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徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


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162/282

162話 戦車は空駆ける









 Ⅲ突Gが草むらの中、木々の間を縫うように走る。

 だが起伏が思った以上に激しいこの場所では、固定された長砲身の75㎜が邪魔をする。

 車高が低いために砲の位置も低く、これが草やつたに引っかかる。

 それを強引に進めば下手をすると砲身が歪んでしまう。

 普通に走る分には問題ないが高速走行にも限界がある。


 そんな時、ナミがまたしても教官達の無線を傍受。


『こちら5号車、奴を捉えた。今、奴と並行に走っている最中だ。あっちは砲塔がないからな、こっちに砲身は向けられまい。ふふふ、じっくり狙い撃ちしてやる。この先の平原に出たところで仕留めるぞ』

『6号車了解。俺の方からはお前の5号車が見えるが奴の突撃砲は見えない。だけどな、こっちへは逃がさないから安心しろ。そのかわり必ず仕留めろよ』

『任せろ、この距離なら外さねえよ!』


 マジか、気が付かなかったぜ。

 よく見れば車体の一部が草木の間から時々見え隠れする。


「エミリー、今の聞こえたな。この先の平原――」


 そこまで俺が言ったところで目の前の視界が急に広がる。

 

 そう、平原に出てしまったのだ。


 何故かその一区画だけが丸く野原状態。


 はい、丸見えでございます!


「止まれぇぇぇぇええええっ!!!!!」


 俺はありったけの声で叫ぶしかできない。

 右側にはロックアイ軽戦車、左側にはシーマン戦車が並走しながら砲身を俺達に向けていた。


 エミリーが叫びながら急停車を試みる。


「鬼いちゃん~~~、無理だからぁああああ!!」


 Ⅲ突Gは車体を90度左に回転させ、地面を横滑りしながら急激に速度を落とす。

 キャタピラが地面をこすり、土と一緒に草の葉が高く舞い上がる。

 その瞬間、左側にいたシーマン戦車の75㎜砲の砲口から閃光がはしる。


 終わった……

 折角ここまで来たのに……


 俺は一気に落胆した。

 

 しかし結果は違った。


 左側にいたシーマン戦車が放った模擬弾はⅢ突Gの横をすり抜けて、右側にいたロックアイ軽戦車の車体側面に命中した。

 同士討ちだけど、撃破は撃破だよな。

  

 エミリーの急制動が間に合ったようだ。

 正に間一髪。 

 車体を横向きにしなければ命中していたと思う。


 Ⅲ突Gは車体を横向きにしたまま停車。


 主砲の75㎜砲を外したシーマン戦車が、野原の切れ目ギリギリで急旋回を試みて、再度主砲をこちらに向けようと砲塔を回転させる。

 Ⅲ突Gの様に横滑りで車体の方向を変えようとした。


 だが無理だった。

 一瞬でキャタピラが外れてしまったからだ。


 これが出来るのはエミリーの操縦の腕前と足回りの改造のおかげだ。

 そこらの戦車と一緒にしてほしくはない。


 そんな無茶な動きをすればこうなるのだ。

 シーマン戦車はキャタピラが外れただけでなく、コロンと横向きに転がってしまったのである。

 今、俺達が見えるのは、シーマン戦車の底面装甲だ。

 

「なあ、なあ。あれって撃破になるのかな?」


 俺が言うとエミリー。


「一応撃っといたら、お兄ちゃん」


 そうか、んじゃ息の根止めておくか。


「エミリー、頼む」


 すると俺の一言でゆっくりと車体が時計回りに回転して、長砲身75㎜砲の向きがシーマン戦車にピタリと合わさる。


 するとミウが「いつでも撃てます」と伝えてくる。


「んじゃあ、撃て!」


 そういえば戦車の底面に砲弾を浴びせるなんて初めてだな。


 倒れてもなお、砲塔を旋回して何とかしようとしているシーマン戦車の底面に、とどめの黄色い塗料が花咲いた。

 教官のくせに往生際が悪いな。


 ラッキーな2両撃破を終え、再び俺達はゴールを目指す。


 そんな時、無線通信が入った。

 ナミの傍受ではなく、意図的に誰かが送信してきたようだ。


 その送信をナミが受け、ボリュームを上げて全員に聞かせてくれた。


『こちらゴップ中佐だ、モリス訓練生どうぞ』


 ゴップ中佐って言えば確か演習の時の赤軍の指揮官だったやつだ。

 俺が捕虜にした中佐だ。


 だけど、俺ご指名とか勘弁してくれよ。

 嫌な予感しかしない。


「はい、こちらケン・モリス訓練生ですが何っすか?」


『逃げるとは卑怯だぞ、我の戦車と一騎打ちしろ。まさか嫌だとは言うまい』


 でた、またこのパターンかよ。

 しょうがない。

 俺は渋々返答した。


「断るっ!」


『き、貴様ぁぁああ。貴様それでも軍人かあ!――ふべっ!!』


 突如意味不明の悲鳴?が無線に流れた。

 どうした?

