131話 スパナ
しかし、選んでいいと言われたけれど2両ともあまりに酷い状態だ。
そもそもこの状態では動かないんじゃないのか。
確かに戦車を貰える約束はしたのだが、それが「まともに動く戦車とは言っていない」と言われたらそれまでなんだがね。
もしかして俺達は騙されたのか?
そんな事を考えていると、戦車の残骸の一部を捨てに来た若い整備員を発見する。
ちょっと聞いてみるか。
「すいませ~ん、お話を聞いていいですか?」
俺がケイの手を取って大きく振ってみる。
やはり野郎よりも若い女の子からの声掛けの方がいいだろうという俺の気配りだ。
しかし、その後直ぐにケイの殺人右ストレートが俺の顔面を襲う。
するとその若い整備員は残骸をその辺に捨てると、不思議そうな表情で答える。
「なんだ君たちは? もしかして戦車を受け取りに来たって言う戦車乗りなのか?」
「いででで……ふぁ、ふあい、そうなんでふ。ふぉれでこの戦車――」
俺が質問をしようとするも立て続けにその整備員は言葉を続ける。
どうやら俺がケイに喰らった殺人パンチに関してはスルーのようだ。
「へええ、君達なのか。ゴブリンの大隊を2階建て戦車1両で撃滅したっていうあの凄腕戦車乗りは。いや~若いとは聞いていたけど、思ってた以上に若いんだな。はははは」
ふへ?
2階建て戦車でゴブリン大隊を撃退?
いやいや、そこまで大部隊でもなかったよな。
中隊くらいじゃなかったかな。
でも2階建て戦車ってスポンジ戦車の事だろうな。
まあ、大方間違ってはいないか。
でも俺達の噂が広まってるってなんか嬉しいな。
「いやあ、大したことないですよ。ちょっと本気出しちゃいましたけど。あ、それでここに置いてある戦車なんですけど、ちゃんと動くんですよね?」
機嫌を良くした俺は鼻血を拭いながら笑顔で応えると、整備員も笑顔で応えてくれる。
「もちろんだよ。掃除してないから見てくれは酷いけどな、中身は万全に整備してあるからしっかり動くよ。ああそうか、どっちか選んで持って帰るんだったよね。ポーションあるけどいる?」
うん、突っ込みどころは満載だけど、話の解りそうな人みたいだな。
「それで戦車闘技で使うつもりなんですけど、どっちがいいと思いますか」
すると整備員。
「それだったらⅢ型突撃砲の方なんだけどな。一号式自走砲はオープントップだから闘技には向かないよ。仮に出場したとしてもだ、市街戦だったら上方から機関銃掃射されて乗員は全滅って事にもなりかねないよ。でもなあ、3型の方もこの主砲だとちょっと力不足なんだよな。相手が魔獣だったら問題ないんだがなあ。レッサーポーションで1本900シルバ」
そうなんだよな。
今、目の前にある3型突撃砲の主砲は短砲身の75㎜砲で24口径しかない為、初速が低くて威力は低いし命中率も悪い。
対戦車戦闘には不向きという訳だ。
これだとスポンジ戦車の75㎜砲の方が威力が高いかもしれないな。
なんで長砲身じゃないんだよと思うんだが、長砲身だったらこんなところでガラクタ扱いされてないよな。
恐らくこの雰囲気だと、戦場で回収してきた戦車を修理して、闇ルートで売って利益を得てるんだろうな。
それの売れ残りかな。
中央から離れた地方の軍は結構いい加減ということだ。
だからといって一号式7糎半自走砲、通称一号式自走砲はオープントップ式、つまり天井がない。
手榴弾を投げ込まれて破壊という結果や、ピストル1丁で乗り込まれて制圧、なんてこともあり得る。
対戦相手が歩兵を出すなら出場させなきゃいいんだが、そんな用途限定の戦車を保持しておけるほど俺達に余裕もない。
やはり選択肢はⅢ型突撃砲しかないか。
「やっぱりそうなりますよね。それではこちらのⅢ型突撃砲を貰います。あの、砲弾とか予備パーツとか貰って行っても良いですかね?」
「うん、まあ大丈夫だろう。勝手にその廃品の山から探して持ってってくれ。車内に隠すか車体に取り付けておけばごまかせるだろ」
やった!
これはラッキー、言ってみるもんだな。
早速ガラクタの山を漁り始める。
ちゃんとこの戦車のまわりには、同じような系統のパーツが集められているらしい。
お決まりのキャタピラや転輪、それに取り付けできるか解らんがキューポラや砲隊鏡やらその他もろもろ、これらをエンジンルームの上に山積みして強引にワイヤーで縛り付けた。
はい、バレバレでございます。
ついでに小物も漁る。
やった、34型軽機関銃じゃねえか!
