134話 ファイト!
遅くなりました!
そして、闘技当日の闘技場で両チームの戦車のお披露目、そして軽量やルール違反していないかの審判員による調査が行われている。
この一部始終はもちろん観戦者の前でやる。
といってもこの時点から観戦する人はよほどのめり込んでいる人達で、それほど人数も多いわけではない。
だが人数の割に会話の量だけは多い。
「遠距離でならあれが強い」とか、「接近されたらこっちが有利」や「あの戦車は増加装甲されてるからこっちのほうが有利だ」などと討論は白熱している。
出来れば俺もそれに加わりたいほどだ。
そして仮にこの検査でルール違反が見つかってもペナルティーが課されるだけで、闘技が中止になったりする事はない。
それは審判員による判断による決定が普通だが、場合によってはマッチメーカーの話合いでもまとまる。
それはファイトマネーを余分によこせといった要求や、弾薬の種類や搭載数の制限など多岐にわたる。
そこで俺は見慣れない戦車が目に留まる。
95号式戦車が見当たらない代わりに、突撃砲か駆逐戦車っぽい見慣れない戦車がいたのだ。
もちろん俺は文句を言った。
「おい野良犬ども。貰った資料には95号式戦車って書いてあんだけどさ、どこにもないだろ」
俺がそう言うと、狂犬のリーダーらしい奴が俺を睨みつけてきた。
狂犬チームのコボルト全員が隷属の首輪をしているんだけど、こいつだけそれがない。
雰囲気も他のコボルトとは明らかに違う。
いかにも歴戦の強者らしい面構えで、片耳が千切れていて半分無いく。片目に眼帯までしている。
そのリーダーらしきコボルトは駆逐戦車のような車両を指さして言った。
「これは間違いなく95号式戦車だ。俺達は95号式ホールと呼んでいる」
いやいや、確かに元は95号式戦車を改造してるんだろうけどさ、もはや車体の下部位しか面影がない。
元々あった37㎜砲搭載の砲塔はなくなっていて、車体に直接47㎜砲が付いている。
一見オープントップ式のようだが、開閉式の天板がついてるからオープントップではないのか?
自走砲というか駆逐戦車というか微妙なところだ。
だが、審判員は特に戦力に大差はないだろうと俺の異議は却下された。
意外と適当なんだな!
なんか気分悪いまま計量と調査は終わり、いよいよ闘技の開始となる。
結局エミリーの説得はかなわず戦車の操縦は無理だったけど、観戦席での索敵と無線連絡が仕事である“モニター”という役は引き受けてくれた。
ブレタン戦車は1号車にゴブリン戦車隊長であるタンク曹長を筆頭に、ゴブリン戦闘士の中でも腕利きだけを集めた。
ゴブリン精鋭の“紅蓮戦車隊”の元戦車兵という乗員構成だ。
2号車と3号車へは平均的になるように割り振った。
しかし、全部のゴブリンが元戦車兵という訳ではなく、元野砲部隊や整備兵、それに緊急招集された歩兵などもいて、2号車と3号車は戦力的には若干落ちる。
ゴブリンシャーマン、つまり魔法使いなのだが、割り当てに一番困りました。
ちっちゃいゴーレムが造れる技能なんて必要がない。
歩兵経験もなければ戦車兵経験もない。
しょうがないので、3号車の機関銃手兼無線手の担当にした。
しかしゴブリン軍では少尉という将校の立場だったのが、戦車内では指揮を振るわれても迷惑なので非常に扱いが難しい。
一応は戦車長には逆らうなとは厳命しているんだが。
そしてモニターにはエミリー隊長を筆頭に無線担当のナミ、索敵担当にはケイ、護衛担当にはゴブリン指揮官のリーダー中尉と一等兵や二等兵クラスの元歩兵が3匹だ。
そしてあれよあれよという間に時間は過ぎていき、とうとう闘技開始のサイレンが鳴り響く事となった。
開始と同時に中央の丘を目指して一斉に走り出すというのが定石らしい。
それで後ろを取られない様に丘の両サイドで小競り合いが起こり、チャンスがあれば丘の上を乗り越えようとする。
これがこの闘技場のほとんどの戦い方のようだ。
しかし、ブレタン戦車の速度が余りにもも遅い。
これでも整備したんだけど、良くて30㎞ちょっと、3号車なんか25㎞くらいしか出ないときた。
どんなに頑張っても狂犬チームに先に丘を取られるのは目に見えている。
だったら最初から丘へのダッシュなんかしませんよ。
『お兄ちゃん、こちらウサギの巣どうぞ』
エミリーから無線だ。
モニターは有料の観戦席に“ウサギの巣”というコードネームで本部を設置してある。
有料席の方が対戦相手に襲われる確率も低いだろうという予想でだ。
「こちら“切り株”、感度良好。ただね、無線でお兄ちゃんはやめろ。緊張感が抜ける!」
(“お兄ちゃん”と言われるのは嫌いでは決してない!)
