143話 崩落
俺がガン見したモノ、それは闘技事務所が設置したカメラボックスだった。
ビルや交差点に路地裏などあらゆるところにカメラはあり、それでもすべてを映すことが出来ない事から、移動できるカメラを設置しているのだ。
今見たのはビルの屋上から吊り下げている昇降装置付きのカメラだ。
ちゃっかり金属箱でガードまでしてある。
なんでも中には隷従の首輪を着けた小人属が入っているという噂もある。
つまり、俺は潜んでいる場所をカメラに絶賛生中継されてしまったということだ。
となると当然の事ながらグリーンデビル陣営本部もそれを見て、フラッグポイントを守る歩兵にもそれが知らせる。
そうなると答えは簡単、俺の大体の位置が判ってしまうということ。
てことは……やばい、敵にバレたじゃねえか!
数秒後にはビル内のゴブリン歩兵の動きが慌ただしくなる。
ゴブリン歩兵が俺を探してあちこち動き回り出したからだ。
どうやらカメラ映像だけでは正確な場所までは判らないみたいだ。
でもこのビルにいることがバレちまった事は確かだ。
俺は近くにあった瓦礫の隙間に四つん這い状態で入って行く。
くそ、まずいな。
これでフラッグポイントを移動させられちまうよ。
しかしここで諦める訳にはいかない。
恐らく無線とフラッグはセットで置かれているはずだから、無線が通じやすい高いところ、つまり最上階にあるはず。
それと3階で動きがあったとケイが言ってたってことは、3階にフラッグが設置してあるんじゃないのか。
このビル、4階より上は荒れていて拠点にするなら3階辺りが都合が良いんだろう。
俺はそう判断した。
2階に上がるとフラッグがあるかの確認をするためにフロアを移動するのだが、ゴブリンの声が凄く近くて聞こえることはあっても姿は全く見えない。
お互いに隙間を通っていて見えないんだと思う。
そしてやっとゴブリンが視認できる場所を発見した。
そこから見えたのは、数匹のゴブリン歩兵が呑気にタバコを吸っている姿だった。
俺は無性に手榴弾を投げ込みたくなるのだが、必死に我慢して先へと進む。
この階にはフラッグはなさそうだ。
やはりケイが見たという3階が怪しい。
しかし3階へ上れるような足場がどうも見当たらない。
倒れた壁をつたって上がれそうなところもあるのだが、それだと丸見えもいいところなのだ。
他に良さそうな道筋を探す時間を掛けるのもどうかと思い、ここは諦めて階段を使うことにした。
俺は決心して周囲を警戒しながらそっと立ち上がり階段へと向かう。
大丈夫、誰もいない。
俺が階段を一歩登りかけた時、横の壁が急に動いた。
咄嗟にシュウマイザー短機関銃の銃口を壁に向ける。
すると壁の瓦礫の一部が動いて中からゴブリンの顔が出て来た。
くそ、抜け道があったのか。
こいつらここを熟知してやがる!
俺は銃は使わずに足の裏でゴブリンの顔面を全力で踏みつける。
踏みつけられたゴブリンは「ムギュッ」と発して穴の奥へと転がった。
俺はすかさず手榴弾をその穴へとぶち込んで壁際に退避する。
激しい噴煙とともも爆炎が穴から噴出。
中からゴブリンの悲鳴が幾つか聞こえる。
念の為、短機関銃の銃口だけを穴の中に向けて銃弾を叩きこむ。
するとなんだか床が振動しだした。
それが徐々に強くなる。
「おおお、なんだ。どうしたってんだ?」
そして、床が抜けた。
視界がぼやけている上に埃で目が痛い。
何がどうなったんだ。
そうか、床が抜けたんだった。
俺は気を失ってしまったのか。
あたりを見回すとぼんやりとだが視界がはっきりとしてきて、コンクリートの柱の下に自分がいることを知った。
気が付けば体のあちこちが痛いし頭がズキズキ痛む。
時計を見ると気を失ったとはいえまだ5分も経っていない。
あ、やばい、フラッグはどうなった!
痛む体に鞭打って上半身を起こして辺りを見回す。
すると、そこに倒れていたのは俺だけじゃなく、敵のゴブリン歩兵も5匹近くが苦しそうに倒れている。
大丈夫、戦闘不能のようだな。
なんせ出血がひどいかったり関節が変な方向へ曲がっているから。
こいつらポーション渡されてないのか?
