136話 一騎打ち
そして95号式ホールが動き出した。
え、まじか!?
てっきり突撃してくると思ったんだが、まさかの全力逃走だ。
当然のことながら薄い後面装甲を丸出しにしてだ。
ちょっと驚いたがすぐに気を取り直して指示を出す。
「タク、あの岩の陰だ。ミウ、いてかましたれっ」
指定した岩に到着する前だというのに、早くもミウが主砲の75㎜砲を発射した。
75㎜砲弾は95号式ホール戦車の車体右側面下部に命中、いやキャタピラ、転輪か?
キャタピラが千切れた95号式ホールは、車体を回転させながらドリフトして、土埃を舞い上げる。
そして左側の側面を俺達に向けて止まった。
車体から外れたらしい転輪が逃げる様に転がり遠ざかる。
「タク、突っ込めっ!」
リミッターカットしてあるエンジンが唸りを上げて車体を急加速させる。
車内では転がらない様に必死に手近なものに掴まる。
排気煙をモクモクと吐きながら十分に加速した3型突撃砲が、95号式ホールの側面に激突する。
激突するときの衝撃は物凄い。
壊れるんじゃないかという様な金属音と衝撃が響き、車内では小さな悲鳴が漏れる。
衝撃で乗員達が自分の前にある機器に顔面を強打したのだ。
「くふっ」
「ぐっっけっ」
「ぬぬっくくぅ」
「ひにゃっほへっ」
95号式ホールは元が軽戦車とあって、いとも簡単にゴロンと横倒しになる。
これなら戦闘続行不可能だろう。
すぐに審判判定で『95号式撃破判定』の連絡が入る。
乗員のコボルトは無事らしい。
血だらけだけどなんとか車内から這い出してきて、緊急退避壕へと向かっている。
虫の息でもポーションがあれば死ぬことはない。
死んでしまった場合でも過去に生き返ったという事例もあるが、それがどういう状態の時なら生き返るのかと言ったことはまだ研究中だそうで解っていない。
しかし余程の事がない限りは死なないという事だ。
それも高価ポーションを安く提供してくれる闘技事務所のおかげだ。
俺達が岩陰に到着すると、1号式チーヘ戦車が視界に入る。
向こうも気が付いて修理していた道具を投げ捨てて、慌てて戦車へと乗り込んでいく。
戦車に乗り込むってことは、まだ戦闘できるのか。
「目標11時方向の1号式チーヘ。車体回せ。魔法射撃用意、距離500。ソーヤ、徹甲弾だ装填急げ」
そして岩陰に3型突撃砲を隠し終わった時には敵の1号式チーヘも動き出している。
といってもその場で何度も旋回を繰り返すだけで違和感が半端ない。
もしかして砲塔旋回できないのか?
「あっちは砲塔旋回装置が壊れてるぞ。ミウ、咬ましてやれ」
するとミウが落ち着いた口調で口を開いた。
「あの、タクさん。ほんのちょっとだけ砲身を左に向けられるように車体を動かしてもらえますか」
これは突撃砲タイプ故の弊害で、普通の戦車ならば砲手が砲塔を旋回して射界を得るのだが、砲塔がない突撃砲ではそれが出来ない。
代わりに操縦手が車体の位置を変えて標的の射線を確保しなければいけないのだ。
突撃砲は砲手と操縦手のチームワークが特に重要なのだ。
タクが微妙に車体の向きを変えるとミウがそれに合わせて微調整して一言。
「完璧です、照準よし!」
「てっ」
75㎜砲弾が1号式チーヘに吸い込まれていく。
そして1号式チーヘの前面に命中した。
しかしだ。
「くそっ、弾かれたぞ。次弾装填急げ。もう一度魔法射撃でいくぞ」
幸いな事に1号式チーヘはまだ照準が定まらないらしい。
そういえば1号式チーヘは前面装甲50㎜近くあったっけ。
改造していたらもっとあるかもしれない。
それだとこの短砲身75㎜砲では至近距離まで近づいたとしても、1号式チーヘの正面装甲は抜けない
となれば側面か後面に回り込むしかないのだが、突撃砲というのはそういう戦闘は不向きである。
前にしか撃てない砲というのは、待ち伏せくらいしか性能を発揮しにくい。
側面に回り込むような戦闘は、砲塔を持たない突撃砲にとっては不利な戦いでしかない。
くそ、どうする俺。
『こちらウサギの巣。モグ、切り株聞こえますか』
エミリーからの無線連絡だ。
「こちら切り株、どうした。今はちょっと忙しいんだが。どうぞ」
『狂犬のメンバーにウサギの巣の場所を発見されたっぽいよ。ハフ、ハフ…さっきからこっちを監視…モグ、モシャ…してるコボルトがいるの。本部移転した方がいいかな?』
そうだな。
汚い手を使ってくる奴らだから、一応安全策を取った方がいいかもな。
しかし変な雑音が聞こえるんだが。
「了解した。至急場所を移動してくれ。くれぐれも気をつけてな。それと変な雑音が混じってるんだが。どうぞ」
『はあい、了解しました。ああ、ごめんね。お腹空いちゃって、今川焼が売ってたから食べてるの、へへへ。きゃっ――ザザザ、ザザッ……』
無線が途切れたと同時に観戦席で爆発が起きた。
エミリー達がいるモニター本部の場所だ。
「エミリー、どうした。応答しろっ!」
返事がない。
『ケンちゃん、大変。モニター本部が砲撃を受けたよっ、どうするの、どうするのよおっ』
敵のモニター本部を監視していたケイからの連絡だ。
「ケイ、落ち着け。すぐ本部に戻って状況を確認してくれ。くそ、どこから撃ってきやがった!」
『多分ね、闘技場にいる97号式チハタンの砲弾よっ』
あの野良犬め、流れ弾を装って本部を砲撃しやがったな!!
