150話 本当の勝利
「しょうがない。やってやるよっ、その一騎打ちってやつ」
そもそもこの戦車闘技試合も一騎打ちなんだが。
俺の言葉に金髪リーゼント野郎がニヤリとする。
話を聞いていたようで、シーマン戦車のハッチが次々に開いて、シャークスの他の乗員もニヤニヤしながら車外に出て来た。
見た事があるメンツが2人、坊主頭のタモツ・ソロイと赤い髪の毛のタツ・ゴウシとかいう奴だ。
2人とも金髪リーゼント野郎の手下で、前に俺をバカにしていた2人だ。
そして生意気そうなガキがさらに2人続いて出て来た。
シーマン戦車は5人乗りだからな。
そして金髪リーゼントが俺に指さして言った。
「少し待ってろっ」
そう言って何やらキョロキョロし始める金髪リーゼント。
すると壁伝いに金属の箱のようなものが近づいて来た。
中継用のカメラらしい。
そして金髪リーゼントはカメラに向かって握りこぶしの両手をクロスさせた。
どうやらそれが一騎打ちの合図らしい。
闘技事務所に決闘をすることを知らせたらしい。
そうか、この場所は無線が通じないからな。
途端に観客席から歓声が聞こえてくる。
どうやら観客もそれがお望みのようだ。
そして金髪リーゼントは話を続ける。
「ルールはどうする? ナイフにするか、それとも銃を使うか、選ばせてやる」
俺に選択権をくれるらしい。
俺は腰のホルスターを叩きながら答える。
「拳銃で息の根を止めてやる」
「ふん、いいだろう。拳銃の勝負だ。くくく、ひ~ひ~言わせてやる」
ひ~ひ~言わせるのはこっちだ。
俺は武器を持ったら強い事を知らないらしいな。
素手じゃ弱いけどな、武器を使った近接戦闘は得意なんだぞ。
そして金髪リーゼントと俺は、無人になったシーマン戦車を挟んで対峙する。
シーマン戦車はさっきのままで、車体を斜めにして通路を遮断している状態だ。
我らがドランキーラビッツのメンバーは高い壁の上に登ってそこから観戦で、その反対側の壁の上にはシャークスのメンツが陣取っている。
そしてどこから集まって来たのか、カメラらしい箱多数がシーマン戦車を囲んでいる。
これで観客にもこの光景がつぶさに観られるという訳だ。
そして代表してケイが一騎打ち開始の合図を言い放った。
「よ~い、どんっ!」
駆けっこじゃないからっ!!!!!
苛立つ気持ちを抑えつつ、腰のホルスターから拳銃を引き抜く――――のだがなんか違う。
そっと拳銃に目をやる。
「おおおおっ、信号拳銃じゃねえかっ!!!!!!!」
そうだ、ラムド拳銃の代わりに信号拳銃を腰に吊ってたの忘れてた。
やばいぞ、かなりやばい。
俺が今持っている武器と言ったら単発式の信号拳銃が1丁とナイフが1本だけとなった。
しかも弾が残り4発しかないときた。
とりあえずシーマン戦車の陰に隠れて信号弾を込める。
すると金髪リーゼントが戦車の下から拳銃を撃ちまくってきた。
俺は慌ててキャタピラの上に足を乗せる。
すると今度は上から手だけを出して拳銃を乱射してきた。
今度は急いで頭を下げる。
うおお、手も足も出ねえ。
すると金髪リーゼントが弾倉を交換しながら挑発してきた。
「おいおいおいおい。逃げてばっかじゃねえか。手も足も出ねえってか。さっきの威勢の良かった態度はどこへいったのかな~。それともまさか拳銃と間違えて信号拳銃しか持ってこなかったとかって言うんじゃねえよな。まさか、そんなダイナミックな間違いしてねえよな?」
くそっ~、言い返せねえ。
さっき信号拳銃って口に出したのが聞こえてたらしい。
その時ケイがひと際でかい声で叫ぶの耳に入る。
「こら、ケン坊! 負けたらエミリーさんが〇〇されたり、△△されたりしちゃうんだぞ! しっかりしろっ!」
それを聞いた途端、頭にカッと血が上り、半ばやけくそ状態で命中するはずもない信号拳銃を戦車の下から撃ち込んでいた。
