148話 突然の接敵
試合開始のサイレンが鳴った。
それと同時に入場ゲートが開き、俺達の乗る切り株戦車は猛スピードで走りだした。
まるで魔獣のような走りを見せ、観客はそれだけで大いに盛り上がる。
ハッチから乗り出して偵察する俺は、そんな歓声をBGMに双眼鏡を走らせる。
この闘技場のゲートは6つある。
俺達が出たゲート以外のどれかにシャークスのシーマン戦車が発進したはずだ。
上手くいけば砲塔の一部、もしかしたら排気煙でも発見できればいいのだが、そう簡単には見つからないものだ。
「お兄ちゃん、見えた?」
「いや、ダメだ。エミリーこのまま通路を直進してくれ」
そう、操縦席にはあれほど嫌がっていたエミリーが座っている。
そうなるまでの道はいたって簡単。
街で限定販売していたジャイアント・プリンを俺が買い占めたのだ。
たまたま通りかかったら10個の特別限定での販売をやっていて、残っていた3個を全部買い占めてやった。
1個800シルバと高額なプリンだったので、総額2,400シルバというプリンに掛ける金額ではありえないほどの金を支払った。
その代わり見た目のインパクトは絶大で、まるでバケツで作ったような巨大なプリンは、見る者すべてが2度見するほどの衝撃だ。
それをエミリーの目の前に笑顔でドスンッと置いてから言ってやった。
「限定商品の“ジャイアント・プリン”だ。限定品なんでもう売ってない。さて、エミリー、俺が何を言いたいかわかるよな?」
俺のこの言葉だけで頭の良いエミリーはすべて理解したらしい。
「ったく……お兄ちゃんの勝ちね。操縦すればいいんでしょ」
これも“限定”に弱いスイーツ女子の弱点を狙い撃ちした俺の勝利だ。
そして砲手は我らが英雄、命中魔法の使い手のミウ。
装填手兼無線手兼機関銃手は、いいとこのお嬢様で天才的な頭脳の持ち主、ケイ。
なんと自ら参戦すると名乗り出たのだ。
雨が降るかもしれんな。
そして戦車長はメンバーの中で一番使えないかもしれない俺。
自分で言っててなんだが、ちょっと落ち込んだ。
だけど車内には俺以外すべて女の子。
なんとムフフな状況なんだろう。
「ふぇんげっ」
「何ニヤついてんのっ。ちゃんと偵察しなさいよ」
ケイにロシアン・フックを喰らった。
そういえば車長ハッチの隣には装填手用ハッチがあって、そこで俺同様にケイが双眼鏡で偵察していたことを忘れていた。
俺が余計な妄想でニヤついていたのを見られたらしい。
一応観客席にはいつもの様にモニター本部を置いているんだが、やはり無線が通じないとあって自力で見つけるしかない。
それで必死で探しているという訳だ。
なんだろう、この土地特有なのか障害物の材質のせいなのかわからんが、無線は雑音が酷くて使いものにならん。
こうなったら敵を先に見つけた方が圧倒的に有利となる。
しばらく走らせた後、一旦停止し、車体の上にケイと一緒に立ち上がって辺りを見まわす。
「いたぞっ。10時方向――ああ、くそ、見えなくなった」
少しだけ砲塔の上部が見えたのだが、それも直ぐに障害物に隠れて見えなくなった。
だが大体の位置は知ることができた。
「エミリー、予定通りこのまま第一ポイントまで行くぞ」
「お兄ちゃん了解!」
エミリーは言うや否や再びキャタピラを猛回転させると、砂埃を後方へ舞い上がらせて走り出す。
そんなに砂埃を上げたら位置がバレるだろっ。
案の定、砲撃を喰らった。
しかしそう簡単に当たるはずもなく、砲弾は切り株戦車が通った後のコンクリートの壁に突き刺さって破片を巻き散らす。
走行時に舞い上がった砂埃に向かって撃ち込んだのだろう。
そういえば、向こうは車高が高いから射撃できる場所もあるってことか。
反対に俺達の切り株戦車は車高が低くて、壁越しに射撃できるところはないということ。
今更そんな重要な事に気が付いた。
敵は発見できるけど通りに出ないと俺達は撃つことができない。
逆に敵は通りに出なくても壁の上に砲塔だけ覗かせて、隣の通路で走る俺達を撃つことが出来る。
あれ、なんかやばくないか?
思いっきり不利な状況のような気がするんだが。
絶望的な臭いがするよ。
結局敵を見失った状態で闘技場の中央まで来た。
シーマン戦車を見たのは最初だけで、あれ以来全く痕跡さえも発見できてない。
「しょうがない。壁際まで行ってから逆時計回りに移動しよう」
車体の右に壁際をとりながら走れば、敵を発見しても左への旋回となる。
左側に操縦主席がある車体だと、左旋回の方がしやすいらしい。
早く回れるってことだ。
それに右に注視しなくても良いのは助かる。
俺達はそのまま直進し壁際に着くと、そのまま逆時計回りに壁際を走りだす。
そして5分ほど走っただろうか、突如目の前にシーマン戦車が現れた。
距離にして200m位だろうか。
「くそっ、正面にシーマン!」
魔法射撃どころではない。
そんな余裕もなくミウは慌てて照準する。
幸いにも敵シーマン戦車の射撃よりもミウの射撃の方が早かった。
切り株戦車の砲身から砲弾が射出された。
しかしその衝撃で偽装された長砲身がポロリしてしまった。
ケイがそれを見てつぶやく。
「ああ、また元の短小に……」
少しは言葉を選べよなっ。
こうなったらしょうがない。
威力のない短砲身ってバレちまっては、敵シーマン戦車は躊躇なく接近してくるだろうな。
そうなると俺達は速度を生かして逃げるしかない。
ちなみに発射された砲弾は見事なまでに、シーマン戦車の前面装甲に弾き返されました。
敵シーマン戦車は横道から入って来たばかりで、砲身がまだこちらに向ききっていない。
「エミリー、左の脇道に逃げろ。急げ、やられるぞっ」
「そんな事、わかってるから」
エミリーは文句を言いながら車体の向きを急激に変える。
車体が横滑りを起こしながら向きを変え、そのまま一気に横道へと入って行く。
シーマン戦車の砲塔が旋回する。
そしてシーマン戦車の76㎜砲が発射された。
前にも言ったように8月はスペシャルハードなサマータイムとなる予定です。
投稿が厳しくなります。
それとネタ切れというか……(/_;)
筆が進まなくなってまして。
ちょっとお休みするかも。
それで気分転換に新しい小説書くかも。
すべて「かも」ですが。
ということで多分次回もよろしくお願いします。