ポーション類は沢山持たしてあるんだが、くそ、ここからじゃ何もできねえじゃねえか!
「タク、1号式チーヘの側面に回り込めっ、全速前進!」
するとタクがチラッと俺の方を見るのだが、直ぐに操縦に専念し始める。
突撃砲に不利な戦闘を俺が選んだから心配になったんだろう。
だけど今はそれどころではない。
俺はハッチから身を乗り出して煙が上がる味方本部を双眼鏡で確認する。
エミリー、無事でいてくれ!
誰かがこっちに手を振っている?!
『ケンちゃん、無事よ。みんな生きてるよっ』
ケイの無線で不安だった気持ちが一気に引いていく。
その代わりに今度は怒りが込み上げてくる。
「ぜってえ許さねえっ、ぶっ殺-っす!」
まずは目の前にいる邪魔者を排除しないとチハタンをぶっ殺せない。
3型突撃砲が砲身の延長線上に1号式チーヘを捉える。
残念ながら敵も黙って回り込ませるわけがない。
しっかりとこちらに装甲の厚い正面を向けている。
しかし砲塔は違う方向を向いているからこちらに撃つことは不可能だ。
それならば。
「吶喊!」
俺の号令でエンジンが再びドス黒い煙を噴き上げて突進する。
距離にして400m。
300m
200m
敵が車体機関銃で操縦手用の視察口を狙って撃ってくる。
タクが外していたゴーグルを着けてそのまま操縦を続ける。
全員の緊張が狭い車内から伝わってくる。
嫌な汗がこめかみを流れる。
ミウが堪らず声を上げる。
「ケ、ケン隊長。何時でも撃てますけど……」
「まだだっ!!」
「は、はいぃぃ」
距離100m
「タク、そのままぶち当たれっ」
たまらず1号式チーヘ戦車の乗員が車外へと逃げ出した。
そこへ3型突撃砲が正面からぶちあたった。
無人となった1号式チーヘは後方へ数メートル吹っ飛ぶ。
その後、タクが焦った表情で訴えてくる。
「ケン隊長、今の衝撃で変速機がいかれました」
「まさか走らないのかっ?」
「いや、時速15~20㎞くらいなら行けそうですけど、それ以上はエンジンが持ちません。オーバーヒートします」
「それで十分。進路変更、目標97号式チハタン。徹甲弾を装填しておけ。魔法射撃準備、いつでも撃てるようにしておけよ」
一瞬、返事に間が空くのだが、全乗員から「了解」の返答がある。
チハタンを目指し丘の後ろを通り反対側、つまり味方ブレタン戦車が戦闘している場所へと進路を取る。
このままいけば敵の背後に出ることになる。
つまり挟み撃ちになるはずだ。
しかし敵のモニター本部は健在であるから、当然俺達が丘の左側を突破したことは知っているはずだ。
すると予想通り3号式チヌーが出迎えてきた。
「12時方向500m、3号式チヌーだ。75㎜砲を持ってるぞ気を付けろっ」
先に撃ってきたのは3号式チヌーからだ。
砲弾は3型突撃砲の手前で着弾。
そしてミウから「照準よし」の声が掛かる。
「てっ!」
お互いが移動しながらの射撃である。
普通ならどちらの砲弾も命中はしない。
しかしこっちはミウの命中魔法があるのだ。
「よし、命中!」
しかし75㎜砲弾は正面装甲に命中するが貫通はならず。
くそ、そういえばこいつも前面装甲は50㎜だったか。
そんな時、突然3号式チヌーがこちらに正面を向けて急停車する。
一騎打ちのポジションじゃねえか。
「タク、解ってるよな?」
「で、でも、エンジンが……」
「それがどうした」
タクは黙って敵からから300mほど離れたところに3型突撃砲を移動して、お互いが正面同士になるように停車させた。
一騎打ちを挑んでこられたのだ、応えてやろうじゃないか。
3号式チヌーがエンジンを空吹かしさせているらしくく、排気管からモクモクと煙を噴き上げている。
こちらも負けずにタクがエンジンを空吹かしさせるのだが、エンジンが本調子ではないから煙がしょぼい上にエンジン音がチャチい。
それになんだかカラカラとエンジンから異音がするんだが。
そして先に3号式チヌーが動き出したのだった。
さあて、3式チヌと3号突撃砲の一騎打ちです。
チキンレースみたいなもんでしょうか。
次回は急展開が待っている?!
ということで次回もよろしくお願いします。