“切り株”と言うのは、今俺達が乗っている3型突撃砲のコードネームだ。
本当は“フラットノーズ”にするつもりだったんだが、エミリーが短い砲身を見て「わー、切り株みたい~」って言い出してしまったからどうにもならない。
その切り株の乗員は、操縦手がタクで装填手がソーヤで砲手がミウ、そして車長が俺だ。
『は~い、了解で~す。それからね、お兄ちゃん達の戦車が丘に進んでこないから敵さん驚いてるよ。あとね、狂犬チームのモニター本部を発見したよ。今はケイが車の中で監視中ね。どうぞ』
なんか呑気というか軽いな。
こっちは命がけなんだけどな。
「了解、何かあったら連絡頂戴。あ、それからブレタン各車にも連絡よろしく。以上」
さて、狂犬チームはどう出てくるのかな。
俺達はというと、スタート地点からちょっと進んだ場所にあるブッシュや岩陰、そして窪地に潜んでジッとしているだけだ。
俺は車体の上に立ち上がって双眼鏡で観察だ。
すると業を煮やしたのか、敵戦車1両が丘の上に登り始めた。
囮だろうな。
こっちに撃たせて正確な場所を探ろうってことだな。
モニターの監視によって隠れている位置はバレても、戦車で狙えるような正確な位置までは無線では伝えられない。
だからと言って下手に探り撃ちでもすれば、途端に発砲炎で自分の居場所がバレてしまう。
それで先に撃たせるために、囮を丘の上にチラチラと姿を見せては隠れるを繰り返す。
動き回っていれば距離も離れている事もあって、そう簡単には当たらないという訳だ。
だがである。
「目標丘の上の戦車、魔法射撃用意。頭を出したところを狙え。距離1200、榴弾装填」
そう、俺達には命中魔法という必殺技がある。
榴弾にしたのはこの距離じゃあどうせこの短砲身だ、徹甲弾では貫徹は無理だろうと思ったからだ。
成形炸薬弾を使えば貫徹出来るんだが、今回の闘技では装甲がそこまで厚い種類の戦車がいない為、対戦車榴弾の類は一切禁止となっている。
ただし、個人携帯火器に関してはその範囲ではない。
それならばと榴弾を選んでみた。
この距離からだと貫徹できない可能性もあるから、それよりも着弾したときの爆発力での被害に期待したいという考えだ。
キャタピラにでも当たれば高確率で移動不能に追い込めるし、上手くいけば爆発時の衝撃で内部機器を故障させることが出来るかもしれない。
ミウがいつもとは違った照準器に戸惑いながらも狙いを定める。
砲兵用の砲隊鏡と呼ばれるカニの目のような照準器を使っているからだ。
ジャンクパーツの山から持って来た予備部品の中に、戦車用の照準器もあるんだが、今回は取り付けてる時間がなかった。
「てっ!」
まるで歩兵砲のように山なりに砲弾は飛んでいき、曲線の頂点を境にゆっくりと砲弾は落下していくかと思われたが、落下の途中にわずかに軌道が変わったように見えた。
否、実際に砲弾の軌道が変わったのだ。
ミウの命中魔法の影響で。
敵戦車は丘の稜線の奥へと後退して俺からは姿が見えなくなったのだが、軌道を変えた75㎜砲弾は俺の双眼鏡の視界外である丘の向こう側で爆発炎を見せた。
すぐにナミの声で無線連絡が入る。
『ウサギの巣より全車へ。命中。繰り返す、75㎜砲弾命中。ギギャ、ギギギ、ギギャアアギギ、ギギ』
後半はゴブリン語だ。
さらに無線連絡は続く。
『命中したのは1号式チーヘ戦車の車体前面、ギギギ、ギギャ~ギャ、ギギャギヤ。敵戦車への被害は……不明、未確認。ギギギ、ギギャギャギャギッギ』
1号式チーヘは即座に丘の後方へと後退していく。
やはり装甲は貫徹しなかったようだが、これでビビって下手に出てこれなくなっただろう。
丘の上に出られると、ほとんどの場所がそこから照準線に入ってしまう。
ただし、敵からも同様だ。
ケイから無線連絡が入る。
『ウサギの巣、及び切り株、こちらケイチャンネル。敵のモニター本部が今の砲弾命中で少し混乱状態で笑える。繰り返す、笑える。以上』
ケイめ、繰り返すところがおかしいだろっ。
と、とにかく敵は動揺しているってことだ。
「切り株よりウサギの巣へ。これより1号車と一緒に前進する」
『ウサギの巣、了解。ギギャア、ギギャギーギャ、ギッギギャギャッ』
ナミによるゴブリン語の指示で1号車も動き出し、俺達の戦車の後ろをついてくる。
そして、戦闘は徐々に過熱していくのだった。
ネットを使い過ぎて制限を受けてたんですが、レンタル・ポケットwifiってやつ利用しました。
しかしレンタルも予約が一杯で、待ちに待ってやっと届いたんですよ。
それでですね、やっとサクサクとPCが動くようになったんでネットゲームをやり始めちまいました。
ウォーサンダーっていうゲームを……
はい、ドはまりしちまいましてね。
小説更新なんて後回しになってしまった訳ですよ。
<(_ _)>
<(_ _)>
<(_ _)>
すいませんっ!
ちょっとだけっという軽い気持ちだったんですよ。
それも何とか落ち着きまして。
ただですね、非常事態宣言解除で仕事が急にハードになり、更新がまた不安定になりそうです。
そんなんですが、次回もよろしくお願いします。