 ちょっとだけ心配になって無線で話し掛ける。


「中佐? 大丈夫ですか?」


 するとしばらくして。


『ぶっはあ。だ、誰だあ。ぺっぺっ。こ、こんなところにバケツをぶら下げたのはぁあ!!!』


 もしかしてこの中佐は、美味しいところを狙ってないか?

 このタイミングでバケツトラップに引っかかるとはな。


 あの叫び方からだと、砲塔ハッチから顔を出していやがったな。

 そりゃあ顔面に当たれば相当痛いだろうなあ、バケツ……


 という事は黄色い塗料は中佐の顔面にかかったってことだから、戦車の砲塔にも掛かっているよな、きっと。

 上手くいけば撃破か、笑えるな。


 そしてゴールが見えてきた。

 

 あと200mほどだ。


 時計を見ると結構ギリギリだ。

 残り時間はあと3分。

 ゴールまでは平坦な直線路、そして最後に川に架かる橋さえ渡ればすぐゴールだ。

 これはいけるでしょ。


 ――と少し油断していた。


「後方100m、戦車出現、いや装甲車です。撃ってきます」


 脇道から入って来たのをナミが発見したのだ。


 幸いな事に砲弾は明後日の方向へと飛んでいく。

 かなりの速度で走っているのだ。

 そう簡単に照準は合わせられまい。

 

 俺が双眼鏡を使って確認すると、上半身が裸の老人が砲塔のハッチから乗り出しているのが見えた。

 その装甲車はモクモクと砂塵を舞い上げて猛スピードで追尾してきている。


 装甲車は徐々に速度を上げて追い上げてくる。

 グレイハンドという6輪装甲車のようだ。


 だけど、ハッチからか上半身を出す、あの裸の変態老人に見覚えがある。


「あれ、あのじいちゃんってゴップ中佐じゃねえか」


 俺がポロっと言うと、ナミも同意する。


「確かにそうですね。私も中佐は見たことありますが、あの変態そうな顔は間違いなくゴップ中佐ですね」


 という事は黄色い塗料はどうしたんだ?

 「ふべっ」とか「ぺっぺっ」とか言ってたじゃん。

 間違いなく塗料を被ったはずだろ。


 するとエミリー。


「黄色い塗料は魔法水で落ちるから隠し持ってたんじゃないの?」


 魔法水で洗い落したのか。

 だいたい、上半身が裸って塗料が着いたから脱いだんだろ。

 そこまでするか、普通?

 

 まあ、良い。

 このままゴールすれば俺達の勝ちだ。

 あの中佐に付き合う筋合いはない。


「エミリー、飛ばせ。あの橋を越えればゴールだ」


 エミリーが限界まで速度を上げる。

 しかし、引き離すどころかさらに距離が縮まっていく。


 そんな中、突如無線が入った。


『モリス訓練生、お前だけは卒業させぬ、こうしてやるっ』


 と言った次の瞬間。

 ゴール手前にあった橋が突如爆発、そして崩れ落ちた。


「お兄ちゃん、橋が、橋が無くなったよ。どうする、どうするの。回り道する?」


 エミリーが慌てている。

 このまま行けば川に落ちてしまう。

 普通であれば迂回するか渡河すれば良いのだが、俺達にはもうその時間さえなかった。


 俺は時計を見た。


 残り時間はあと1分を切っている。


 対岸までの距離は約10mといったところ、イチかバチかだな。


「エミリーっ、飛び越えろ~~~!」


「ええええええええええええええ!」


「みんな掴まれぇ」


 次の瞬間、Ⅲ突Gが空を飛んだ。

 

 


 






あと少しで戦車学校編は終わります。

それが終わったら戦場編へと物語は進む予定です。


ケイ、ソーヤ、タクの3人もそろそろ顔を出しそうです。






という事で、次回もどうぞよろしくお願い致します。


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― 新着の感想 ―
[一言] 〉だが起伏が思った以上に激しいこの場所では、固定された長砲身の75㎜が邪魔をする。 そういえば90式が地面に砲身擦ったこと気付かずに発砲して砲身破裂やらかしてましたね。映画並の高速機動でやら…
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