154話 偵察任務
演習場へと入って行きしばらくすると、俺達の小隊だけが本隊と別れて先行し始める。
小隊長の無線連絡によると偵察任務らしいのだが、そんなの偵察部隊にやらせろよとか思うのだが、よく考えたらこのロックアイ戦車は戦場では偵察任務に使われるって誰かが言ってたな。
それならしょうがない。
偵察、しましょうか。
そしてしばらく先行したところでさらに二手に分かれることになった。
4両編成の小隊なので2両ずつだ。
小隊長の指揮する部隊をA隊としてもう一つをB隊として、B隊は俺が指揮しろとの命令だ。
俺でいいの?
隊長達〈教官達でもある〉には嫌われてるんだけど大丈夫なのかと思ったんだが、この演習は教官達の成績にも直結するらしく、いたって真面目な選択で俺を選んだようだ。
まあ、俺にしたらどうでもいいんだけどな。
そして小隊長のA隊と俺のB隊は、森の中で左右に分かれて行った。
小隊長曰く「恐らくこの先3㎞も行けば敵が見えてくる。だが敵の偵察隊には気を付けろ」との事だが。
そこでどのくらいの部隊をこっちに向かわせているのか偵察して、本体に連絡しろということだ。
何度も同じような演習をしているから、大体の進行方向や戦術はお互いが知り尽くしている。
だから敵がいることは解かっているので、どのくらいの規模かだけわかればそれでいいらしい。
その部隊規模によって、数パターンある戦術が予測付くんだと。
な~んだ、それじゃあ余計につまらん。
敵の攻め方もわかっていて、なおかつ実弾ではなく模擬弾ときた。
これでは全くつまらん。
「よし、ここは俺が人肌脱いでやるか」
俺がぼそっと言ったこの一言に、車内の乗員が怪訝そうな表情で俺を見る。
装填手、名前はショーとか言ったかな、そいつが「「おい、何をしようってんだよ」と突っかかって来るんで言ってやった。
「実戦というのはな、予想が付かないから緊張感があるんだよ。それを今から俺が披露してあげようかなってな」
「は? 具体的には何をするんだよ」
「まあ、俺の言われた通りにしてくれ。ちゃんと任務通り偵察してやるさ。操縦手、そこの小さな川に沿って進んでくれ。全員警戒は怠るなよ。無線手、3号車に付いてくるように伝えてくれ」
こうして俺は命令通りに偵察任務に入った。
そう、強行偵察に。
3㎞ほど進むと小隊長の言った通り敵軍が見えた。
敵は車体に赤色の識別ペイントや旗を掲げている。
俺達は青軍なのに対して敵は赤軍なので、その識別のために車体に赤いラインや赤い旗を付けているという訳だ。
どうやらこっちの敵は中隊規模らしいから本隊ではないみたいだな。
双眼鏡で眺めているのだが、明らかに練度が低いのは丸わかりだ。
部隊の足並みが全然揃っていない。
一応だが、指揮官らしい人物が手を振り回して命令しているのだが、戦車の動きがバラバラ過ぎて可哀そうなくらい。
随伴する歩兵部隊もキョロキョロしているばかりだ。
そっとしておいてやろう。
「操縦手、ここはスルーしてさらに川沿いを進んでくれ」
すると操縦手のショー。
「でも戦車長、この先は敵の真っただ中だけど……」
元ハンターの操縦手くらいだな、こういった心配をしてくれるのは。
他の乗員は素人だから俺の言われるがままのようだし。
「あれを見ろよ。あの部隊は本隊じゃないだろ。それにあんな酷い部隊の偵察報告しても意味ないだろうに」
「まあ、そうなんだがな」
操縦手のショーはそれ以上は何も言わずに、俺の指示に従って戦車を走らせた。
聞き分けが良くて素晴らしいな。
俺達の乗るタイプ2ロックアイ軽戦車の2両は、敵陣の中を慎重にかつ大胆に進んでいく。
幅3mほどの小さな川なのだが若干窪んでいる為、車体が半分ほど隠れられて中々都合が良い。
水深は30㎝もない本当に小さな川だが戦車ならば走行に支障はない。
これなら目立たない、敵に見つかりにくいという事。
川沿いを進む事10分で右方向からキャタピラ音が多数聞こえてきた。
俺は3号車をその場に待機させて、俺達の戦車は川から這い出して音のする方向へと向かった。
しばらくして小高い丘の頂上に来たところでそれを見つけた。
赤軍の本隊の集結している場所だ。
