144話 無双
短めです
俺は隠れていた場所からゆっくりと出て行き、近くにあった棚らしき上に登り仁王立ちした。
ゴブリン歩兵が俺を見て唖然としたまま固まっている。
「さてと、休憩時間はここまでだ」
そう言って短機関銃を構えると容赦なく引き金を引いた。
正面で固まっていた1匹のゴブリンの顔面に弾丸が集中し、跡形もなくなる。
右に3匹。
そのまま引き金を引きっぱなしで銃口を右へと滑らせる。
我に返った3匹が逃走しようと背を向けるが、その背中に均等に2発ずつの弾丸が命中して緑の悪魔たちを粉砕する。
マガジン内にはあと数発残っているはずだが、早めに弾倉交換をする。
マガジンチェンジをしながら横っ飛びして瓦礫の隙間に入り込む。
いつもなら大切に持ち帰る弾倉を惜しげもなく投げ捨てる。
マガジンチェンジ終えると、物陰に隠れたゴブリンへと牽制射撃を加えつつ移動する。
物陰から突如ゴブリンが手榴弾を投げようと腕が現れるも、その手首に弾丸が命中。
手に持っていた手榴弾がその場に落ちる。
手榴弾を落としたゴブリンが、爆発から退避しようと物陰から飛び出したところに、俺の短機関銃の銃口が待ち構えていた。
短機関銃の弾丸と手榴弾の破片のダブルパンチ。
見るも悲惨な姿へと変貌した。
俺が移動した先には大きな瓦礫がり、その後ろに身を隠す。
上の階がちょっと騒がしくなり見上げてみる。
すると俺のいる場所目掛けて3階から手榴弾がいくつも落ちてきた。
ただラッキーなことに、ことごとく瓦礫の隙間に落ちてしまい、手榴弾の破片は俺に届かない。
俺へ届いた唯一の攻撃は、鼓膜を痺れさせるほどの爆音。
しかし上から攻撃されるのは不利だ。
牽制用に手榴弾を3階へと投げ上げて、その隙に別の場所へ移動して一旦避難した。
う~ん、何とかして3階へ上らないと。
しかし2階から3階へと上がる階段が崩落してしまったから、上階へ上るのが難しい状況。
倒れた柱を使えば上がって行けない事はないが、敵から丸見えで射的の的になってしまうだろう。
間違いなく集中砲火の射線上に身を置くことになる。
時計を見る。
あと5分で始まっちまう。
そう、あと5分したら味方がこのビルへの攻撃を開始する時間になるのだ。
ここにフラッグが無い場合は俺が発煙筒を焚くのだが、その合図がない場合は攻撃が開始される手はずとなっている。
隠密奪取が無理そうだ場合は、その攻撃に乗じてフラッグへ近づく作戦だったのだが、すでに敵に見つかってしまっている。
それに3階へ上がれない、つまり3階にフラッグがあったとしても近づく事もできない。
そんなことを考えていたら、3階の敵に俺が隠れている場所が見つかった。
3階のゴブリン共から俺の隠れている場所に、一斉に銃弾が撃ち込まれだした。
拳銃弾が飛んでくる中に、時折凄まじい威力の弾丸も撃ち込まれる。
くそ、生身の人に対して対戦車ライフルを使うなよ。
しまいには火炎瓶まで投げてきた。
手榴弾と違ってコンクリートにぶつかっても跳ね返らず、ぶつかった瞬間に瓶が割れて発火するので、瓦礫の隙間に入り込むこともない。
それに火炎瓶はしばらく燃え続けるのだ。
非常に厄介極まりない。
ただ、仕返しもしてやった。
投げ放たれた瞬間に火炎瓶に弾丸を当ててやった。
空中で瓶と一緒に炎も四散して、投げたゴブリンに炎が降りかかる。
一瞬にして火だるまだ。
するとゴブリン歩兵が遂に本気になったのか、次から次へと火炎瓶を落としてきやがった。
さすがに連続で落とされると俺も逃げ惑う。
そこへ別のゴブリンが拳銃で狙い撃ちしてくる。
だが上からの攻撃ばかりではない。
俺が今いる1階にも、数は少ないようだがゴブリン歩兵がいるのだ。
そこで時間が来た。
味方の攻撃の始まりだ。
戦車砲が次々にこのビルに撃ち込まれる。
「なんだよ、俺がいるってのに全然遠慮しねえじゃねえか!」
しかし逃げる訳にもいかない。
この砲撃で敵が混乱している隙になんとか3階へ移動しないと。
俺は倒れた柱を使って3階へ行く決断をした。
よし、一気に走り抜ける。
俺は短機関銃を背負い、代わりに腰に吊っていた拳銃を取り出し、スライドを引いて射撃準備する。
スライドが「シャキンッ」と心地よい金属音を響かせる。
そして大きく深呼吸したのち俺は一気に走り出した。
そして倒れた柱の上にひょいと飛び乗る。
ゴブリンが1匹、俺を指さして叫んでいる。
俺はそれに構わず柱の上をひた走る。
しかし思ったより柱が欠けたりしていて走りにくい。
それでも走ることに集中し、あと少しで3階フロアにたどり着くというところで左脚に激痛が走った。
「やばい、撃たれたっ」と思った時には自分の左脚では踏ん張る事もできずに、一気に体制が崩れていく。
そして自分の意思とは関係なく、柱の上で前のめりに倒れ込んだ。
しかしそれでも俺に向かってまだ、激しい銃弾が撃ち込まれてくる。
「くそ、あと少しなのに!」
だが、ここで止まっていればさらに銃弾を浴びることになる。
足を引きずりながらも3階フロアに倒れ込む。
そこでまず俺の視界に入ったのは、中央の壊れたテーブルの上に置かれた『フラッグ』だ。
そして次に目に入ったのは、その周りにいるゴブリン歩兵6匹だった。
「あ、どうも……」
思わず挨拶をしてしまった。
当然の如くゴブリン達は俺に向かって銃口を向ける。
「やばい」そう思った時だった。
先ほどの2階が滑落した時と同様にビルが激しく振動し、物凄い衝撃音が聞こえたのだった。
主人公の得意分野である近接戦闘です。
CQBとか言われる奴ですね。
ちょっとしたゴブリン無双です。
少しだけやられちゃいましたけどね。
という事で次回もよろしくお願いいたします。




