157話 呼び出し
「き、君がケン・モリス君だよね」
と、講義が終わっての空き時間に突然俺に話し掛けてきた男。
見るからにヒョロヒョロで弱々しく、如何にも使いパシリのような風貌だ。
俺が「何か用か?」と聞くと伝言があると言ってきた。
「えっと、今日の消灯後に兵舎裏に来てくれと先輩訓練生が言ってます。そ、それだけです、すいません!」
そう言うと逃げる様にいなくなった。
はい、あの有名な『校舎裏来い』です。
どうしたものか。
行かないと闇討ちがありそうだし、行けば大人数で取り囲まれて袋叩きだ。
同じ隊の仲間に助けを乞えばきっと来てくれると思うが、そうなると大ごととなって直ぐにバレて懲罰房行きだろう。
出来れば教官にバレない様に終わらせたい。
銃などの武器は当然使えない。
武器がさえあれば得意の近接戦闘で、この学校程度の訓練生など片っ端から戦闘不能にしてやるんだが。
ただし、元ハンターでなければだが。
そこで俺は考えた。
結局その日の消灯後に、こっそりと1人兵舎から抜け出して、先輩訓練生たちの兵舎裏に行ってやった。
俺が兵舎裏に到着すると、そこにはすでに人影がある。
全部で3人。
背が高く首にタトゥーを入れた男、ガッチリとした体格の筋肉ムキムキ男、そして背の低い華奢な男。
タトゥーの男と筋肉君はまあ良い。
しかし背の低い男はあまりにも華奢な身体の上、小学生くらいにしか見えない。
こんな子供も徴兵しなきゃいけないほど兵士不足なんだろうか。
ただ、この華奢な男、なんか偉そうにしてやがる。
俺が近づくのだが誰も気が付かない。
そこで声を掛ける。
「どうも、お待たせっす。で、なんか用っすか先輩方」
俺が先に声を掛けると、そのうちの首にタトゥーを入れてる男がビクリとして飛び上がった。
突然現れた俺に驚いたようだ。
「い、いきなり驚かせるんじゃねえよ、このタコ!」
あ、こいつはきっと雑魚だ。
このビビりようは雑魚に違いない。
「で、俺を呼び出したのは先輩たちという事で間違いないっすか」
すると背の低い偉そうな奴が1歩前へと出てしゃべり出す。
こいつがどうやらボスらしいな。
「ああ、そうだよ。モリスとか言ったかな。君はちょっとこの学校で目立ちすぎるんだよね。それに先輩に対して敬意が見えてこないんだよ。今後は行動を改めるっていうなら許してやんないでもないよ。そうだね、現金で――」
「断る!」
「――へ? まだ何も言ってないよ。ちゃんと――」
「だーかーらー、もう、時間がもったいないから早いとこ終わらそうぜ。かかって来いよ」
ボス君はびっくりして言葉が出てこないらしい。
代わりに先ほどのタトゥーを入れてる雑魚が、腰のベルトに挟んでいた木製の警棒みたいなものを勢いよく抜き出し、俺の前へとしゃしゃり出てきた。
「てめえ、そんなでけえ口叩けるのも今のうちだっ」
タトゥー男は警棒を頭上高く振りかぶる。
もちろん狙いは俺だ。
しかし俺は慌てず腰に挟んでいたモノを素早く取り出してタトゥー男に向けた。
一瞬何を向けられたのか分からずビビって後ずさりするタトゥー男だが、俺が握っているモノを凝視すると表情が変わった。
「ビ、ビビらせるんじゃねえよ。拳銃かと思ったら、ただの木片じゃねえかっ」
そうなのだ。
俺が取り出したのは拳銃の形に削り出した木片だ。
しかし俺はこれがあれば問題ない。
「それじゃあ、ビビってないで来いよ」
「こ、この野郎がぁああ」
再びタトゥー男が振りかぶった。
しかし奴が警棒を振り下ろす前に俺は一気に間合いを詰めて、懐内へと姿勢を低くして入り込んだ。
そしてくるりと回転しながらその脇を抜ける。
「おうっととっと……」
急に間合いを外されたタトゥー男は、バランスを崩して片足で地面を蹴りながら前のめりとなる。
「大振りは良くないよ。それと相手の力量も見れないと戦場では生き残れない、よっと!」
俺は手に握った“木製拳銃”のグリップ部分をタトゥー男の後頭部へ振り下ろした。
「はうぇっ」
嗚咽を上げてタトゥー男はうつ伏せで地面へと倒れ、そのまま気を失った。
木銃の授業で分かったんだが、実銃でなくても何かそれらしいモノを持っていれば、俺は近接戦闘術が使えるようだ。
「さて、次は誰かな。それとも2人一緒にかかって来る?」
するとボス君がナイフを取り出すのががチラリと見えた。
しかし先に攻撃を仕掛けてきたのは筋肉君だった。
「いてかましたらあぁぁぁああああ!」
全く、さっきの俺の話を聞いてなかったのかよ。
こいつはゴブリン並みの知能なのか。
相手の力量を見るんだよ!
