132話 ウサギVSシャークス
結局俺達は乗って来た乗り物を並べてロジャー大尉達のウサギさんと一緒に観戦することになった。
おかげで色々と解説してもらえて助かった。
闘技開始のサイレンとともに、一斉に両者の戦車が動き始める。
スタート地点はもちろんお互いが別々の場所となる。
スタート地点はお互い3か所あって、一か所からすべての戦車をスタートさせてもいいし、戦車を3か所に分けてスタートさせても良く、それは自由だ。
そして開始のサイレンさえ鳴ればお互い自由に射撃ができる。
勝利条件というのはどちらかが降伏するか、全滅するか、審判がストップするかになる。
最後の1両まで戦闘を続ける事も可能だが、今後も闘技を続ける事を考えると、負けても貴重な戦車や搭乗員は出来るだけ失いたくない。
だから降伏するタイミング意外と早かったりもする。
一応、1両でも破壊、もしくは行動不能にされたらその時点で降伏は可能であるのだが、そんな状況で降伏しようものなら観客から大ブーイングとなり、今後の闘技出場で不利になるという訳だ。
また、撃破判定は審判が判断してくれるのだが、自己申告で白旗も上げられる。
搭乗員の負傷や機器の故障は審判には判断できないからだ。
撃破判定された戦車は出来ればであるが白旗を揚げるのがルールで、それを射撃してはならない。
サイレンが鳴り闘技が始まると専用のチケット売り場は閉まってしまい、勝敗を掛けたチケットは買えなくなってしまうのだが、代わりに裏業界の人達が登場して闇チケットの販売を始める。
それらを眺めていれば、一日で莫大な金額がここで動くだろう事は馬鹿でも想像がつく。
その大金を目当てに各国のハンターや傭兵、さらには軍までが群がっているというのだ。
一攫千金を夢見て地方から出て来て、気が付いたら有り金すべてを巻き上げられてしまって路頭に迷う者。
名前を売り出したくて闘技に出場したはいいが、戦績が上がらず借金ばかりが膨らみ続け、最終的に隷属の首輪のお世話になっている者。
そんな人々が巣食う街。
戦争とは無縁な薄汚れた街である。
また、ウサギのロジャー大尉曰く「各国の軍関係の人が新しい武器の試験やテストパイロットを送り込んでくる事もあるから注意した方がいい」とのことだ。
たくさんの種類の戦車が集まるこの場所は、軍の秘密実験場でもあるという事だ。
闘技開始まもなくして戦闘が始まった。
ウサギさんチームの4TTAP戦車が、闘技場中央にある小高い丘の上に姿をさらしたのだ。
それめがけてシャークスの戦車が一斉に砲撃を始めた。
ロジャー大尉が説明してくれる。
「あれは囮だよ。少しだけ姿を見せて直ぐ隠れる。それで相手に撃たせて位置を確認するんだよ。その情報を観戦席にいる味方が無線で戦車に知らせる。こういった情報戦も重要だから覚えておくと言いよ。だけど観戦席のこうしたモニターを狙って敵の嫌がらせもあるから注意が必要だよ。だからモニターはバレない様に行動しないとダメなんだ。最悪は観戦席で銃撃戦なんてことも起こるからね」
なんと闘技場の観戦席にまで戦いが繰り広げられるのかよ。
これは考えないといけないなあ。
情報戦かあ。
シャークスのチームで一番厄介なのはシーマン戦車だ。
チームのイラストがサメの絵柄のようで、シーマン戦車の車体や砲塔に描かれている。
あのイラスト、どこかで見た事ある気がするんだが。
シーマン戦車の主砲である75㎜砲は脅威だし、50㎜近くある前面装甲も手強い。
そしてウサギさんチームだが、闘技では『オグロジャック』というチーム名を使っているそうだ。
チーム内で一番貫徹力のあるのは7TTAPの37㎜砲なんだが、それではシーマン戦車の全面装甲は撃ち抜けないだろう。
回り込んで至近距離から側面か後面装甲を狙うしかないが、それでもシーマン戦車の装甲は厳しいだろう。
そもそもオグロジャックのチームの戦車が弱すぎる。
すべて軽戦車という選択なのだ。
中戦車までOKというレギュレーションの中では最弱に近い選択だ。
軽戦車縛りのルールならまだ解るんだが、この戦車で良くマッチメークOKしたものだ。
ロジャー大尉に聞いてみると、軽戦車縛りルールだとファイトマネーが安いからだそうだ。
せめて中戦車クラスのファイトマネーが欲しんだと。
そういう問題かよって思うんだが……これは勝負あったな。
シャークスはシーマン戦車を先頭にして、中央の丘を回り込むように前進して行く。
そのシーマン戦車の陰に隠れる様にして35型と38型戦車が追随していき、時折掩護射撃で牽制する。
対するオグロジャックは進行してくる戦車を足止めをしようと、アンブッシュした7TTPとTKGがシーマン戦車の真正面から猛攻撃を始めた。
7TTAPとTKGは停止した状態からの射撃とあって、面白いようにシーマン戦車に命中していくのだが、所詮は37㎜砲と20㎜砲という豆鉄砲である。
