167話 あの監視所を攻撃せよ
丘の麓に設置した攻撃隊本部は『角兎の巣』と命名。
その角兎の巣に1個分隊ほど残して全ての歩兵隊を投入、そしてK小隊の戦車4両を先頭に敵ゴブリンの監視所へと向かった。
戦車4両を盾代わりにして、その後ろに歩兵部隊が歩いて行く。
さほどきつくはない丘の傾斜だが、それでも長い上り坂は歩兵に負担がかかる。
それに遮蔽物となるものが何もなく、身を隠す場所といえば砲撃痕の窪みくらいだ。
そこへ敵ゴブリンからの攻撃が始まった。
機関銃の弾丸が戦車の前面装甲をカンカンと叩き、たまに近距離に着弾した迫撃砲の砲弾の破片が戦車の装甲を鳴らす。
それはまあ良い。
一番厄介なのは47㎜対戦車砲と対戦車ライフルらしい攻撃だ。
距離が離れているからそう簡単には当たらないし仮に命中したとしても、47㎜対戦車砲や対戦車ライフルくらいでは、シーマン戦車やⅢ突Gの前面装甲ば貫通しない。
当たり所によっては車内に何らかの被害が出ることもあるのだが、そんな事は滅多にある事じゃない。
それでも命中音が車内に鳴り響く度に身体が縮こまり、冷や汗が湧きだしてくる。
この恐怖心というか不安感は何度体験しても慣れることはない。
だが歩兵に比べたら俺達戦車兵は良い方だ。
外を歩く歩兵はその比ではない。
ハッチから顔を出して外を確認してみると、すでに負傷者が出ている。
やはり歩兵では無理があるか。
数にモノを言わせて被害ど返しで突撃すれば可能性はあるだろうが、今の俺達の戦力では到底無理だな。
そこで俺は直ぐにケイに報告した。
「ケイ、外の歩兵に被害が出てる。掩護射撃しようにも敵の火点の位置が砲撃で見えない。このままだと監視所に近づく前に歩兵が全滅しちまうぞ」
するとケイはさも当たり前の様に俺に言った。
「わかったわ。で、ケンちゃんはどうするつもりなのよ?」
俺に全フリかよ!
まあ、そうなる予想はしてたんだがね。
「ああ。歩兵を後退させろ。ここは戦車だけで火点を潰す。それである程度安全になったところで歩兵を投入して敵陣を占拠だ」
「了解よ」
ケイはそう言って無線で外の歩兵隊に指示を出し、他の戦車にも同様に伝える。
煙幕を張って突撃させる手もあるんだけど、距離があるからやはりそれなりに負傷者がでる。
突撃は悪い事だとは思わないけど、やはりここは後退させるのが最善だと思う。
少なくとも俺はそう判断した。
「ケイ、全車に伝えろ。これより敵陣へ突撃する。全速前進だ」
後ろ向きでエミリーの表情は見えないが、なんだかニヤリと不敵に笑った気がした。
そして俺の背中に冷たい汗が流れる。
俺達のⅢ突G戦車が真っ先に速度を上げると、俺達の戦車だけが突出していく。
他の3両のシーマン戦車との距離はグングンと離れていく。
俺は慌ててエミリーに声を掛ける。
「エミリー、他の戦車が付いてこれてないぞ。も少し速度を落とせっ」
するとエミリー。
「お兄ちゃん、何言ってるのよ? 固まってたら恰好の的になるでしょ。私達だけでもここから離れれば、砲煙で見えない視界からも離れられるじゃない。そしたらこの75㎜砲をお見舞いできるじゃないの」
う~ん、それもそうなんだが。
なんだかエミリーの吶喊したいだけの言い訳にしか聞こえないんだが。
「そ、そうだな。それも一理あるか。よし、砲煙がなくなるまで進んだら一旦停車して射撃を行うよ。頼むぞ、エミリー」
「任せてよ、お兄ちゃん!」
やけに嬉しそうだな!