俺はひょいっと横に身体を捻ると、そいつはそのまま真っすぐに突進して、正面に植えてある木に激突する。
驚いたことにその30㎝ほどの太さの木がいとも簡単にへし折れた。
筋肉君は木をへし折った後でも何事もなかったかのように振り向いて、苛々(いらいら)した口調で言った。
「ちょこまかと逃げやがって!」
ちょっとやばいな。
ゴブリン並みの知能かと思ったら、パワーだけはゴブリン以上じゃねえか。
あたったら死ぬな。
そして再び俺に向かってタックル状態で突っ込んでくる。
だけど動きが単純すぎるんだよね。
今度は馬跳びの要領でそいつを飛び越え、その時に後頭部へ木製拳銃を叩きこむ。
「いってぇ~な~」
意外とこいつは頑丈だな。
それなら。
筋肉君は後頭部をさすりながら振り向いた。
その瞬間、そいつの顎に木製拳銃を全力で叩きこむ。
「ふぎゅっ」
すると一瞬で白目をむいて崩れる様に倒れた。
今度は効いたようだ。
さすがに顎に衝撃を喰らって脳が揺さぶられては立ってはいられまい。
やば、木製拳銃が今ので割れちまったじゃねえか!
ピンチ!!
残すは背の低いボス君。
俺より低い身長に小学生のような見た目にちょっと気が引ける。
そんなボス君はナイフを両手で握り、俺の方へ向けてしゃべり出す。
「す、すぐにここから立ち去れば許す。は、早く立ち去れっ」
あれ、もしかして弱い奴?
大体ナイフを両手で持つとか、素人丸出しじゃねえか。
これだったらいけるんじゃねえの?
一応警戒はしながらゆっくりとボス少年に近づく。
あ、震えてやがる。
そうだ、素手での格闘術の授業で習ったやつやってみるか。
相手の手首を捻って武器を奪う方法だ。
確かこんな感じで……
「え?」
成功だ。
なんかボス君は何があったか理解できずに、声を上げた口が開きっ放しだ。
しかし初めてやったんだが意外と出来るな。
よし、もう一回やっとくか。
俺は奪ったナイフを再びボス君に握らせる。
「え、何を……」
「ああ、もう一回やるからしっかり持ってろよ――ほれっ」
「うわっ?」
大成功。
俺はこの後にも何回か練習した。
お陰て少し上達した感じだ。
礼くらい言っとくか。
「いやあ、良い練習になったよ。ありがとね、じゃあ」
そして俺は兵舎へと戻って行ったのだった。
あれ、俺は何しに行ってたんだっけ?
翌日、昼食時間にボス君とその取り巻きに会ったんだが、俺を見ると何故か逃げる様にして食堂の隅っこに行ってしまい、しばらくすると首にタトゥーの男が俺のところに来て言った。
「失礼しまっす。これ、今日のモリスさんの昼食っす」
差し出されたのは俺達訓練生が食べるような食事ではなく、明らかに士官候補生が食べるような豪勢な食事だった。
どこでくすねて来たんだろうか。
それ以来、食事の都度、俺専用の豪勢な食事が届けられるようになった。
あれ、もしかして俺って番長なのか?
そして今日も楽しい学園生活は過ぎていくのだった。
主人公の学園生活での日常風景のお話でした。
さて、次回は主人公の取り巻きメンバーがやっと登場します。
という事で次回もよろしくお願いします。




