133話 対戦相手戦車
エッグ・ランチャーの卵型榴弾が、シーマン戦車の砲塔側面に命中して火花を上げた。
「やった、命中だ!」
俺が声を上げるもロジャー大尉は渋い表情だ。
「ダメだ。失敗だよ……」
俺はその言葉の理解に苦しむ。
エッグ・ランチャーがシーマン戦車の砲塔側面に直撃ならば、余裕で貫通できるはずなのに。
どういう事かと直ぐに視線を戻すと、シーマン戦車の砲塔側面に確かに命中はしたのだが、装甲板が焼けこげているだけで特に大きな被害があるようには見えない。
装甲を貫通していない?
どういうことだ?
唯一被害があるとすれば、砲塔側面にぶら下げていた履帯が焼け焦げたというところか。
履帯?
「そうか、履帯に命中してエッグ・ランチャーの弾頭が反応しちゃったのか!」
そうなのだ。
対戦車榴弾、つまり成形炸薬弾というやつは、貫通させたい装甲に直接ぶつけないと効果を完全発揮できないのだ。
装甲と対戦車榴弾の間に履帯があったので、装甲への被害が薄れてしまったということか。
直接命中した履帯はボロボロなんだがな。
そうなるとオグロジャックに残された戦車は20㎜砲のTKG、そして37㎜砲装備の7TTAPの2両のみだ。
どうやってシーマン戦車を止めるんだよ。
と、思っていたらオグロジャックは降伏の道を選んだようで、闘技終了のサイレンが鳴り響いた。
まあ全滅ではないから、また修理すれば闘技に出られるチャンスもあるだろう。
残念だが今回は諦めるしかないという事だ。
すると勝利したシャークスのシーマン戦車の砲塔ハッチが開き、中から人間が出て来て観客席に手を振り始めた。
うん?
見覚えのある顔にあの髪型は……
「あああっ、あいつ金髪リーゼント野郎じゃねえか!」
妹のエミリーもそれに気が付いたらしく、ちょっとうんざりした表情でつぶやく。
「んもう、また厄介なのがこんなとこにいるのねえ……」
そう、そうなのだ。
エミリーに壁ドンしただけじゃなく、いちいち絡んできて俺達の獲物を取ろうとする汚い奴らだ。
確か名前は…ソイヤ?…ウリャ?……セイヤ、そうだ、シャークスのリーダーのセイヤ・シマだった!
あいつら、こんなとこにいやがったのか。
邪魔くさいなあ。
そんな事を考えていると、隣のロジャー大尉の様子が気にかかった。
がっくりとうな垂れて落ち込んでいる様子だ。
やっぱり負けたことが悔しいんだろう。
そんなロジャー大尉がぼそりとつぶやいた。
「勝って新車両購入する予定だったんだがな。今回は未帰還者も出してしまったよ……」
なんでも、戦車の総重量の差がハンデとしてファイトマネーに上乗せされるらしい。
それで重量の軽い豆戦車や軽戦車だけで組んだのか。
それに、どうやら今回の作戦で勝てる自信があったらしい。
それだけに余計落ち込んでいるみたいだな。
だけどああいう戦法は反則ではないだろうか。
聞いてみると、闘技開始時点で戦車に乗っていれば良くて、その後は戦車から降りて戦おうが自由らしい。
その代わり、生身の場合の死傷率は非常に高く、覚悟が必要だそうだ。
オグロジャックは今回死者が出たらしいが、それはすべて兎人の犯罪者なのだそうだ。
しかし折角育ててきた戦車乗りを失うのはやはり悲しいらしい。
そこで死者のカウントについて聞いたんだが、犯罪者や奴隷戦士は死者にカウントされないから死者の公表数は少ないんだそうだ。
だからさっきロジャー大尉は死者じゃなくて「未帰還者」って言ったのか。
なんと恐ろしい事よ!!