シーマン戦車の前面装甲を撃ち抜けるはずもなく、37㎜と20㎜の砲弾は次々に跳ね返されていき、折角のアンブッシュの場所が露呈しまう結果となる。
その頃、中央の丘の反対側に回り込んだシャークスの2型戦車だが、思わぬ伏兵に対面していた。
もう1両の7TTAPがアンブッシュして待ち伏せしていたのだ。
7TTAPの砲塔の37㎜砲が火を噴いた。
その発射閃光で俺もアンブッシュしていた場所を発見した。
2型戦車は回り込もうと丘の側面に顔を覗かせた途端だった。
車体正面にまともに37㎜砲弾を喰らっている。
その一発で2型戦車の砲塔が火柱を上げて空高く舞い上がった。
弾薬が誘爆したんだろうな。
多分だけど、シャークスチームの情報ミスじゃないだろうか。
待ち伏せした車両が小さい事もあって、ブッシュ地帯に入りこまれて追いきれなかったという事だろう。
ここへきて軽戦車という事が有利に働いた訳だ。
丘の上に上がった4TTAP戦車が、シーマン戦車の後ろに隠れる35型及び38型戦車に対して、嫌がらせの様に20㎜機関砲を撃ち込んでいく。
正面でなければ35型や38型の装甲なら20㎜砲でも貫徹可能なはずだ。
ここからでは確認できないけど、恐らく何発かは車内へ飛び込んでいるんじゃないだろうか。
当たり所にもよるけど、例え貫徹できても20㎜砲弾程度では一発や二発で戦車を破壊できるほどの威力はない。
しかし、シャークスの戦車も黙ってはいない。
シーマン戦車の75㎜砲弾が正面の7TTAPの前面装甲を紙の様に貫いた。
正面から入った75㎜砲弾は7TTAPの車体後部側面から突き抜けて、その後ろにあった立ち木をもなぎ倒した。
正にオーバーキルだ。
無残な形となった7TTAPは一瞬で炎を空高く舞い上がらせ、その後すぐに爆発を起こした。
さっきのもそうだけど、今の感じだと搭乗員の生き残りはいないだろうな。
闘技中なんで救命隊も出られないしな。
あれ?
死者はほとんど出ないって言ってなかったか?
大丈夫なのか!?
不安になってきたんだけど。
後でその辺を突っ込んでみるか。
さて、これで3両対3両と数的には五分なのだが、シーマン戦車がある限りオグロジャックが不利というのは揺るぎそうにない。
ここへきて待ち伏せで2型戦車を破壊した7TTAPが、シャークスの後ろに回り込んで来た。
その情報はシャークスの戦車連中にも報告されたらしく、35型と38型が反転するのだが、35型の調子が悪いらしい。
左の履帯が動かないのか、その場で回転するだけだ。
あら、これはもしかするとまだ勝敗は解らないかな。
そんなことを思っているとシーマン戦車が一旦停止し、その場で旋回をして7TTAPが迫る方向に向きを変え始めた。
どうやら20㎜砲しかもたないTKG戦車と4TTAP戦車は無視するようだ。
するとTKG戦車と4TTAP戦車がシーマン戦車目掛けて突進を始める。
破れかぶれで突撃か?
でもさ、突撃しても20㎜砲弾ではシーマン戦車の装甲は撃ち抜けないよ。
しかしだ。
俺の横にいるロジャー大尉がニヤリと不敵な笑顔を見せながらつぶやく。
「まあ、見ててみなよ」
どういうことかと思っていたらTKGと4TTAPのハッチが急に開き、搭乗員が上半身をあらわにし、何かを取り出して構えて見せたのだ。
それはエッグ・ランチャーだ。
棒状の筒の先に付けた卵型の対戦車榴弾を飛ばす、使い捨ての歩兵携帯型の対戦車兵器だ。
TKGはシーマン戦車に出来るだけ接近して急停車。
4TTAPも丘を下りきる前に急停車。
「そういうのありなのかよっ」
俺が思わず声を上げた時にはすでにエッグランチャーは発射された後だった。
卵型の対戦車榴弾は曲線を描いてシーマン戦車へと降り注ぐ。
シーマン戦車は一旦停止してその場で転回中。
つまり恰好の的!
このタイミングを狙っていたのか?!
だがである。
停車しているからと言って、エッグランチャーはそこまで命中率は良くない。
4TTAPの乗員が放ったエッグ弾頭は惜しくも横にそれてしまう。
さらに最悪な事に38型戦車の放った37㎜砲弾が、4TTAP戦車の装甲を軽々と撃ち抜いた。
見た目は被害がなさそうに見えるんだが、4TTAP戦車の乗員が次々にハッチを開いて脱出すると、審判から4TTAPの撃破判定の連絡が無線と場内スピーカーに流れる。
一方、TKGの乗員が発射したエッグランチャーの行方だが、シーマン戦車の砲塔側面に見事に命中したのだった。
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(T_T)
重くて中々アップできません。
誤字修正したくても面倒になるくらい遅いのです。
という訳で次回もお願いします!




