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徹甲弾装填完了、照準OK、妹よし!  作者: 犬尾剣聖


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160話 包囲





 ゴール近くまで来たにも関わらず、1番近くのトーチカを潰すために戦車の進路を変える。

 確かこの先だ。


「地図だとこの先のY字路にトーチカがあるはずだ。ちゃちゃっと攻略しちゃおうかね――」


 初めから場所がわかっているトーチカなど、戦車があれば何とでもなる。

 

「――あったぞ。停車してくれ。11時方向、距離400。意外と丁寧に偽装されてるけど、おしいな。もうひと工夫ほしかったな。ミウ、見えるか。岩の横の倒木のところ」


「あ、はい、見つけました。でも良くあんなの見つけましたね」


 結構本気モードで偽装されているけど、俺に言わせれば80点といったところ。

 昔、親父おやじにその辺は徹底的に教えられたからな。


「ミウ、この位置から魔法で銃眼を狙えるか?」


 険しい表情で照準器を覗くミウだったが、返ってきた言葉は


「ダメです、この距離じゃ多分トーチカの外壁に命中するだけです。トーチカの中は暗くて視認は無理かもですね。もしかしたらもっと近づいたら見えるかもしれませんが……」


 そうか、ダメか。

 照準器で視認できないと魔法照準は無理だからな。

 でもこれ以上近づくとなると、トーチカから丸見えの場所へ行かないといけない。

 もちろん、そんな危険な真似はできない。


 俺は良い方法はないか双眼鏡を覗きながら考えていると、ふと、トーチカの前にある倒木に目がいった。

 倒木の枝がいくつもトーチカに被って、偽装の役目をはたしている。

 枝が何本も倒木から出ていて、その内の何本かがトーチカの銃眼部分に被って隠蔽いんぺいしてる。

 もしかしたら、いけるかもしれん。


「ミウ、ここから銃眼に被る倒木の枝を狙えるか。もちろん魔法射撃でだけど?」


 すると不思議そうにミウが答える。


「枝なら葉っぱが茂ってて目立つんで、照準器でも見えるんで全然狙えますけど……」


「そうか、いいぞミウ。標的は銃眼に被さる枝、距離400、狙え……」


「は、はい。ま、魔法照準完了ですっ」


「よし、撃てっ!」


 模擬弾は実弾と違い発射の衝撃は少ないが、それでも車体が反動で揺さぶられる。

 しかし砲弾は狙い違わず標的とした枝に命中する。

 すると榴弾と同じ原理で作動する模擬弾は、枝に命中と同時に破裂した。

 枝に反応して破裂した模擬弾は、その後方に大量の黄色い塗料を巻き散らす。

 そう、枝の直ぐ後ろに隠れる様にある銃眼へと。


「命中、どうだ?!」


 俺は思わず声が出てしまう。

 さすがにトーチカの中までは観測できないので、破壊かどうかの判定は確認できない。


 そして砲隊鏡で観測していると、撃破を示す旗がトーチカに上に立てられた。


「よしトーチカ撃破っっ!!」


 車内で歓声が上がる。


 特にエミリーは「お兄ちゃん、すご~い!」と大喜びだ。


 な~んか、いい気分じゃねえの。


 模擬弾の特性がわかればトーチカなど怖いものなしだった。

 トーチカなど銃眼の中へ砲弾をぶち込まなくても良いのだ。

 銃眼の周りにさえ命中すれば、破裂した塗料は勝手に銃眼からトーチカ内部へと飛び散ってくれるのだ。

 その内のちょっとでも黄色い塗料が掛かれば、対戦車砲は破壊判定となる。

 楽勝じゃねえか。

 そうなるともはや魔法射撃の必要もない。


 そして最後のトーチカを撃破したところで、そろそろゴールへ行こうかと走り始めたところで俺達の悲劇は始まった。


「シーマン戦車、12時、距離700。これは避けるか。エミリー、10時方向にある窪みに移動してくれ、やり過ごす」


 しかし、完全に油断した。


 窪みに移動した途端、砲身が地面に沈んだ。

 いや違う、砲身だけが沈んだのではなく、車体の前部分が地面に沈んだのだ。

 車体がガクンと前のめりに落ち込み、ズブズブを沈んでいく。


「くそ、沼か? エミリー、下がれ、全力後退しろ」


 咄嗟に叫んだのだが、すでにエミリーはギアをバックに入れている。

 さすが我が妹だ。

 反応は早い。


 俺は上半身をハッチから乗り出して地面を覗き見ると、そこは見事に隠蔽いんぺいされた泥沼となっていた。

 つまりトラップだ。


 しかしキャタピラは空回転して泥を後方へ跳ね上げるばかりで、一向に抜け出せる様子がない。


 罠発見装置に反応しなかったという事は、魔法は使われていない上に爆薬の類も使われていない、つまり天然の沼と判断されたという事だ。

 高性能な装置だと発見できたかもしれないが、それは偵察車両が搭載するものだ。

 通常の戦車にはあまり搭載しない。

 

