135話 丘の戦い
前進した俺達の3型突撃砲はいきなり集中砲撃を浴びせられる。
じっとして動かなかった敵が急に動き出せば当然そうなるだろう。
しかし人間の身長ほどしかない3型突撃砲を射線に捉えるのはかなり難しいはずだ。
それに俺は視察段階で安全そうな道筋は把握しているから、仮に射線上に捉えられてもそれは車体の部分的なものであって狙って当たるもんじゃない。
戦う場所がわかっているならば、その地形を熟知しておく位の脳ミソは俺にもある。
その甲斐あって敵砲弾はすべて地面に突き刺さるだけとなっている。
その隙に後ろから付いてきた元ゴブリン紅蓮隊の1号車は、一気にブッシュの中に突入して姿を隠しつつ、現在進行形で砲火を浴びる3型突撃砲から徐々に離れていく。
「さすがにこうも集中砲撃されると精神的に良くないな。まさか命中させられるとは思わないけど……」
俺のぽつりと言った独り言にタクが応えてくれる。
「ケン隊長、この位置なら大丈夫ですって」
とタクが言った途端にまさかの命中弾。
ガッキーンッ!
激しい金属音と衝撃が車体を襲い一気に鳥肌が立つ。
すると直ぐに無線連絡が入る。
『お兄ちゃん大丈夫っ、なんか火花散ったよ、火花っ!』
取り乱し気味で無線から聞こえたのはエミリーの声だ。
「くそ、怪我はないか?」
すると全員が怪我無しとの返答。
続いて故障個所の報告をさせるも特になし。
被害なしを確認したうえでエミリーへと無線返答する。
「ウサギの巣、こちら切り株どうぞ」
『お兄ちゃん? 生きてる、みんな生きてるの?』
「ああ、大丈夫だよ。増加装甲のお陰かもしれないね。全員無事、戦車も無事だよ。どうぞ」
『ふ~、びっくりさせないでよねっ。もう、心臓止まるかと思ったぁ。正面に火花散ったんだよ、火花』
正面装甲に命中したようだが、そこには増加装甲を留めてあるし、キャタピラを張り付けてある。
そのおかげなのか、敵砲弾は貫通しなかったようだが、エミリーが火花、火花とうるさい。
いや、まてよ。
火花ってもしかして今回砲弾使用を禁止されてる成形炸薬弾を使ったのか?
奴らならあり得ない事じゃないか。
狂犬チームは汚い手を使うって闘技事務所の人が言ってたし。
少し慎重に動かないといけないな。
「狂犬チームに何か新しい動きはあるか、どうぞ」
『え~、そうねえ。さっき砲弾が命中した一号式チーヘはもしかしたらどこか故障したのかも。かなり後方へ下がっていっちゃったよ……あ、乗員が外に出て何かやってるよ。修理かな』
「エミリー、どこをいじってるかわかるか、どうぞ」
『う~ん、主砲の根本の辺かなあ』
これは俺達が有利になったかもしれないぞ。
主砲が故障なら戦力にすらならない。
上手くいけば3対4だな。
よっしゃ!
「ナミに伝えてくれ。作戦第2段階へ移行する。どうぞ」
『はあい、了解です』
その後、ナミからゴブリン語での指示が飛ぶと、1号車が速度を上げて動き出す。
すると今度は、その動き出した1号車目掛けて敵の砲弾が集中する。
しかし、1号車はジグザクの回避軌道をとっていて、敵砲弾は見事なまでに散らされている。
「ブレタン戦車でもあの動きが出来るんだな。う~ん、ちょっと関心する。さすが元精鋭だな。よし、そろそろ俺達の出番だ。タク、攻撃が始まったら第2ポイントへ移動するぞ」
すぐにタクから「了解」の返事。
続いてモニター本部に連絡だ。
「ウサギの巣、こちら切り株。2号車、3号車の榴弾射撃命令頼む。どうぞ」
『ウサギの巣、了解しました』
その数秒後、ブレタン戦車の2号車、3号車からの榴弾による射撃が始まった。
ポイントは徹甲弾ではなく、榴弾による砲撃というところだ。
距離もあることだし命中は期待していない。
この榴弾射撃はあくまでも牽制射撃であり、敵の意識を逸らすのがねらいだ。
その隙に3型突撃砲を目的の場所へと移動させたいから、その為の援護射撃みたいなもんかな。
2両の戦車が急に猛射撃を始めたから、敵戦車は大慌てで物陰に隠れていく。
思うツボである。
その隙に今いる窪地から20mほど離れた岩影へと3型突撃砲を一気に移動させる。
よし、射撃はこない。
俺はハッチから顔を出して双眼鏡を覗くと、1号車も直線軌道に移行して最短距離を一気に目的の場所まで走りぬいていた。
ただし無傷ではなかったようで、砲塔の横に着弾の跡らしき焦げ跡が見える。
すると直ぐにエミリーから無線連絡が入り、砲塔旋回速度が低下しただけで戦闘続行可能、乗員の負傷もポーションで無事という報告があった。
やはり命中していたようだ。
戦闘続行可能とは運が良い、危ない危ない。