すると当たり前だが、シーマン戦車の真下で着弾して白煙がモウモウと立ち上り始める。
すると金髪リーゼントがさらに挑発してくる。
「煙幕でどうやって勝つんだいケン坊。うははははは」
あ、やべえ。
ついカッとなって後先考えずに撃ち込んじまった。
落ち着け、俺。
ん、まてよ。
煙幕ってことは接近できるじゃねえか。
俺は着ている服の袖を破いてそれをマスク代わりに口に巻き、信号拳銃には新たに信号弾を装填して両手で強く握りしめて構える。
そして煙幕で視界が困難になったのを見計らって俺は動き出す。
シーマン戦車の後部側から車体の上によじ登り、転がるようにして反対側に降り立つ。
音と気配に気が付いたのか。金髪リーゼントが喚きながら拳銃を乱射する。
「で、出て来やがれ。ゴホ、ゴホッ。ひ、卑怯だぞ。姿を見せやが…ゴホッ」
しかし俺は降り立ったと同時に身を伏せて、奴の射線上にはいない。
奴の放った銃弾は俺の頭上をすり抜けていく。
こういった視界不良の状況の場合、普通の人間は自分の胸の高さ位で銃を構えているので、その高さで銃をぶっ放すものだ。
わざわざ下に向けて撃つ奴はあまりいない。
発射炎は煙幕の中でも十分目立つ。
奴のいる場所はこれで判明した。
煙で痛い目をなんとかこじ開けて、俺は奴に急接近した。
見えた!
オートマチック拳銃だ。
俺は左手を伸ばして奴の拳銃のスライドをがっちりと握り、すかさず引き寄せる。
すると金髪リーゼントが「うおっ」と言いながら目を見開いた状態で俺の目の前に現れる。
そして俺はその顎の下へと信号拳銃の銃口を押し付けて言った。
「さて、信号拳銃に負けた気分はどんなか聞いてもいいかな?」
まるで俺のセリフに合わせたように煙が引いていく。
シャークスのメンバーに視線を移すと、全員がこれでもかと言うくらいの大口を空けて固まっている。
そうだろ、そうだろ。
信号拳銃相手に負けるとは思ってなかったんだろうな。
顎に銃口を突きつけられた金髪リーゼントが、青ざめた表情を見せながら絞り出す様な声でぼそりとつぶやいた。
「ま、まさか引き金を引かないよな。お、俺の負けだ。認める」
俺は勝ち誇った顔で告げてやる。
「さあて、俺も緊張しててさっきから指が震えてるんだよね~。引き金を引かないという自信がないんだよな」
信号拳銃といえども、この距離で顎に撃ち込められればただじゃ済まない。
即死だってありうる。
しかし、無情にも試合終了のサイレンが鳴り響く。
さすがに俺も迷ったんだがサイレンの音で踏ん切りがついた。
命は勘弁してやる。
代わりに信号拳銃のグリップを奴の腹に1発叩き込んでやった。
すると金髪リーゼントは「ほぎゃっ」と呻いて、腹を抑えて地面に転がった。
俺は奴を上から見下ろしながら言い放つ。
「弱いくせに余りでしゃばんなよ。これからは俺の事を“ケンさん”って呼べよな」
そう言って俺は奴に背を向けた。
その瞬間、エミリーが叫ぶ。
「お兄ちゃんっ後ろっっ!」
その声に俺はゆっくりと振り返る。
するとそこでは寝転がった金髪リーゼントが俺に拳銃を向けていた。
「へっ、最後に笑うのは俺なんだよ!」
そう言って金髪リーゼントは引き金を引いた。
しかし、弾は出ない。
俺は笑顔で返答する。
「ば~か、そんなのお見通しなんだよ。さっきお前の拳銃を掴んだ時に安全装置掛けておいたんだよ。最後に笑うのは俺だったな」
金髪リーゼントは慌てて安全装置を外そうとするがもう遅い。
俺は奴の顔面に向けて信号拳銃の引き金を引いた。
信号弾は金髪リーゼントの顔面で派手に炸裂し、赤い煙幕をモウモウと噴出させるのだった。
さて、次話あたりから話がまた急展開という予定です。
というか、本来のストーリーに戻る予定です。
まだ描き始めてもないのであくまでも予定です。
もしかしたら筆が進まず新しい小説を書くかもw
ということで次回もよろしくお願いします。




