152話 銃殺刑確定か?
イケメン爆せろのアーク大尉を大いに利用して、軍への入隊に関して色々と調べ上げた。
もちろんエミリーが喜んで担当してくれた。
というよりもエミリーはそれしか仕事をしなかったのだが。
まず、ゴブリンは奴隷でもやっぱり軍内への連れ込みは駄目だった。
味方の勘違いによる事故や敵種族への憎悪によるトラブルは避けたいと。
まあ、そうなるよな。
それと戦車4両と貴族3人と平民4人が入隊する場合、つまり俺達の入隊なのだが、通常は貴族は士官待遇での入隊となるので、タク、ソーヤ、ケイが同時入隊となると全員が士官クラスとなって同じ部隊にはなれないという。
戦車4両の規模だと小隊となって士官は小隊長の1人だけらしいのだ。
15両の戦車を持っていけば中隊規模として任されるので、中隊長1人と小隊長3人の合計4人の士官が必要になるんだが、戦車15両はさすがに無理がある。
早い話、持ち込んだ戦車の数で決まってしまうんだと。
かといってブレタン戦車みたいな貧弱戦車を持ち込んで数を増やすのは気が引けるのだ。
しかし、逃げ道はあった。
それは3人の爵位に差があるそうなのでそれを利用すればできるらしい。
タクとソーヤは貴族といっても爵位では一番低い士爵なので、軍曹や曹長などの下士官扱いでも可能であり、その場合は分隊長という役職でケイの小隊に配属できるとのことだ。
戦車を4両持ち込めば小隊を形成できるということは、ケイが小隊長となって残りの3両の戦車の戦車長が分隊長となる。
しかしタクとソーヤは士爵といっても大企業の御曹司であるので、社会的な身分というものが考慮されて、士官学校を経て普通は少尉で部隊配属される。
だが、本人達さえ良ければ士官学校を卒業した後、士官階級ではなく下士官の階級から始めることが出来るそうだ。
階級は上げられないが下げることは出来るんだと。
ただしそんな奴は見たことがないとアーク大尉は言ってた。
下士官と士官では軍隊内での待遇が大きく違うからだ。
そんな事するくらいなら士官で入って小隊を受け持ち、同じ軍隊内で仲良くやっていった方が良いと思うのが普通だろう。
それを彼らに言ったら「下士官からでお願いします」と即答しやがった。
頭おかしいんじゃね?
それから戦車4両を持ち込んだ場合であるが、アーク大尉曰く「ケイの小隊の下にその戦車4両が配属という形で、足りない乗員は軍が適切に配置するだろう」と言っていた。
我が軍の戦車1個小隊は4両編成なのだ。
ただし、人員に関しては多少は選ぶ権利を貰えるそうだ。
例えば軍隊内の知り合いを呼び寄せるとかなんだが、それは最初の創設時だけだ。
でもそもそも軍隊内で俺に知り合いなどいねえから。
ちなみにブレタン戦車とスポンジ戦車を持ち込めばもう1個小隊出来るんだが、その戦車で誰が戦場へ出ようと思うのかと。
仲間の無念な死など見たくないからな。
こうして俺達は入隊への覚悟を決めるのだった。
そして入隊までの期間は戦車の改装に力を入れた。
3型突撃砲は今度こそちゃんとした長砲身75㎜砲へと換装し、キュウポラと呼ばれる監視窓やベンチレーター、闇ルートで手に入れた高性能な照準器。
足回りなども入念な整備や細かい改造。
シーマン戦車も改造や整備をしたのだが、76㎜砲装備のシーマン戦車はまあ良い。
だけどそれ以外のシーマン戦車2両が若干威力が劣る75㎜砲装備だった為、なんとか76㎜砲に換装させようと探し回ったんだが、軍でも欲しがっているらしく見つけることが出来なかった。
その代わりと言ってはなんだけど、12.7㎜重機関銃を見つけてきて砲塔の上に取り付けた。
もちろん3両ともにだ。
これがあれば軽装甲車両の装甲くらいいならばぶち抜ける。
やれることはすべてやったと思う。
なんせ軍隊など初めての経験なのだ。
そして、とうとう入隊の日がやってきた。
エミリー、ミウ、そして俺の3人は陸軍戦車学校へ、ケイ、タク、ソーヤの3人は同じ戦車学校でも士官科コースへと入る。
俺達の場合、ハンターでの実戦経験があることから、短縮過程を進む。
基礎的な内容は省かれたという体裁なのだが、実際は最前線での戦況がひっ迫していて、少しでも早く戦力が欲しいということらしい。
学校の門までは士官課程もただの兵も一緒なのだが、受付らしきところを見るとその差はハッキリと感じられる。
士官と一般兵の差は金持ちと貧民の格差そのものに見えた。
受付のすぐ後ろに建ち並ぶ建物の質がそれを物語っていた。