先頭に戦車部隊、その後ろに歩兵を満載したトラック群と補給部隊。
そのはるか後方の丘の上には司令部らしきテントと数台の車両が見える。
乗員達も「すげ~、敵陣が丸見えじゃねえかよ」とか、「見つからずにここまで来たのかよ、俺達」とか、「よくここまで来れたよな」などと言っている。
まあ、俺にしてみればよくあんな目立つ場所に司令部を置いたと思うんだが。
他の乗員はそういった事は考えないらしい。
まあ、いいけど。
だけどさ、こんな練度の低い部隊を前線に出してたら勝てる戦争も負けちゃうだろ。
いや部隊の問題ではなくて、指揮官の質の問題か。
しかしこの状態であと数か月もすればこいつらは卒業とか、それでも良いのだろうか。
俺は車内へと入り、乗車員全員に命令を下す。
「今から強行偵察を実施する。赤軍は素人らしいから俺達で教育してやろうかと思うんだが、意見のある奴はいるか?」
すると元ハンターであり操縦手のショーが本音をポロリ。
「戦車学校なんか退屈な場所とか思ってたけどさ、なんか面白くなってきたじゃないの。いいね、俺達で教育してやるかっ」
ノリノリだな。
それを聞いた他の乗員も「おっもしれぇ、お祭りみたいだな」などと言い始めている。
無線で3号車にも知らせたんだが、そちらも何かノリノリでついて来るらしい。
それで3号車と合流し、さらに川沿いを進んで敵陣営の真っただ中を進んでいく。
「止まれ。下車して様子を見てくる。そうだな、俺1人で行ってくるからこの場で待機な」
恐らくこの先に敵の司令部のテントがあるはずなのだ。
俺は1人偵察に出ることにした。
誰か連れて行こうかとも思ったんだが、素人集団なので足を引っ張る奴が出る可能性が歪めないので、だったら1人の方が気が楽だと思っての行動だ。
操縦手のショーは唯一任せられる人物と考えて、連れて行くよりも残った車両の指揮をやってもらった方が良いと判断した。
1時間ほど歩いた後、森の切れ目から人影が見えだした。
赤軍の司令部だ。
驚いたことにテントの周りを誰も警戒してない。
いや、一応歩哨は立っているらしいが何も警戒していない。
ただ立っているだけ。
早く交代の時間が来ないかと、しきりに時計を気にしている有様だ。
こんなんじゃ奇襲をしてくださいと言ってるようなもんだ。
演習ってこんなんでいいの?
いや、待て。
これはきっと罠に違いない。
いくら何でもこんなに手薄にしてるはずがない。
仮にも戦車学校なのだ。
未来の兵士相手の学校がこんなに貧弱な陣形を見せるはずがない。
危ない、危ない。
俺としたことが、危なく騙されて油断するところだった。
ここは気を引き締めて手を抜かずに全力で当たろう。
教官の中には実戦経験のある人物も沢山いるって誰かが言ってたしな。
俺はある程度の偵察をした後、ショー達のいるロックアイ戦車の所に戻り、早速全員を集めて俺が見てきた事を話した。
「それで偵察してわかったんだけど、なんか罠を仕掛けているかもしれない。周囲の警戒はほぼゼロだし、歩哨も全く機能してない。まるで襲ってくださいと言ってるような感じだったんだよ。そうだな、例えるならゴブリンの司令部を見るような感じと言ったらいいかな」
するとショーがポツリと言った。
「そんなもんじゃないか。その程度のもんじゃないかと思うんだけど、この学校」
俺はハッとした。
もしかして教官を含めて学校自体のレベルが低いと言う事なのか。
ハンターとして実戦経験した俺からしたら、戦車学校なんてこんなもんなのか?
軽いショックを覚えるが、それ以上になんだか腹立たしく感じる。
その感情がどこから来るのかもよくわからんが、言いようのない怒りが込み上げてくるのだ。
俺は声を荒げた。
「全員乗車っ、これより敵司令部を強襲するっ。急げっっ!!」
全員が待ってましたとばかりに、嬉しそうにロックアイ軽戦車に乗車していくのだった。
ちょっと仕事がハードになってきてまた投稿遅れるかもです。
ロックアイ軽戦車ですがWW2時のアメリカのM2A4軽戦車がモデルです。
ロックアイランド工廠で開発されました。
という事で次回もよろしくお願いします。




