141話 増援車両と接触
おっと、思ったより早い投稿となりました!
('◇')ゞ
そしてとうとう増援が来る時間となってしまった。
「来るぞ、歩兵が下車する前に仕留める。どうせソフトスキンだ、榴弾でいける」
モーレツ兵員装甲車の装甲など、一番厚いところでも10㎜程度。
ならば榴弾でも十分効果がある。
そうなればいちいち標的ごとに弾種を選ばずとも、次弾は常に榴弾となって指示を出す手間が省ける。
それにこの装甲車は兵員座席が剥き出しで装甲などないから、命中しなくても至近弾による破片効果で十分被害を与えられる。
敵増援車両が入って来る入り口は6か所あるうちのどれか。
3両が同じところから入って来るのか、別々に入って来るのかそれはわからない。
モニター本部で監視してもらい俺達は無線連絡を待つほかない。
『お兄ちゃんのスポンジ、こちらウサギの巣どうぞ』
エミリーからだ。
“お兄ちゃんの”はいらんだろ。
なんか変に聞こえるじゃねえか。
「こちらお兄ちゃんのスポンジ、増援が現れたか? どうぞ」
しまった、釣られて“お兄ちゃんの”って言っちまった!
『お兄ちゃん、増援のキョーレツ装甲車がは第一、第三、第四の門に分散して侵入してきたよ』
やはりそうくるよな。
「了解。しょうがない。こちらも分散して各個撃破する。それとキョーレツじゃなくて“モーレツ”な。以上」
モニター本部との無線を切った後、今度は各味方戦車に連絡を入れないと。
「ナミ、無線連絡。第三の門に切り株戦車、第四の門にM5ブレタン戦車を迎撃に向かうよう伝えてくれ。俺達は第一の門の方へ向かう」
これで俺達は戦力を3つに分断することになってしまった。
なんか向こうの作戦にまんまと引っかかってる気がするんだが。
しかしそんな事言っててもしょうがない。
今はこれで行くしかない。
「ソーヤ、第一の門に向かってくれ。敵車両は1両だけだ。さっさと仕留めて第三の門に向かうぞ」
廃墟の街の外に出て直ぐに敵モーレツ兵員輸送車の姿は発見できた。
それもすぐ近くだ。
「10時方向キョーレツ、距離300っ、砲塔回せ!」
「ケン隊長っ、“モーレツ”っす!」
タクめ、いちいち突っ込まなくていいから。
くそ、またエミリーに釣られた!
旋回は手動式なため、砲塔はゆっくりと回る。
ブレタン戦車は電動なのにこんなところで遅れている。
敵もこちらを視認したらしい。
車体前部に搭載する機関銃で必死に銃弾を浴びせてくる。
スポンジ戦車の車体は太鼓の連打の様に激しく叩かれる。
こっちも機関銃を撃ち返したいが、110時方向へ撃つには砲塔の向きを変えないといけないのだがまだ旋回中だ。
ああ~じれったい。
少し走って車体の向きを変えられる地形に出て、やっとスポンジ戦車の正面にモーレツ兵員輸送車を捉えた。
「ソーヤ、停車しろ。全砲門射撃用意。目標正面キョーレツ車」
「モーレツっす。照準よし」
「てっ!」
続いて75㎜砲も通常照準完了で発射した。
しかしだ。
敵もちゃんとこちらを視認しているし、そこらのゴブリンとは違い、しっかりと訓練されているらしい。
危ないと見るや速度を落として走りながら歩兵を下車させていく。
ゴブリン歩兵は地面を転がり衝撃を和らげながら着地し、即座に遮蔽物のある場所へと散って行く。
そこへ37㎜榴弾と75㎜榴弾が着弾して爆炎を上げた。
残念ながら至近弾だ。
それでもその威力たるや、モーレツ兵員輸送車に残っていた剥き出しのゴブリン歩兵を車外へと吹き飛ばし、地面へと叩きつけた。
吹き飛ばされた歩兵はただでは済まされる訳はなく、多少なりとも負傷は免れない。
それでもゴブリン歩兵は必死に逃げ惑う。
