14話 ホーンラビット
「モリじい戦車はどうなった!!」
店の扉を開けての俺の第一声がこれだ。
俺の声に、カウンターの向こう側でノンビリと新聞を読んでいたモリじいが飛び上がる。
「こらっ、年寄りを驚かせるんじゃないわい。心臓が止まるかと思ったわ」
モリじいの言葉をスルーして俺はなおも話を続ける。
「戦車、いや自走砲だったか。出来上がってるんだろ。モリじい、早く見せてくれよ」
モリじいは呆れ顔で裏の整備工場を親指で指し示す。
「あっちじゃ。自分の目で確認せい」
「あ、これの買い取りも頼むよ」
俺は今日のゴブリンの戦利品の入った袋をカウンターに投げると、猛ダッシュで店の裏手にある整備工場に向かった。
するとそこには37㎜砲が載ったガンキャリアーが止まっていた。
俺は感激しつつ自走砲に近づく。
37㎜砲の砲身にそっと手を触れてみた。
ひんやりと金属の冷たさを手の平に感じる。
後部座席に乗り込んでみると、立った状態で射撃の操作はするようだ。
その状態だと前方には盾があるのである程度の破片や銃弾は防げる。しかし横と後ろからは腰から上が無防備だ。
しゃがめば一応車体の装甲板には隠れられる。
しかし戦闘中は丸見えで下手すると狙撃される。
これは戦い方を考えなければいけない。
なんだ?
車体の側面にイラストが描かれている。
角ウサギのイラストだ。
モリじいからのサービスだな、これは。
角ウサギの角は非常に硬く、格上の魔獣の硬い皮膚をも貫けると言われている。
ただしその角攻撃が当りさえすればの話だが。
まさにこの自走砲にぴったりのイラストだな。
砲弾は徹甲弾が10発と榴弾が8発の合計18発しかない。
新しく砲弾を買う余裕もないからな。試射なし練習なしのぶっつけ本番で実戦に挑むしかない。
とりあえずエミリーとミウに合流するか。
俺はさっさと買い取りの手続きを済ませると、意気揚揚と自走砲の“ホーンラビット”を走らせて店を出た。
ハンター協会の建物の裏にある無料駐車場にホーンラビットを止める。そして建物に入る為そこから一番ちかい裏口へと向かう。
するとエミリーとミウがなにやら困った様子でいる。2人は裏口のすぐ近くで壁を背に寄り添うように立っている。
その2人の目の前にはガラの悪そうな男3人が立っている。
その内の1人、なんかリーゼントっぽい金髪の男が壁に片手をついてエミリーと会話をしている。
壁ドンじゃねえか!
俺は急いで壁ドン男の後ろから近づいて、肩を掴もうと手を伸ばす。
「おい、俺の妹に何してんだ――ふげぇっ!」
いきなり殴られました。
リーゼントの男は俺に振り向きもせず、いきなり殴りやがった。
それなのに俺はそれを避けることも踏ん張ることもできずに、両足がふわっと浮いた感じがした。
そしてゆっくりと景色が夕暮れ迫る空を映し出した。
「いってぇぇっ……」
「お兄ちゃん!」
「ケンさん!」
リーゼント以外のもう一人、赤い髪の男が地面に横たわる俺を指差して笑い出す。
「だっせぇ、こいつ。うはははは」
もう一人の坊主頭の男も一緒に笑い出し、俺を見下しながらしゃべりだす。
「かっこわりぃ~なぁ。お兄ちゃんだってよ、こいつ。ぎゃはははは」
リーゼント男が振り向いてしゃべり出す。
「人が女を口説いてる時に邪魔するからだよ。それによお、俺の背後にまわるんじゃねえよ、このチンカスが」
チラッとエミリーを横目で見るが可哀そうな人を見る目。
やめろ、そんな目で俺を見るな。
エミリー、今がスイッチ入れる時だぞ。
ここは意識が失いそうなのをなんとか堪えて、せめてもの反論を返す。
「おろは、ちんかふゅひゃない!」
どうやら今の一発で俺の顔は晴れ上がったようだ。
3人の男は大爆笑だった……
リーゼント男が俺を一瞥する。
「ったく、情けねえ男だな。行くぞ!」
どうやら立ち去ってくれるらしい。
こういう肝心なところではエミリーのスイッチが入らないんだよな。
ただ、とっても悔しかったのが、去り際に坊主頭の奴が起き上がろうと地面に着いた俺の手を蹴り上げやがった。
俺はバランスを崩してくるんと半回転すると、再び地面に転がされるのだった。
その時、思わず俺の口から出た言葉。
「てめえら、覚えてやがれ!」
「お兄ちゃん、その台詞ちょっと違う気がする……」
「ケンさん、その言葉は悪者が逃げ去る時のですよね?」
「……」
俺は敢えて2人から視線を逸らす。
そして2人から見えないところで鬼のような表情をするのだった。
次回、ついに3人となった一行はチームを結成する。
第15話『酔いどれウサギ』は明日の夜投稿予定です。




