149話 勝利?
遅くなりました。
やっと投稿です。
<(_ _)>
脇道に上手く逃げれたと思った矢先、車体後部に衝撃が走り軽く尻が振られて進路がズレる。
それに合わせて俺達乗員は車内で壁に各部をぶつけることになる。
シーマン戦車の76㎜砲が命中したようだ。
しかし巧みな操縦でエミリーは直ぐに車体を持ち直した上で、さらに加速させていく。
俺は直ぐにハッチから顔を出して車体後部を覗くと、エンジンルームから火の手が上がっているのが見えた。
「やばい、エンジンから火災。消火器を取ってくれっ!」
俺の言葉に皆も大慌てだ。
エミリーがこのままエンジンを吹かし続けていいのか聞いてくるが、今エンジンを切る訳にもいかない。
敵シーマン戦車は曲がり角の向こうから追っかけてくているのだ。
追いつかれたらおしまいだ。
「今止まる訳にはいかない。構わないから飛ばせ!」
そして車内ではキャーキャーと叫び声を響かせ、バケツリレーのように俺の手に消火器が回ってきた。
装填手のケイが砲弾の様にうやうやしく持った消火器を俺に渡す。
暴発しないから。
俺はそれを受け取ると、ハッチから這い出して切り株戦車の上へと出た。
そこで俺は思った――
――猛スピードで走行する戦車の上で消化活動なんて無理じゃん!
とても立っていられるような状態ではない。
油断したら転げ落ちるレベル。
だけど速度は落とせないし消火活動も後回しにできない。
やるしかない!
幸いな事に火の手はそれほど大きくもなかったので、引けた腰状態でなんとか消化完了。
俺はやれば出来る子なのだ。
俺がハッチに上半身を飛び込ませると、エミリーは早速近くの十字路を左折する。
シーマン戦車を巻く為だ。
無事に細い通路に入って行くのだが、地図によると1本道。
両脇の壁は最低でも4mはありUターンできないほどの細い道で、なんだか圧迫感を感じるような通路だ。
そんな道を後方に警戒しながらしばらく走っていると、突如エミリーが口を開く。
「お兄ちゃん、エンジンの調子が悪いみたい。パワーが落ちてるみたいな感覚?」
さっきの被弾の影響だろうな。
「……持ちそうか?」
俺の質問に暗い感じでエミリーが答える。
「わかんないけど……そんなに持たないかも。直ぐに止まって修理すればいけるとは思うんだけど」
エミリーもそんな余裕はない事は解かっているといった言い方だ。
そう、今は戦闘中だ。
エンジンの事を考えれば長期戦はまずい。
くそ、勝負に出るしかないか。
その時、ケイがポツリとつぶやく。
「シーマン戦車が後ろを見せたまま動かなければ勝てるのに」
そんな都合の良い状態があるわけないだろ……いや、まてよ。
頭の中でキラリと何かが光った。
「そーかっ、その手があったか!」
キョトンとした顔で皆が俺の方を向く。
その顔を見まわしながらニヤリととした俺は言った。
「この狭い通路にシーマン戦車を誘い込む」
それでもまだ皆は「は?」といった表情だ。
特にケイのアホ面にはちょっとイラっとしたぞ。
そして俺はこのダンジョン闘技場の自作地図を見ながら、手早く説明するのだった。
「よし、ここで下ろしてくれ」
俺はエッグ・ランチャーを3本担いで切り株戦車から路上へと脚を下ろす。
切り株戦車は排気煙をモウモウと吐き出しながら急発進していく。
排気煙は居場所をワザと敵に知らせるための策だ。
俺は壁によじ登ってシーマン戦車を探す。
「いたっ、あそこか。あの場所からならいけるぞ」
シーマン戦車の砲塔ハッチから顔を出している金髪リーゼントが見えたのだ。
上手い具合にこっちに向かってきている。
俺は持ってきた信号拳銃を空に向けて発射して、切り株戦車へ合図を送った。
これでよし。
あとは俺がおびき寄せてやる。
シーマン戦車の装甲音が徐々に近づいて来る。
俺は敵が変な方向へ行かない様に、壁の上からエッグ・ランチャーをを撃っては隠れる。
するとシーマン戦車は撃って来た方向へと進路を変える。
こっちの短砲身75㎜砲では、早々シーマン戦車の装甲を撃ち抜けないと知った上での行動だろうな。
ふふふふ、思うツボじゃねえか。
「よおしっ、いける!」
シーマン戦車は知らずに転回できない細い1本道へと入り込んだのだ。
そして再び信号弾を空に向けて発射。
俺は1人叫んでロープを使って壁の上の割れ目に身を隠す。
信号弾を確認した切り株戦車が脇道から躍り出て、シーマン戦車の入った細い通路へと続いて入って行く。
その様子を見ながら俺はつぶやいた。
「あとは任せたぞ。きっちり仕留めろよ」
細い通路の長さは約100m。
それを抜けるまでこの狭い通路では、シーマン戦車は旋回して後ろにいる切り株戦車へと向きを変えられない。
そして短砲身75㎜砲の射線に入れた切り株戦車が、待ちに待った一射目をシーマン戦車の真後ろから放った。
車体後部上部に命中!