ちなみにポーションは闘技場からの無料支給、といっても使った分だけ代金を支払うシステムで値段も良心的、しかも使わなければ料金は発生しない。
これでだいたい初期配置についたことになる。
闘技場の左右アンブッシュ状態て2号車,3号車を配置。
中央の岩陰に俺達の3型突撃砲。
ちなみの魔法射撃はあと3回、無理すれば4回といったところらしい。
そして俺達よりも前方、闘技場中央にある丘の手前に1号車がいる。
その中央の丘の両サイドには狂犬チームが控えているのだが、顔を出すと俺達の2号車、3号車が砲撃を浴びせるので、迂闊に前へは出られない。
よし、いけそうだ。
「ウサギの巣、こちら切り株。2号車に移動の指示を出してくれ」
『こちらウサギの巣、了解しました』
ブレタン戦車の2号車が動き始める。
その進む方向は3号車がいる右側の丘の端。
それに合わせて3号車と俺達の3型突撃砲が榴弾を使って派手に掩護射撃をする。
榴弾なので戦車に対してはそれほど威力はないのだが、着弾した時は徹甲弾とは違い派手に爆発する。
さすがにその砲撃の中へ戦車を前進させて来る事はないだろう。
まあ、それがこちらの狙いなのだが。
掩護射撃と移動を交互にしながら前進という基本行動なんだが、これがうまい具合にはまったみたいだ。
それに監視部隊が敵の動きをしっかりとモニターしていれば、より正確に移動と射撃ができる。
特別な作戦をやってる訳ではないのだけど、敵さんは何もできないでいる。
『お兄ちゃん、敵に動きありよ。お兄ちゃんから見て丘の左側の95号式は岩陰に隠れたけど、右側の3式チヌーと97号式チハタンが合流したよ。1式チーヘは相変わらず修理中みたいね』
そうか、こっちが右側に2両持って行ったから敵さんもそれに合わせて右側に戦力を集めたか。
それならこっちはこうする。
「ウサギの巣、こちら切り株。聞こえるか。どうぞ」
『何、お兄ちゃん?』
「1号車を丘の右側に掩護に回してくれ。ただし敵を釘付けにすればOKで、それ以上は無茶しないように指示頼む。それと切り株は左側へ行くと全車に報告よろしく」
『了解しましたよ~』
これで丘の右側に我らがブレタン戦車が3両、それに対して敵戦車は97号式チハタンと3号式チヌーの2両となる。
ブレタン戦車といえども3両、それも乗員には精鋭クラスも混ざっているんだから、そう簡単にはやられはしないだろうけど、3号式チヌーの前面装甲50㎜に加えて主砲の75㎜砲は脅威だ。
突破されると一気に俺達は崩れることになる。
「全速前進。丘の左を突破する。徹甲弾を装填しておけ。念には念をで魔法射撃準備。岩陰にあの駆逐戦車もどきの95号式がいるらしい。ミウ、捉えたら射撃していいぞ」
ここへきて、俺達は一気に攻勢に出るのだった。
俺達が丘の左側へと突き進んでいくと、やはりというか95号式ホールとかいう戦車が待ち構えていた。
元は95号式軽戦車のくせに47㎜砲を装備した生意気な駆逐戦車もどきだ。
3型突撃砲が姿を現した途端にその主砲である47㎜砲を撃ってきた。
47㎜砲弾の何発かが頭上を越えて通り過ぎる。
先ほどの命中は恐らくはまぐれであって、この車高が低い3型突撃砲に狙いを着けるのは思った以上に大変なのだ。
「よし、奴の死角に入ったぞ。これであの95号式は前に出るか、逃げるかしか選択肢がなくなったな。あとはミウ、頼むぞ!」
前に出てくるのか後退するのか?
答えは多分前に出てくると思う。
全力で後退した場合は遮蔽物のない場所に車体をさらすことになり、しかも装甲の薄い車体後面をさらすことになる。
バックしながら逃げた場合だと、装甲の薄い車体後面をさらさなくても良いのだが、速度が上がらないから恰好の的になる。
元は軽戦車と標的の大きさは小さいが、ミウの魔法射撃にとって大きさなど関係ない。
どのみちおしまいだ。
なんだ、狂犬とか言っても意外と大したことないな。
俺は自然と笑みがこぼれるのだった。
主人公達がやっと戦車闘技の1戦目に突入です。
お待たせです。
設定資料:
95号式ホール→試製五式四七粍自走砲ホル
当時の資料が少なくはっきりとした仕様や外観が解っていない謎の旧日本軍の自走砲です。
95式軽戦車ハ号の車体を利用して、47㎜砲を搭載した駆逐戦車のような自走砲のようです。
95式軽戦車を利用した改造の構想はいくつかあったようで、当時に95式改造の自走砲を目撃したという情報や断片的な当時の情報もあったりと、どれが本当なのかも明らかになっていないようです。
その為、真の姿も不明となっています。
ということで、次回もよろしくお願いします!