そこへスポンジ戦車に搭載されている連装前方機関銃と砲塔機関銃が、ゴブリン歩兵に容赦なく弾丸を浴びせる。
モーレツ兵員輸送車にも多少なりとも被害を与えたらしく動きが鈍い。
これなら止めを刺せる。
俺は目の前にいる37㎜砲装填手のゴブリンの後頭部をパチーンと叩きながら声を掛ける。
「次弾装填急げ、逃げられるぞっ。タク、機関銃で足止めしろ」
言葉の通じないゴブリン装填手は解ったのか解らないのか「ギギギ」と返答する。
砲塔機関銃がノロノロと走るモーレツ兵員輸送車に向かって連続して銃弾を放った。
着弾した銃弾は装甲表面で火花を上げる。
それはまるで花火の様にも見える。
ほとんどの弾丸は弾かれているだろうが、数発でも貫通していればしてやったりだ。
だが、敵も攻撃されっぱなしではない。
下車して生き残った何匹かのゴブリンが反撃してきたのだ。
「11時方向にゴブリン兵、前進、前進しろ。対戦車兵器を持ってるぞっ」
ロケットランチャーらしきものを構えてやがる。
スポンジ戦車が動き出したと同時にロケットランチャーが発射され、砲塔の直ぐ脇をロケット弾かすめていった。
だが、ゴブリン歩兵の反撃はそれで終わりのはずもない。
「1時方向の岩陰、2時方向にもいる。くそ、一旦ここを離れるぞ。各自の判断で応戦しろ。俺も砲塔上の機銃で応戦する」
戦闘中に砲塔ハッチから身を乗り出して、砲塔上の機関銃を撃ちまくるとか普通はやらない。
俺がそれを見たら「あいつは馬鹿か」と言ってやるだろう。
だが!
しかし!
それでも黙ってられない!
この日の為にわざわざ砲塔上に戦車長専用の機関銃を取り付けたのだ。
今撃たないでいつ撃つんだよって話だ。
「おらおらおらおらおらっ」
なぜか、おらおら言いながら機関銃を撃ちまくる俺。
しかし背の高いスポンジ戦車の上から撃とうとすると、比較的近くにいる敵に対しての狙いが付けにくい。
これだと接近されたらなすすべないな。
車高が高いのがアダになったのだ。
平原なら蹂躙してやるんだが、この市街地だと瓦礫が多すぎて身動きができないし、どう考えても市街戦って接近戦だもんな。
タクも必死に砲塔機関銃で撃ちまくっているが、接近されるとやはり撃てないようだ。
「1時方向、ライフルグレネード!」
よけきれない!
操縦手のソーヤが必死に車体を回転させるが、車体後部にライフルグレネードが命中してしまった。
「だ、大丈夫だ。工具箱だ。後退しろ、下がれ、下がれ」
被害はなさそうだ。
でもこのままだとまずいな。
そこで後方の拾い平地まで下がることにした。
「タク、37㎜砲の榴弾じゃ威力が少なすぎる。散弾を使うぞ」
散弾、もしくはキャニスター弾ともいうが、対人用の砲弾でその名の通り散弾を撃ちだす砲弾だ。
ただし射程が短く装甲貫徹力は乏しく、着弾した時の破片効果もほとんどない。
それよりも大変なことに気が付いた。
ミウの命中魔法射撃が余り意味をなさないという事。
標的が生身のゴブリンだと命中しなくても、至近弾だけで75㎜砲クラスなら吹き飛ばせる。
この魔法は対戦車戦で初めて優位に立てる魔法だ。
歩兵相手ではこの魔法の優位性があまりないのだ。
これは思った以上に手こずるんじゃないのか?
不安ばかりが頭の中をめぐるのだった。
敵の増援到着で一気に戦闘シーンへと入っていきます。
突っ込みどころのある個所が色々と出てくるかとも思いますが、そこは軽くスルーしてください。
モーレツ兵員輸送車ですが、元ネタはT‐20 コムソモーレツ装甲牽引車です。
元々が牽引車なので人員への防備が薄いのはその為でしょう。
ということで次回もよろしくお願いします。




