151話 戦利品戦車
シャークス対ドランキーラビッツのリーダー対決で勝利した俺は、一躍有名闘技者になった。
それというのも複数のカメラによる中継があったからだ。
闘技場のメインモニターには、必死の形相の俺の顔がドアップで映し出されたそうだ。
もちろん顔面に信号弾を受けた金髪リーゼントもデカデカと映し出されたらしい。
街中を歩けば声を掛けられる有様。
まあ、この街限定の有名人だけどね。
あの決闘の後、金髪リーゼントは仲間にポーションをぶっかけられて、かろうじて命は取り留めた。
しかし鼻はもげたまま戻らなかったそうだ。
ちょっと可哀そうな気もするが、命があるだけめっけもんだと思ってほしい。
銃を使っての決闘だったんだから。
そして俺達は賭けの勝利のひとつである、試合で使われたシーマン戦車をその場で確保した。
ただ修理が必要な状態なので闘技場にて修理してもらい、その後に持ち帰ることにした。
さらにその日のうちにシャークスのクランの倉庫へと行き、現物を差し押さえることにした。
時間が経つと戦車を隠してしまうか金に換えてしまう可能性もあるからだ。
奴らならやりかねない。
何日かして行ったら雑魚戦車を数台だけ残して、「これで全部だ」とか言いそうだ。
そうさせないためにも直ぐにガサ入れする。
俺達が勝ったら保有戦車をすべて貰う約束だからな!
「待て、今日はまずいんだ。明後日、いや明日でもいい。そうだ明日もう一度来てくれないか。今はちょっと野暮用でゴタゴタしてるんだ」
シャークスのクランの倉庫に入ろうとするといきなりドア越しにこう言われたのだ。
「往生際が悪いわよ!」
そう言ってドアをブチ破って侵入しようとしているのはケイだ。
どこから見つけて来たのかデカいスパナを振り回している。
しかしタクが申し訳なさそうにぼそりと告げる。
「あの~、ケイ。あっちのシャッター開いている所から入った方が楽だと思うんだけど」
すると見る見る内に真っ赤に顔を変色させるケイが、何故か俺の方に視線を移し。
「は、はじめからあっちが開いてるって――言いなさいよねっ」
と叫んだかと思ったら、振り向きざまに俺の頬にケイの張り手がめり込んだ。
「あぼひゅっ」
なんで俺?!
頬をさすりながらケイに文句を言うと、ケイが意味不明は言葉を言い放つ。
「そんなところに顔を置いておくのが悪いんでしょっ」
訳がわらず立ち尽くす俺を置いて、一行は倉庫のシャッター方面へと向かう。
俺は首を傾げつつ、納得がいかないままついて行くのだった。
そしてシャークスのメンバーを押しのけて倉庫の中へと入って行くと、そこには予想を上回る光景があった。
「なんだ、これは。いつの間に……」
出た言葉がこれだった。
この俺の一言以外、誰も言葉を発しない。
もともとあると予想していた戦車はというと、シーマン戦車はすでに手に入れているのでそれ以外だと、35型戦車、38型戦車、2型戦車の3両と考えていた。
シャークスが過去に使用していた戦車がそれだったからだ。
3両とも低中ランクのハンターが持つような戦車で、性能的には低い部類に入るのではないだろうか。
しかし俺達の目の前にある戦車はピカピカのシーマン戦車が2両だった。
誰も口を開かないのを見て、俺が言葉を絞り出す。
「シャークスの奴ら、どうやら新品のシーマン戦車に買い替えたばかりみたいだな。俺達にとってはラッキーとしか言いようがないが、シャークスのメンバーにしたらとんだ災難としか言えないだろうけど、まあタイミングが悪かったってことだ」
俺の言葉を聞いて倉庫内のシャークスのメンバー達は、ガックリとうな垂れるのだった。
主要メンバーはリーダーである金髪リーゼントの付き添いで病院へと行っているので、この倉庫には幹部らしいメンツは皆無らしく、特に邪魔もされずに俺達は堂々とシーマン戦車2両を奪い取って帰路についた。
そして我らがドランキーラビッツの倉庫に戻ってからは、盛大に祝賀会が行われることになったのだが、そこでイベント発生。
それは総出で買い出しやら料理やらの準備をしている最中の事だった。
俺達クランへ手紙が届いた。
差出人は軍からだった。
字がまともに読めない俺はその手紙をエミリーへと渡し内容を見てもらうと、しばらくして顔を上げたエミリーが神妙な表情で言った。
「お兄ちゃん、これって召集令状ってやつみたいね」
そのエミリーの言葉に真っ先に反応したのはケイだった。
「え、なに? 見せてもらえる」
ケイは手紙を受け取って内容を確認すると、うんうんと頷いてから俺に視線を合わせて言った。
「確かに召集令状ね。軍の指揮下に入れってことよ」
実は前から薄々は警戒していた。
ハンターでも戦時状況によってはお呼びがかかるってことくらいは知っている。
つまり戦況が芳しくないということだろう。
でも宛名はクラン名になっている。
クランごと招集ってことなのか?