 しかし完全にやられた感が強い。

 そういえばこれ、障害物競争だったか。


 一刻も早く脱出しなければ。

 こんなところで敵に発見されれば、それこそ囲まれて教官達の一斉射撃という屈辱を味わうことになる。


「ナミ、模擬弾装填!」


 ナミは一瞬「え?」という表情をするが直ぐに模擬弾の装填を始める。

 そして「装填完了」の声。


 続いて俺はミウにも命令する。


「模擬弾発射用意、目標なし!」


「えっと、目標なしで撃つんですか?」


「そう、発射の反動を使う!」


「なるほど! あ、照準完了です」


「撃てっ」


 模擬弾は泥を大きく跳ね上げ、その時の発射の反動が車体を後方へと押し出す。

 その反動に合わせる様に、エミリーがエンジンの回転数を上げる。

 本来、砲身内に異物があるときに砲弾を発射すると色々と弊害があるんだが、そんなことを言っている場合ではない。

 

 発射の反動とエンジンパワーによって、車体は一気に沼地を脱出した。

 しかし喜んでいる余裕はなかった。

 敵の砲弾がどこからか飛んで来て、前方の木に命中した。


「やばいぞ、今の発射音で居場所がバレたみたいだ。ナミ、砲弾装填。エミリー、2時方向に旋回と車体修正頼む。ミウは魔法照準、自由に撃っていいぞ」


 ナミの「装填完了」の合図と同時に、ミウが俺の命令を待たずに発射レバーを引いた。

 ミウが発射したという事は敵戦車を視界に捉えたという事。

 となれば魔法射撃は外さない。

 初弾で敵戦車の砲塔の中央に命中して、黄色い塗料で染め上げた。

 

「命中!」


 あっという間に撃破判定でフラッグが上がる。

 だが、撃破したのはこの学校のロックアイ戦車だった。

 先ほど発見したシーマン戦車ではない。


 その時、なんか唐突に嫌な気配を感じた。

 ここにいてはいけないような。


「エミリー、9時方向へ退避」


 Ⅲ突Gが走り出して数秒後、砲弾の空を切る音が頭上を通り過ぎた。


「3時方向から敵砲弾。エミリー、もっと飛ばせっ」


 エンジンが悲鳴を上げる。


 そして再び砲弾が頭上を通り過ぎる。

 この風切り音は75㎜クラスの砲弾、つまりいシーマン戦車か。

 遂に出て来やがったか。

 出来るだけ戦闘は避けてゴールっていう目標だったんだけど、初めから俺達にはそんな目標は無理だったという事だ。


 シーマン戦車は、ここの学校のレベルとは違う。

 たまたま後方待機していたところを駆り出された、死地を潜り抜けてきた真の戦士達だ。


 「お遊びはここまでだ」とか聞こえてきそうだ。


 すると今度は逃げている方角に発砲煙が見えた。


「11時方向に発砲煙、距離500。こっちはダメだ。エミリー、180度旋回して後ろに進路!」


「だ~か~ら~、この速度で旋回とか無理ぃ~」


 などとエミリーはボヤキながらも見事に戦車の方向を変え、さらに速度を上げていく。

 

 ん?

 何か動いた?


「エミリー! 緊急停車っ!」


「お兄ちゃ~~~~~んっ!!」


 車体を半回転させながら車体側面を木に激突させ、Ⅲ突Gは恐ろしく少ない制動距離で停車した。

 さすがエミリー。


「いてててて……」

 

 だけど、その衝撃は車内の乗員全員がすっころぶという被害を被った。


「いったいなあ、もう。お兄ちゃん、だから急には――」


 エミリーが文句を言い掛けるが俺はそれをさえぎる。


「敵が見えたんだよ。シーマン戦車だ。これはどうやら囲まれたみたいだな」


 囲まれたのも偶然じゃないんだろうな。

 無線を活用してお互い連携して動いてるんだろう。


 しかも俺達は敵の位置がほとんどわからない。

 だけど、今俺達がいるここへ砲弾を撃ち込んでこないという事は、敵もこっちの位置が正確にはわかってないという事だろう。


 となればまだチャンスはある。



 






 さて、囲まれてしまった主人公。

 次回、この窮地から脱出するための秘策を思いつくケンちゃんだが……




 と、次回予告的な事を書いてますが、実は次話まだ1文字も書いてなかったりします。







 という事で次回もよろしくお願いします。




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