝手に敵戦車が現れてくれるという算段だ。
ケイに無線で作戦を連絡してもらい、さらに追加の指示を出す。
「それと本部に連絡。煙幕弾の要請だ」
ケイが不思議そうな顔をしながらも無線で連絡。
俺がその意味を説明しようとしたのだが、3号車が早速中庭の前を通りかかったタイプ34の側面に、75㎜砲弾をぶちかまし為に話が中断した。
「エミリー、中庭から出るぞ!」
エミリーは「え、いいの?」と言いながらもアクセルは全開だ。
暫くすると煙幕弾が多数街中へと撃ち込まれ、街中は徐々に白煙に飲み込まれていく。
「2号車と3号車に連絡。中庭に入って来た車両は全部敵だ。悩まずに撃てと伝えてくれ。それと俺達はこの煙幕の中を移動する。動くものはすべて敵しかいない。ミウ、躊躇しないで砲弾を撃ち込め」
俺の言葉にエミリーが生き生きとしてきたように見えるんだが。
大丈夫だよね?
「ケイ、走行音が聞こえたらリモート機関銃で前方を探り撃ちしてくれるか。それで金属らしきものに命中したらミウ、直ぐに砲弾を撃ち込め」
俺の説明で何となく俺がやりたいことがわかったのか、皆は黙って自分の役割に集中する。
視界は場所によっては10mもない。
煙幕の煙が溜まり安い場所とそうでない場所があるようだ。
だから速度は上げられず、エミリーが少し苛立っているのか、何かぶつぶつと独り言を言っている。
なんか怖いんですけど。
ミウは獣人の目と耳を使って周囲を警戒し、ケイもハッチから顔を出して周囲の警戒を怠らない。
皆、必死だ。
なんか不気味なほど周囲が静かだ。
Ⅲ突Gの走行音しか聞こえない。
その時、突然Ⅲ突Gが速度を上げた。
後ろに倒れそうになるのを必死に耐えながら疑問をぶつける。
「エミリー、どうした?!」
しかし答えは直ぐに判明した。
Ⅲ突Gがオーク歩兵を次から次へと蹂躙したからだ。
白い煙で薄れた視界の中で、オークの悲鳴が街の建物に反響する。
ぶ、不気味だ!
俺も拳銃で周囲のオーク歩兵を撃っていく。
「エミリー、この場所はダメだ。直ぐ移動だ」
オーク歩兵の真っただ中は、この煙幕の中だと逆に危険だ。
だが、速度を落さなければオーク歩兵は取り付くことが出来ない。
エミリーならそのへんは大丈夫。
エミリーが速度をさらに上げていく。
当然のことながら視界は煙に遮られているんだが、何故か道路から逸れることなく、建物に突っ込むことなくⅢ突Gはしっかりと道路を突進していく。
それに加えて、きっちりオーク歩兵を轢き潰しながらである。
「え、避けたのっ?!」
そう声を上げたのはケイだ。
建物の陰にいたオーク歩兵が投げた手榴弾をヒョイッとⅢ突Gが避けたのだ。
道路の誰もいない所で手榴弾の爆発が起こる。
ま、マジか……
さすがの俺も驚くよ。
ケイは口を開けたまま手榴弾の爆発を見つめている。
「走行音聞こえます!」
そう叫んだのはミウだ。
我に返ったケイが車体上面にあるリモート式の機関銃を前方に向かって撃ちまくる。
するとちょうと真正面で金属に命中したような「カンカン」という音と、やはり金属に命中したような火花がチカチカするのが見えた。
その時、俺が命令するよりも早くミウが砲弾を発射した。
砲弾は火花が散った辺りへと吸い込まれ、一段と大きな火花が散ったかと思った直後、それは直ぐに大きな火柱へと変わった。
「ケイ、次弾装填っ、急げ、急げっ!」
Ⅲ突Gの発射時の砲炎に砲弾を撃ち込んでくる奴もいるかもしれない。
市街地のような近接戦だと至近距離からの砲撃を喰らう事になる。
そうなると威力の弱いタイプ34の戦車砲でも命取りになる。
特にこのⅢ突Gは正面装甲は増加装甲で分厚くなってるけど、側面や後面はあまりいじってないからそんなに厚くはない。
喰らったら終わりだと考えないといけない。
「まだ近くにいるぞ!」
俺の叫ぶ声が響く。
エミリーの出番が最近少ないですが、次回辺りからちょっと増えるかも……
ただし書いている最中に予定していたストーリーと変わる事多し!
ちょっと時話投稿が間隔開くかもです。
次回もよろしくお願いします。