お、40型短機関銃もあるぞ!
いろいろと貰ってきましたです、はい。
しかしどれも修理は必要そうだ。
そして引き渡しの説明を聞くんだが、スパナヘッドに怖い事を言われた。
「エンジンはリミッターカットしてるから気を付けんだぞ。全開で吹かしたりすると、最悪キャタピラが外れるかオーバーヒートするからな」
「えっと、それってスピードでいうとどのくらい出るってことですか?」
すると禿スパナがキラリとスパナを煌めかせながら言った。
(注:ここで間違えない様に。煌めいたのは歯ではない、スパナだ!)
「平地なら時速60㎞は超えられるぞっ」
なんと恐ろしい。
エミリーのリミッターが切れたら時速80㎞は出すってことじゃないか。
戦車のエンジンスイッチは解放しないでほしかった……。
こうして俺とケイはなんとか戦車を貰い受けて戻ってきた。
もちろん積んだパーツはすべて貰ってきた。
残念だったのは長砲身75㎜砲のパーツがなかったことだ。
ウサギさんに借りた倉庫にⅢ型突撃砲を置いて、スタッフカーで街の郊外の待ち合わせ場所に向かうことにするのだが、倉庫がでかいのに驚かされる。
戦車10両くらいは入るんじゃないだろうか。
それに機材もそろっている。
怖くて賃料は聞けなかった。
そして待ち合わせの場所である、ハマンの街の郊外へと向かう。
到着するとナミの指揮の下、しっかりと訓練をしていた。
意外としっかりできているんで驚いたんだが。
といっても教えられているゴブリン戦闘士達は、元はと言えば軍隊にいた者達だから当たり前なのだが、ある程度の隊列行進や武器の扱いなど問題ないようだ。
だけどこの間まで命を掛けて戦っていた敵兵を従わせているのだ。
いかに隷従の首輪が凄いってことなんだと思う。
それでは休憩がてら皆で戦車闘技を見に行きますか。
俺達の対戦場所と同じ丘陵平原地帯を使った闘技がもうすぐ始まるはずだ。
地形の下見を兼ねて見ておかないとね。
さすがに砲弾が飛び交う戦いとあって街からは離れている。
街とすべての闘技場は線路で結ばれているんだが、魔獣が出没する可能性もあるので装甲列車だ。
もちろん俺達は自前のトラックとスタッフカーで向かう。
闘技場へ到着すると、街から離れてるせいか土地も広く使えるようで、駐車スペースは無駄にだだっ広い。
そして闘技会場というのはなんと巨大なクレーターだった。
クレーターの中にできた自然な丘陵平原を闘技場としているのだ。
そしてクレーター外縁の高くなった部分に建物が幾つかあるのだが、それらすべてがトーチカの様に堅強な造りで、防弾ガラスの窓がはめられた観戦部屋になっている。
ただしこちらは有料ゾーンである。
無料の観戦ゾーンもあって、こちらは壕が掘ってあるだけで、その中から観戦することになる。
無料ゾーンには乗り物のまま観戦できる場所もあって、そこには爆風避けの土嚢が積まれた駐車スペースがあるだけである。
もちろん闘技中に於ける負傷などは一切自己責任であり、敷地内の至る所にその注意書きが掛かれている。
闘技場内の平原にもいくつか高い建物があるが、それは審判用の武装した建物で、いざとなったら高い位置から砲撃できるようになっているようだ。
さあてと、俺らも観戦場所へと行きますか。
もちろん無料ゾーンの乗り物で見るとこです。
ゴブリン戦闘士にも闘技を見せる為、16匹すべてのゴブリン戦闘士を引き連れて来たので俺達は結構な大所帯なんだが、周りを見ると他にも団体のような人達が結構いる。
種族も様々である。
「あれ、見覚えのある兎人がいるんですけど」
俺の視線の先にはロジャー大尉と部下数人が何か話をしている。
へえ、彼らも無料観戦ゾーンなんだな。
早速声を掛けてみると、ロジャー大尉の養成所に属するチームが出場するという。
しかも次の闘技試合だ。
レギュレーションは中戦車1個小隊以下と、俺達の今度戦う初戦のレギュレーションと同じだ。
これは見ておかないとな。
ウサギさんチームの戦車はTKGと7TTAP2両に4TTAPを加えた合計4両、それに対して対戦相手というのはシャークスという人間チームだという。
車種は2型戦車に35型戦車と38型戦車、そしてシーマン戦車の合計4両だ。
シャークスって何か聞いたことある名前のような……。
そして、けたたましいサイレンの音を合図に闘技試合は始まった。
ちょいちょい修正しています。
あれ、こんな設定だったか?というのがあったらそれは「作者の我がまま」と思って諦めてください。
<(_ _)>
ということで次回もよろしくお願いします。