思わず「よしっ」と声を上げたのだが、無情にも75㎜砲弾は跳ね返されていた。
ううむ、やはり後面装甲といえどもギリギリ貫徹できるかくらいの装甲厚だからな。
しかも土嚢で防護されている所もあるから、そこ以外で命中させないといけないし。
難易度高めだ。
だが今の俺は切り株戦車に指示を出せずに、壁の上で戦闘を見守るだけだ。
このままシーマン戦車が全速力で通路を真っすぐに進んだ場合、せいぜい一射撃くらいしか余裕はないだろう。
それで仕留められなければ今度は追われる身となる。
固唾を飲んで見守る中、逃げると思われたシーマン戦車が急ブレーキを掛けた。
何をする気だ?!
そう思っていたら、速度が落ちたところで砲塔を旋回させながら車体をUターンさせ始めた。
しめた!
あの細い通路でシーマン戦車みたいなでかい車体を旋回できると思ったらしい。
案の定、すぐに車体が壁にぶつかって車体の向きが斜めになっただけだ。
まだいける、余裕が出来たならやれる。
しかし!
シーマン戦車の砲塔がゆっくりと回って、切り株戦車の方向へと回っている。
その間に切り株戦車がシーマン戦車に追いつき、急ブレーキを掛けてその真後ろで砂埃を舞い上げて停車した。
距離にして10mほどだろうか。
停車したと同時に切り株戦車の短砲身75㎜砲が再び砲声を響かせた。
舞い上がった砂埃をかき分けて砲弾がシーマン戦車に命中。
命中した場所は先ほどと同じ場所、エンジンルーム。
ガツンといった金属音を発して砲弾はシーマン戦車の装甲をぶち抜いた。
「やった――――え? マジかよ……」
確かに75㎜砲弾はシーマン戦車の装甲を貫通した。
そしてエンジンルームから黒い煙を上げて動きが完全に止まった。
旋回していた砲塔も止まった。
だが。
だがしかしだ。
再びシーマン戦車の砲塔が旋回を始めたのだ。
勝利を確信したらしくハッチから顔を出したケイだが、不細工なほどに引きつった表情で再び砲塔の中へと飛び込んだ。
俺はじっとしていられなくなり、壁の上から飛び降りて切り株戦車へと向かって走り出す。
そして喉が壊れるんじゃないかと言うくらいの声で叫んだ。
「砲塔の基部、付け根を狙えっっ!!!」
どうせ聞こえないという事はわかってはいるのだが、叫ばずにはいられなかった。
そして全てが終わったかと思ったのだが、俺は走りながらシーマン戦車に視線を移して「あっ」とつぶやいてその場に立ち尽くす。
シーマン戦車の砲身が壁にぶち当たって旋回できなくなっている。
ここの壁は場所によっては砲塔よりもかなり高い造りになっている。
そこに今、お前はいるんだよ。
「ここは狭い通路なんだよ。そんな長い砲身なんかじゃ無理なんだよっ。わざわざ長砲身76㎜砲なんかに換装したのが失敗したな。ばーか、ば~っか!」
と俺が大声を上げている間にも、ケイは75㎜砲の装填が完了したらしい。
俺は切り株戦車の車体に片手を置いて指示を出す。
「この距離だ。さすがに外さないだろ。ミウ、一発で仕留めて見せろよっ」
そして俺が発射の合図を言いかけた時だった。
突然シーマン戦車の砲塔ハッチが開いた。
俺は慌てて「ストップ!」と言いながら手を広げて発射を制止する。
すると恐る恐るハッチから金髪リーゼントが這い出してきた。
おっと、降参かな?
まあいいだろう。
土下座したら許してやろうかな。
こっちが撃つ意思がないとわかると、金髪リーゼントは急に態度がでかくなり、胸を張ってビシッと俺を指さして言った。
「男なら一騎打ちで勝負だ!」
はあ?
またこのパターンかよ。
だいたいこいつは、今の自分の立場が見えていらっしゃらない?
「おい、リーゼント野郎。なんでこの状況で一騎打ちしなきゃ――」
俺が言いかけたところで、切り株戦車のハッチをバシっと開けたケイが叫んだ。
「望むところじゃないっ」
さらに追い打ちを掛けて操縦手用ハッチが全開になってエミリーが顔を出して叫ぶ。
「お兄ちゃんっ、けちょんけちょんにして!」
それで終わらない。
車長用ハッチから手だけが出てミウが言った。
「わ、私も賛成です……すいません」
もう、後に引けない状況じゃねえか。
こうして勝利したはずの闘技試合がまだ続くことになるのだった。
M4シャーマンの装甲厚データを調べたり、3号突撃砲の乗員配置を調べたりと、結構時間が掛かりました。
でもウォーサンダーで調べたらあっという間でした。
ウォーサンダーの車体データが結構凄いと思った。
ゲームバランスもあるだろうけど、かなりリアル数値じゃないんだろうかと。
という事で次回もよろしくお願いします。