実際、エミリーが言った通りとなった。
Ⅲ突Gだけだ突出したんだが、迫撃弾は俺達を追ってこない。
対戦車砲と対戦車ライフルだけが俺達の戦車を狙ってきた。
それなら敵の火点も確認できるし、どうせ貫通は出来ない。
それにこの車高の低いⅢ突Gは、そこらにある野砲の砲弾痕に入ってしまえば、それさえ遮蔽物として使えてしまう。
早速適当な砲弾痕の窪みに戦車を滑りこませて敵火点を狙う。
何回か車体方向を変えて、対戦車砲らしき砲炎が見えた場所へと砲身を向ける。
そしてミウに魔法射撃の指示を出した。
するとミウからの返答。
「ケン隊長。発砲炎は見えるんですけど、すぐ消えてしまうんで狙いを着けられません」
そうか、対象物が視認できないと魔法射撃はできないのだったな。
砲炎じゃダメか。
「そうか、ミウ。なら発砲炎辺りに通常射撃で榴弾を撃ち込む。距離600、射撃用意」
俺達はこの場所で3発ほど榴弾を撃ち込んだ後、他の戦車が追いついて来たのを確認してから再び前進を開始した。
ただ残念なのは敵の火点がどうなったか判らない事。
視認できないから撃破の確認もできない。
だから撃破かどうかの確認は、再び攻撃が始まるか否かという事でだ。
そして俺達が走り出して直ぐに、対戦車砲の砲撃が始まった。
破壊は出来なかったという事だ。
俺がキューポラから除いていると、その敵の対戦車砲の砲弾が曳光を引きながらこちらに飛んでくるのが見えた。
「あれれ、あの軌道やばいんじゃないの」とか思ってたら、俺達の戦車Ⅲ突Gの正面装甲に向かって敵砲弾が飛んできた。
「うわっ、避けろっ」
避けられるはずもないか。
激しい衝撃と鈍い金属同士がぶつかり合う音が車内に反響する。
もちろん砲弾は跳ね返したんだが忌々しさが心に残る。
なんといっても敵はゴブリンなのだ。
ゴブリンごときに一方的に攻められるなんて、俺のプライドに関わるし、俺達の軍人としての初陣を汚されたくない。
こんな所でつまずく訳にはいかないのだ。
「エミリー、全速前進。繰り返す、全速だ!」
その俺の言葉にケイとミウが戦評の表情に変わった。
そしてエミリーはというと、無言でアクセルをベタ踏みした。
俺の位置からエミリーは後ろ姿しか見えないのだが、その両肩が小ギザミに震えている――違う、完全に笑っていやがる!
急激な加速に後ろに身体が引っ張られる。
両手を車内で踏ん張って歯を食いしばる。
その時、俺のちょうど真横にいるケイも、椅子から転げ落ちそうになって咄嗟に腕を伸ばした。
「ふがっっぁあっ!!」
その手を着いたのが隣にいる俺の顔面だった。
しかも小指が俺の鼻の穴に……
「あ、ご、ごめん。急に速度上がるからぁ。こ、これは事故よ、そう事故なのよ」
確かにワザとじゃないとは思うがどうも釈然としない。
「ケンちゃん、鼻血……」
ケイが何か言ったようだがそれどころではなく、直ぐに次の命令を出す。
「徹甲榴弾装填、ふがっ、目標12時方向の監視所、距離500。ふがぁ、走行魔法射撃用意!」
やっと見えてきた敵の監視所への走行しながらの射撃だ。
「ふんがぁぁっ(うてっ)!」
俺の掛け声とともに、75㎜徹甲榴弾と鼻血が射出された。
今のところゴブリン軍の使用する武器は、WW2時のイタリア軍の武器が元ネタとなっています。
つまり47㎜対戦車砲はda 47/32が元ネタとなっています。
元々が歩兵砲なので対戦車能力もそれほど高くはありません。
とてもシャーマンやⅢ突G型に真正面から歯が立つモノではないですね。
せめて側面からでしょうか。
という事で次回もよろしくお願いします。