とりあえずポーションで自分の応急処置をして銃を構える。
すまんがポーションは俺の分しかない。
そもそも敵の止めは刺すけど助けるほど俺は優しくない。
さて進もうかと思うのだが方向感覚が全くない。
だけどここでジッとしている訳にもいかないから、とにかく移動しようと瓦礫の上を歩き出すのだが、進行方向にゴブリンの声が聞こえてくる。
こっちはやばそうだと、くるりと方向転換して進みだすと、再び進行方向にゴブリンの声がする。
そんな事を繰り返しいるうちに、自分は囲まれているんだという事にやっと気が付いた。
俺としたことが!
冷静になれ。
大丈夫だ。
俺はどんな苦難でも乗り越えられる。
俺は強い。
ゴブリンなんかに負けるはずがない。
そうだった。
俺はゴブリンにはめっぽう強いんだった。
「よし!」
自分に気合を入れると、俺は銃を構えて瓦礫の隙間から飛び出した。
「おらおらおらおらっ!」
目の前に対戦車ライフルを持つゴブリンがいた。
咄嗟に銃口をそいつに向けると、ゴブリンも大急ぎで対戦車ライフルを俺に向けようと振り回す。
「ギギャ?」
しかしゴブリンの対戦車ライフルの先っぽが、コンクリートのブロックにぶつかり俺に銃口を向けることが出来ない。
「ば~か」
そいつの顔面に短機関銃の一連射を喰らわせた。
間髪入れずその奥にいる新たなゴブリンに弾丸叩き込み、直ぐに横っ飛びにコンクリートの瓦礫の後ろに隠れる。
その直後、俺がいた辺りで爆発が起こる。
ゴブリンが投げた手榴弾だ。
俺はお返しとばかりに投げたゴブリンへと手榴弾を放り投げる。
瓦礫が多くて手榴弾の威力が発揮しないのだが、隙を作ることはできる。
手榴弾が炸裂して直ぐに銃を構えて突入する。
そこには爆発の衝撃にまだ立ち直っていないゴブリン共が、苦しそうに咳き込んでいる。
俺が突入してきたことには気が付いてないようだ。
そいつの後ろへ回り込み、後頭部に銃のグリップを叩きつける。
するとゴブリン歩兵はコンクリの塊がゴロゴロした床へと、顔面から飛び込みをかます。
そのゴブリンの後頭部を踏み台にして、さらに奥にいるゴブリン2匹へと短機関銃の銃弾を叩きこむ。
その時、拳銃の音がして俺の肩を弾丸がかすめた。
「くそ、危ないじゃねえかよ!」
即座に振り向いて拳銃を握りしめるゴブリンへと弾丸を叩きこみ、空になった弾倉の交換をする。
少し進むとコンクリの陰からゴブリンが1匹飛び出してきた。
手には刺突爆雷とかいう“あの危険な武器”が握り締められている。
やめろっ、それは人に使う武器じゃねえって!
俺は左手でそのゴブリンの手首を掴んで手繰り寄せ、顔面に膝蹴りを叩きこみ、止めに短機関銃の弾丸を5発ほど食らわせた。
こいつら対戦車火器ばかりで対人用の武器をほとんど持たないで来たのか。
俺達が戦車から降りて戦闘をするって考えなかったのか?
せめて短機関銃くらい用意しとけよって言いたいが、おかげで有利に戦えそうなんだがな。
となると敵の主力武器は拳銃と手榴弾となり、接近戦なら俺が有利になる。
ましてや身体の小さな種族であるゴブリンの拳銃は、反動を小さくするために威力を落としている。
威力を落とすことにより命中率を上げているのだ。
しかし人間の拳銃に比べたら威力不足にもほどがある。
そんな武器で俺に挑もうってのが間違いだ。
そうと分かれば勇気百倍。
ここからは俺の時間だ。
廃墟での戦闘が続きます。
シュウマイザー短機関銃はWW2ドイツ軍のMP40 が元ネタです。
連合軍では勘違いからシュマイザーという通称を付けられたマシンガンです。
という事で次回もよろしくお願いします。