その疑問をケイに投げかけると、手紙を確認しながら答えてくれる。
「戦車や武器を自分たちで用意するならクランはバラさないで招集するって書いてある。つまり軍内では同じ部隊に所属することになるらしいわね。ただし指揮官は軍から派遣するって書いてるけど」
どうやらクランごと軍隊入りすることになるらしい。
でも知らない奴が指揮官で入って来るのは何か嫌だな。
エミリーもそう思ったのかはっきりとそれを言葉にする。
「ええ~やだ~わたし~。知らない人がリーダーになるってことでしょ。お兄ちゃんじゃなくてぇ」
するとケイも同意しながら何やら説明を始める。
「う~ん、私も同意見だねえ。でもそうならない方法はあるよ」
誰もが「なになに」と乗り出して耳を傾ける。
それは指揮官をこちらで用意する方法だ。
それにはクラン内に貴族が居れば問題ないという。
貴族は入隊と同時に士官待遇な上、個人的な付き人まで連れていけるらしい。
それを聞いた俺は初め、そんな手があるんだと感心したのだが、直ぐに我に返る。
お貴族様の知り合いなんかいねえ。
しかしケイが内ポケットから何やら取り出して、俺に見せる様に掲示した。
「えっと、ケイさん。それはなんなんでしょうか……」
訳も分からず俺が質問すると、ケイが呆れたような表情で言い放った。
「これは貴族だけが持つ紋章よ、貴族証明書ってところかしらね。タクとソーヤも持ってるわよ」
なんとこいつらはただの金持ちのボンボンだけじゃなかった。
お貴族様でもあったのかよ!
爆せろっ!
でもそんな事したら実家にバレやしないだろうか。
こいつら家出の身だったはず。
その疑問をぶつけるとケイはあっけらかんと言った。
「大丈夫よ。軍に入ったら貴族だろうが手だし出来ないから、連れ戻そうなんてとても無理よ。ただ、居場所はバレちゃうけどね」
まてまて、貴族の場合は16歳になるまで入隊は避けられるって聞いたことあるぞ。
その疑問にケイは。
「ケンちゃんが入隊するんでしょ。だったら私達もついて行くに決まってるじゃん。ねえ?」
そう言ってタクとソーヤにケイが同意を求めると、当然の様に2人も大きく頷いた。
ちょっと俺は感動している。
うるっときたのは内緒の話だ。
なるべく目を合せないよう返答する。
「お、おう。そ、そうか。それなら別にいいんだが」
さらに細かい内容を聞いていくと、ゴブリン奴隷に関しては敵国種族であるので、たとえ貴族の付き人であろうが入隊は出来ないんじゃないかと。
詳しくは調べてみないとわからんらしいが。
まあ、本来捕虜なんだもんな。
それに戦場で見かけたら間違いなく敵と思われるだろうし。
しょうがないな、コボルトの街へでも送ろう。
俺とエミリーの叔母でもあるミカエさんにでも頼むしかない。
その役目はナミがやってくれることになった。
ナミがゴブリン奴隷を送り届けてくれるそうだ。
その為、ナミは遅れての入隊だが、貴族の付き人という形で俺達の部隊へと配属にしてもらう算段だ。
それから現在の保有戦車全部を持ってはいけない。
相手がゴブリンならどの戦車でも十分戦えるのだが、相手がオーク戦車となるとそうもいかない。
最低でも75㎜クラスの砲がほしいし、最低限度の防御も欲しい。
となると戦利品であるシーマン戦車は全部で3両、それと3型突撃砲を長砲身へと換装させれば使えるから合わせて4両となる。
スポンジ戦車は老朽化が凄まじいし、ゴブリンのブレタン戦車はお話にならん。
これらは売って金に換えるか。
ただし俺達はゴブリン奴隷が居なければメンバーは7人しかいない。
2両分の乗員にもみたないな。
戦車を4両持った上で、この人数で入隊したらどうなるんだろう。
まさか戦車は没収ってことになるんだろうか。
さすがにその辺も調べてみないとわからんよな。
こうして俺達は勝利の祝賀会もそこそこにして、入隊の準備とその下調べで忙しい日々を送ることになるのだった。
はい、軍隊生活へ突入いたします。
元々は戦車闘技に突入前にこの展開だったんです。
つまり本来のストーリーに戻ったという訳ですね。
ただしストーリーにはもう一つ案がありまして、それは人間の一部がクーデターを起こすという案件でした。
そのクーデターに主人公達が巻き込まれるストーリーです。
ただこれだとストーリーが難しくなりそうだったので変更。
それで今のストーリーとなっています。
という事で今後ともよろしくお願いします。