「まあいいんだけどね。そういうのには練れてるからな……」
諦めに近い言葉を口にしながら、俺とエミリーとミウの3人はみすぼらしい造りの受付で手続きを済ませるのだった。
手続きが終わると直ぐに男女別々に分けられてしまい、周りは誰も知らない者ばかりで俺は少し不安を感じてしまった。
宿舎と言われる小屋へ行くと、沢山の2段ベットが置かれた部屋にたどり着く。
その部屋にいる者達はすべて、この学校を卒業するまで同じ中隊の仲間となるらしい。
その数60名ほど。
基礎訓練は短縮とかで4週間で終了という話だ。
基礎訓練の中には戦車乗りの養成所なのに歩兵の様な訓練もあった。
小銃射撃や格闘戦だ。
座学はまともに字が読めない事もあって悲惨な状態だったけど、体を動かす訓練は俺にとっては片手間に出来るレベルだ。
「――という事だ。それでは今から2人組に分かれろ。組み手をやってもらう」
という銃剣術の教官の指示で、直ぐ近くの者同士が次々と2人組になっていく。
さて、俺は誰と組もうかな。
お、あいつが弱そうで……あ、盗られた。
ならこいつに……ああ、遅かったか。
などとやっていたらいつの間にかに俺は1人になっていた。
すると教官と目が合う。
「よし、そこのボッチは俺が組んでやる。こっちへ来い」
ボッチ呼ばわりはやめてくれ。
ちょっとこたえる。
だけど教官と組むんかよ。
マジ勘弁なんですけど。
そう思ってもどうにもならない。
渋々と俺は教官の元へと行く。
教官は「組み手はじめっ」と言っていきなり俺に銃の形をした木銃で突きを浴びせてきた。
「うおっと」
俺はそれを寸でのところで躱してみせると、驚いた表情で教官が言った。
「なんだ、経験者か?」
「はい、元ハンターですのでこれくらいは」
「そうか、それなら手加減しないからな。本気で来いっ」
「え? 本気出していいんですか?」
俺の言葉が教官をバカにしたように聞こえたらしく、急に真剣な顔で「やれるもんなら、やってみろっ」とか言いながら木銃を振り回してきた。
教官というぐらいだからその本気の攻撃は凄まじかった。
実戦慣れしているらしく、ちょいちょい憎らしいほどのフェイントを入れてくるのだ。
1歩進んで間合いを詰めてくるのかと思ったら、それは俺の足を踏みつけにきた行為だったり、試合というよりも完全に実戦形式の戦い方だ。
でもね、俺にしたらぬるいんだよ。
こっちは1人で複数の敵のど真ん中に突撃したこともあるんだよ。
その程度の腕じゃねえ。
教官っていう位だからもうちょっと強いかと、少しビビっちゃったじゃないの。
「まあ、このくらいなら」
ボソリとつぶやきながら俺は教官の手首を銃床部分で打ち払い、続けて大きく右足を振り上げた。
すると教官が持っていた木銃がクルクルと回転しながら空高く舞い上がった。
なぜか組み手中のはずの周りの新兵の動きが止まっていて、俺の方に視線が集まっている。
やばい、やらかしたか!
教官に視線を持って行くと、その表情が見る見る鬼の形相へと変貌していく。
俺の脳内であらゆる状況判断と対策が渦を巻く。
そして俺の脳が取った行動は。
「ま、参りました!」
俺は木銃を地面へと投げ捨てて降参のポーズを取ったのだ。
「ふ、ふざけるなぁああああああっ」
やっぱ、そうなるよな。
対応ミスったなこりゃ。
教官は回し蹴りを繰り出す。
俺は空中に舞った教官の木銃をキャッチし、その蹴りへ銃床を打ち込んだ。
「ぐあっ」
あ、痛かったかも。
今更だが手加減できなかった。
教官が足を抱えて倒れ込む。
これは完全に懲罰房行きだ。
下手したら懲罰大隊送りもありえる。
俺の人生終わったかも。
気が付けば他の教官達も集まっている。
俺は覚悟を決めて両ひざを地面に着けて後頭部に両手を回した。
無抵抗のポーズだ。
すると周りに集まっていた教官の1人が声を掛けてきた。
「おい、そこの新兵。何やっておるんじゃ。お前の勝ちじゃぞ。ここは戦場じゃない、なんてポーズしてんのじゃ。ほら、立て。おい、誰かこいつを医務室へ運んどくれ」
足を抱えて苦しんでいる教官は、近くにいた新兵2人に抱えられて遠ざかって行く。
改めて声の主の方へ視線を移すと、滅多に見れない階級章が目に入る。
げっ、少将じゃねえかよ。
ってことはだ。
教官なんかじゃい、この学校の校長じゃないの!
チーン
銃殺刑確定。
戦車学校でのエピソードが少し続きます。
筆が進み始めましたw
掛ける時に書きたいんですが時間がなくて……
という訳で次回もよろしくお願いします。