エミリー達には黙っていよう……
俺達はなんだか暗い気分でハマンの街中へと戻って来た。
当面の間はお金の節約の為、借りた倉庫で寝泊まりすることにする。
屋根があれば問題ないだろう。
とは言っても倉庫というよりも整備工場に近いので、寝泊まりするには最悪の状況だ。
さすがに女の子達は倉庫の隅にある事務所を使ってもらうけど。
倉庫の隣の土地にはまだ余裕があるから、時間が空いたら居住テントでも張るか。
俺達の試合は3日後だ。
勝てば大金が入るが負ければ少ないファイトマネーに加えて修理代や整備費用、それに搭乗員の治療に給金も考えたらマイナスになる可能性がある。
まあ、その辺のやりくりはケイに任せるけどね。
しかし、なんとしても勝利しないといけない。
大体の地形は解ったから後は作戦だ。
それと闘技前には警備は厳重にしろとロジャー大尉に忠告されている。
対戦チームが相手戦車に破壊工作や情報を調べに来ることがあるらしい。
一試合で何十万シルバものファイトマネーが動くのだからしょうがないのかもしれないし、それがなくなることもないだろう。
ゴブリン戦闘士に交代で見張りを任せて俺達は倉庫内で作戦を練る。
余ったゴブリン達は戦車の整備と掃除だ。
3型突撃砲のお披露目も問題無く終わり、まずは出場する戦車の選定と搭乗員の選別をしなくてはいけない。
「なあ、皆聞いてくれ。俺達“ドランキー・ラビッツ”の闘技の初戦の相手は“狂犬”って言うコボルト種族のチームでね、シマダ一家というマッチメーカーが仕切ってる。汚い手を平気で使うらしいから気を付けろってことだ」
対戦相手の説明に加え狂犬チームが所持してる戦車の種類など、一通りの説明の後に戦車の搭乗員の相談に入る。
出場戦車に関してはスポンジ戦車の修理が間に合いそうになく、結局はブレタン戦車が3両と手に入れたばかりの3型突撃砲になる。
3型突撃砲の短砲身とは言え75㎜砲があれば、狂犬の所有する戦車ならばなんとか対抗できそうだ。
しかし、少しでも生存率を上げるためにも装甲を増加するなりするつもりだ。
といっても余りやりすぎると機動性が急激に落ちてしまって、元々機動性が低いブレタン戦車などは致命的となる。
だから機動を妨げない程度に部分的にでも何かしようとは思う。
履帯はさっき見たみたいに対戦車榴弾に有効だし、命中した砲弾の入射角度を少しでも変えられれば、その履帯の下にある本体の装甲貫徹を防げる場合だってある。
土嚢でもいいのだが、かさ張る上に崩れやすいという欠点がある。
機関銃弾の掃射を喰らっただけでも中身がこぼれだす可能性もあるくらいだからな。
でも最大の利点は安いということだ。
あとは以前にも使った丸太を積む作戦でもいい。
3型突撃砲はエンジンパワーに少し余裕があるから、前面だけでも増加装甲を張り付けて防御力を上げておきたい。
そこでケイが口を開く。
「ケンちゃん、出場する戦車はブレタン戦車が3両と3型突撃砲が1両の合計4両ってことね。私、シマダ一家に無線で連絡入れるよ?」
は?
意味が解りませんが?
「待て、ケイ。何を言ってるか解らんけど?」
「ああ、そう、そうね。ケンちゃんは涎の池を作るので精一杯で話を聞いていなかったから知らないのよねえ」
何、その言い方。
普通に「居眠りしてた」って言えば良いだろに。
ケイの話によると闘技の日までに、出場する戦車をマッチメーカー同士で交渉するんだそうだ。
戦力が違い過ぎると試合にならないからだ。
所持してる戦車の都合で種類を選べない場合は、砲弾を少なくしたり移動範囲を狭めたり、ファイトマネーに差を付けたりと策は色々あるそうだ。
無線での交渉の結果、対戦相手は95号式、97号式チハ短、1号式チーヘ、3号式チヌーの4両となった。
ケイは戦車についてはあまり知識がないから、もちろん最終的には俺が横から助言しましたとも。
あとはエミリーを出場させるためにどうやって説得するかだな!
こうして闘技当日を迎えるのだった。
小説中に出てくる戦車の設定資料
TKGはTKSというポーランドの豆戦車が元ネタです。
TKGが卵かけご飯の略と同じなのは偶然です。
Gの意味は……そう、グレートのGですよ!
(σo ̄)
7TTAPもポーランド戦車で7TPが元ネタです。
似てるけどPPAPとは違いますよ~(パイナッポーペン~♪のあれです)
<( ´ ⌒`)ゞ
4TTAPも同様4TP戦車が元ネタ。
シーマン戦車はM4シャーマンですね。
35型や38型はチェコやドイツのの35(t)と38(t)戦車が元ネタとなっております。
エッグランチャーはパンツァーファウストですね。
ということで次回もよろしくお願いします。




